蒼雪の魔術姫   作:藍間道逸

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◆前回までのあらすじ
 学校の帰り道、魔術士『宮本千織』に襲われたシヲリだが、ルシャによって一命をとりとめた。


第2章 5日目「犬猿の仲」 上節「明けの挨拶」

◆

 

 焦点が定まらず、思考が覚束ない。

 まだ2時間は寝足りない証拠だ。

 

 ……なんだか、最近はこればかり言っているような気がする。

 

 それでも学校に向かうため、電車に乗る。

 乗ろうとして、固まる。

 

「………………。」

「………………。」

 

 固まって、考える。

 

「………………………………………。」

「………………………………………。」

 

 考えて,足を引く。

 すれば、

 

『ドアが閉まります。ご注意下さい』

 

 そう、アナウンスが鳴るものだから、僕は隣の車両に乗り込んだ。

 

「なんで車両変えたんですか、先輩。」

 

 乗り込んだら、隣の車両からおっかない後輩が追いかけてきた。

 

◆

 

 改札を出てすぐの横断歩道が、タイミング悪く赤になったから止まる。

 

「怪我は、もう大丈夫なの?」

 

 一見、どこも怪我はないように見えるものの、制服の下から包帯が垣間見えた。

 

「……やっぱり、先輩は変です。」

「ただ心配しただけなのに……。」

 

 謂れのない悪口に、肩を落として、青に変わった横断歩道を歩く。

 朝日がでたばかりの通学路。

 いつも通り、あたりにまだ人気は少なく、昨日雨が降ったからか、心なしか空気が湿っている。

 

「普通、自分を殺そうとした人間を、心配なんかしません。」

「そうなんだ。」

「はい。」

「まぁ、今は多様性の時代だから。それに、君が僕を殺したいようには見えなかったしね、やっぱり心配することにするよ。」

 

 なにせ、文字どおり吹き飛ばされるほど殴られていたから、あの惨状を見て信頼をするなという方が無理だ。

 それが、可愛い学校の後輩なら尚更。

 しかしそれが宮本さんは気に入らないらしく

 

「……そういうところです。」

 

 嫌なものを見る目で、僕を見ていた。

 

◇

 

 それから、どこかぎこちがない間をそのままに僕らは校門をくぐった。

 それもそうだ。

 殺そうとした人と殺されかけた人。

 まともでいろという方が土台無理な話だ。

 

「では……、昨日は、すみませんでした。」

 

 僕は2年だから3階だが、彼女は2階のため、階段の踊り場で宮本さんがぺこりと、頭を下げて、背を向ける。

 

 静かな声が耳を掠めた。

 どうしてからその背中はいつもより小さく見えて、

 その時、どうしてか嫌な予感がしたんだ。

 そしてその予感は、最近よく当たる。だから、

 

「宮本さん!」

 

 呼びかけに応じて彼女は足を止める。

 

「また、放課後ね。」

「え、あ、その……は、はい。また。」

 

 目を丸めてこちら見る宮本さんを見て、僕は少しだけ安心して教室に向かった。

 

◆

 

 チラリと机の下でスマホを見る。

 

 ……2020年12月23日、木曜日。

 

 学校も明日で終わり、となればルシャと朝から過ごすことになるわけで、

 

 ……どこいうかな。

 ……何しようかな

 

 そんなことばかり考えている自分に、呆れて笑いがでる。

 冬休みを明日に控えた、退屈な授業はゆっくり流れていく。

 

 教師も教師でどこか適当で、生徒は勿論形だけ整え、とうにもぬけの殻である。

 そんな気だるい空気の中、ふと、あの夜のことを思い出す。

 ルシャと出会った、夜のこと。

 

 彼女と交わした契約――願いの交換。

 彼女の願いはただ1つ、

 

『私を楽しませて。』

 

 頭を抱える。

 本当に意味不明すぎる。

 簡単そうに見えて、あまりに難しい願い。

 

「はぁ……。」

 

 目的も不明、達成手段も不明、おまけに達成したかどうかも彼女による主観ときた。

 これでは、契約の果たしようがない。

 それに加えて、さらにたちが悪いのは

 

