蒼雪の魔術姫   作:藍間道逸

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◆前回までのあらすじ
 学校の帰り道、魔術士『宮本千織』に襲われたシヲリだが、ルシャによって一命をとりとめた。


第2章 5日目「犬猿の仲」 上節「明けの挨拶」

 

 焦点が定まらず、思考が覚束ない。

 まだ2時間は寝足りない証拠だ。

 

 ……なんだか、最近はこればかり言っているような気がする。

 

 それでも学校に向かうため、電車に乗る。

 乗ろうとして、固まる。

 

「………………。」

「………………。」

 

 固まって、考える。

 

「………………………………………。」

「………………………………………。」

 

 考えて,足を引く。

 すれば、

 

『ドアが閉まります。ご注意下さい』

 

 そう、アナウンスが鳴るものだから、僕は隣の車両に乗り込んだ。

 

「なんで車両変えたんですか、先輩。」

 

 乗り込んだら、隣の車両からおっかない後輩が追いかけてきた。

 

 

 改札を出てすぐの横断歩道が、タイミング悪く赤になったから止まる。

 

「怪我は、もう大丈夫なの?」

 

 一見、どこも怪我はないように見えるものの、制服の下から包帯が垣間見えた。

 

「……やっぱり、先輩は変です。」

「ただ心配しただけなのに……。」

 

 謂れのない悪口に、肩を落として、青に変わった横断歩道を歩く。

 朝日がでたばかりの通学路。

 いつも通り、あたりにまだ人気は少なく、昨日雨が降ったからか、心なしか空気が湿っている。

 

「普通、自分を殺そうとした人間を、心配なんかしません。」

「そうなんだ。」

「はい。」

「まぁ、今は多様性の時代だから。それに、君が僕を殺したいようには見えなかったしね、やっぱり心配することにするよ。」

 

 なにせ、文字どおり吹き飛ばされるほど殴られていたから、あの惨状を見て信頼をするなという方が無理だ。

 それが、可愛い学校の後輩なら尚更。

 しかしそれが宮本さんは気に入らないらしく

 

「……そういうところです。」

 

 嫌なものを見る目で、僕を見ていた。

 

 

 それから、どこかぎこちがない間をそのままに僕らは校門をくぐった。

 それもそうだ。

 殺そうとした人と殺されかけた人。

 まともでいろという方が土台無理な話だ。

 

「では……、昨日は、すみませんでした。」

 

 僕は2年だから3階だが、彼女は2階のため、階段の踊り場で宮本さんがぺこりと、頭を下げて、背を向ける。

 

 静かな声が耳を掠めた。

 どうしてからその背中はいつもより小さく見えて、

 その時、どうしてか嫌な予感がしたんだ。

 そしてその予感は、最近よく当たる。だから、

 

「宮本さん!」

 

 呼びかけに応じて彼女は足を止める。

 

「また、放課後ね。」

「え、あ、その……は、はい。また。」

 

 目を丸めてこちら見る宮本さんを見て、僕は少しだけ安心して教室に向かった。

 

 

 チラリと机の下でスマホを見る。

 

 ……2020年12月23日、木曜日。

 

 学校も明日で終わり、となればルシャと朝から過ごすことになるわけで、

 

 ……どこいうかな。

 ……何しようかな

 

 そんなことばかり考えている自分に、呆れて笑いがでる。

 冬休みを明日に控えた、退屈な授業はゆっくり流れていく。

 

 教師も教師でどこか適当で、生徒は勿論形だけ整え、とうにもぬけの殻である。

 そんな気だるい空気の中、ふと、あの夜のことを思い出す。

 ルシャと出会った、夜のこと。

 

 彼女と交わした契約――願いの交換。

 彼女の願いはただ1つ、

 

『私を楽しませて。』

 

 頭を抱える。

 本当に意味不明すぎる。

 簡単そうに見えて、あまりに難しい願い。

 

「はぁ……。」

 

 目的も不明、達成手段も不明、おまけに達成したかどうかも彼女による主観ときた。

 これでは、契約の果たしようがない。

 それに加えて、さらにたちが悪いのは

 

 ……ひゅう、と。

 そんな考えを遮るように、開けた窓から冷たい空気が差し込んだので、窓を閉めた。

 

 

「と、いうわけなんだよね。だから宮本さん、今年の終わりまで、僕を殺そうとするのやめてくれないだろうか?」

 

 なんてことを考えていた、放課後の図書室。

 僕はそう、宮本さんに打ち明けることにした。

 素直に、明快に、そしてあまりに情けなく僕は『どうか見逃してほしい』と伝えることにしたのだ。

 

「……………。」

「ダメかな?」

 

 情けなく、宮本さんを盗み見る僕に対し、宮本さんは目を丸めるだけ。

 この半年間、あまり情緒が豊かな子ではないと思っていたから、こうしてみるとあんがいわかりやすくて可愛いな、なんて場違いな感想を自重する。

 

「ふふ、やっぱり先輩は変わりものです。」

「そんなことはない、僕は普通さ。」

「普通な人は、自分のことを普通とはいいません。」

 

 それなら、普通でいるためには、自分をどう自称すれば良いのだろうか。

 そんな屁理屈は喉元で飲みこむ。

 

「少なくとも、君よりは普通だよ。魔術士だの、殺しだの、ルールだの、上だの、そんな単語が出てくるような世界に、僕はいない。」

「でも、私たちの世界では、それが普通です。」

「………それを言われると、僕にはもう打つてがないな。」

 

 そんなこと分かっている。

 普通なんてものは、極めて相対的なものでしかないのだと。

 100人いれば100個の普通があるのだと、そんなこのは分かっている。

 

 だから、押し付けてはいけない。

 自分が普通だと思っていることを人に押し付けることは、ただの略奪となんら変わらない。

 だから、住み分けている。だから、グループがあり、組織があり、国があり,世界がある。

 無闇に立ち入ってはいけない、それだけのこと。

 ただ、

 

「踏み込んだのは、僕の方か。」

「……そうですね。言いづらいですが。」

 

 読んでいた本を止めて、大きくため息をつく。

 そうなのだ、あの夜、その普通を逸脱したのは僕な方だ。

 それが今更、どのつら下げて、関わるなと言っているのか。そんなことは百も承知だったにも関わらず、見て見ぬ振りをして、気づかないふりをして、何もないことを夢見ていたのは僕の責任だ。

 

 だけど、それでも僕は頼むしか他がない。

 そんな情けない僕に、宮本さんはペンを置いて僕を見た。

 

「条件があります。」

「僕の嫌いな言葉だ。」

 

 それと約束。

 最近は、契約という言葉も僕の嫌いな言葉辞書に追加されたっけか。

 

「条件があります。」

「はい。」

 

 有無を言わさぬ静さんの言葉。

 それはそうだ、この場において僕に立場などない。

 緩やかに流れる図書室の時間。

 今日も今日とて、人は誰もおらず、今日に限ってはそれが妙に恨めがましい。

 

「先輩をつけ回してる、あの女と関係を絶ってください。」

 

 そんな中、あくまで真剣な顔つきで、文字通り有無を言わさぬ形で、宮本さんはそう言った。

 その条件に対して僕は

 

 ――すぐに答えることが、出来なかった。

 

 自分でもびっくりした。

 この後にも及んで、まだ迷うのかと。

 そして

 

「せんぱ――」

「なんでそれを、貴方に決められなければいけないのかしら?」

 

 それは、限られた選択肢の中でもっとも最悪な選択であったということは、どうやらもう後悔しても遅い。

 

 




 どうも藍間です。おはようございます。
 この度は、5日目を読んで下さりありがとうございます。
 気まずそうにしている宮本さん、だけどシヲリ君に優しくしてもらえてまんざらでもないけど、その優しさに付け込んでいる自分に嫌気がさしている宮本さん、可愛いですね。
 
 閑話休題。
 もしこの物語が『面白い』『続きが気になる』と思っていただけましたら、評価や感想をいただけますと、筆者が狂喜乱舞します。
 ですので、よければお願いします。

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