 ……ひゅう、と。

 そんな考えを遮るように、開けた窓から冷たい空気が差し込んだので、窓を閉めた。

 

◆

 

「と、いうわけなんだよね。だから宮本さん、今年の終わりまで、僕を殺そうとするのやめてくれないだろうか?」

 

 なんてことを考えていた、放課後の図書室。

 僕はそう、宮本さんに打ち明けることにした。

 素直に、明快に、そしてあまりに情けなく僕は『どうか見逃してほしい』と伝えることにしたのだ。

 

「……………。」

「ダメかな?」

 

 情けなく、宮本さんを盗み見る僕に対し、宮本さんは目を丸めるだけ。

 この半年間、あまり情緒が豊かな子ではないと思っていたから、こうしてみるとあんがいわかりやすくて可愛いな、なんて場違いな感想を自重する。

 

「ふふ、やっぱり先輩は変わりものです。」

「そんなことはない、僕は普通さ。」

「普通な人は、自分のことを普通とはいいません。」

 

 それなら、普通でいるためには、自分をどう自称すれば良いのだろうか。

 そんな屁理屈は喉元で飲みこむ。

 

「少なくとも、君よりは普通だよ。魔術士だの、殺しだの、ルールだの、上だの、そんな単語が出てくるような世界に、僕はいない。」

「でも、私たちの世界では、それが普通です。」

「………それを言われると、僕にはもう打つてがないな。」

 

 そんなこと分かっている。

 普通なんてものは、極めて相対的なものでしかないのだと。

 100人いれば100個の普通があるのだと、そんなこのは分かっている。

 

 だから、押し付けてはいけない。

 自分が普通だと思っていることを人に押し付けることは、ただの略奪となんら変わらない。

 だから、住み分けている。だから、グループがあり、組織があり、国があり,世界がある。

 無闇に立ち入ってはいけない、それだけのこと。

 ただ、

 

「踏み込んだのは、僕の方か。」

「……そうですね。言いづらいですが。」

 

 読んでいた本を止めて、大きくため息をつく。

 そうなのだ、あの夜、その普通を逸脱したのは僕な方だ。

 それが今更、どのつら下げて、関わるなと言っているのか。そんなことは百も承知だったにも関わらず、見て見ぬ振りをして、気づかないふりをして、何もないことを夢見ていたのは僕の責任だ。

 

 だけど、それでも僕は頼むしか他がない。

 そんな情けない僕に、宮本さんはペンを置いて僕を見た。

 

「条件があります。」

「僕の嫌いな言葉だ。」

 

 それと約束。

 最近は、契約という言葉も僕の嫌いな言葉辞書に追加されたっけか。

 

「条件があります。」

「はい。」

 

 有無を言わさぬ静さんの言葉。

 それはそうだ、この場において僕に立場などない。

 緩やかに流れる図書室の時間。

 今日も今日とて、人は誰もおらず、今日に限ってはそれが妙に恨めがましい。

 

「先輩をつけ回してる、あの女と関係を絶ってください。」

 

 そんな中、あくまで真剣な顔つきで、文字通り有無を言わさぬ形で、宮本さんはそう言った。

 その条件に対して僕は

 

 ――すぐに答えることが、出来なかった。

 

 自分でもびっくりした。

 この後にも及んで、まだ迷うのかと。

 そして

 

「せんぱ――」

「なんでそれを、貴方に決められなければいけないのかしら?」

 

 それは、限られた選択肢の中でもっとも最悪な選択であったということは、どうやらもう後悔しても遅い。

 

◆

 




 どうも藍間です。おはようございます。
 この度は、5日目を読んで下さりありがとうございます。
 気まずそうにしている宮本さん、だけどシヲリ君に優しくしてもらえてまんざらでもないけど、その優しさに付け込んでいる自分に嫌気がさしている宮本さん、可愛いですね。
 
 閑話休題。
 もしこの物語が『面白い』『続きが気になる』と思っていただけましたら、評価や感想をいただけますと、筆者が狂喜乱舞します。
 ですので、よければお願いします。

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