シヲリを襲った宮本千織と、年末までという期限付きで停戦を約束しあった3人。
その内容に納得がいっていないのか、どこか不満げのルシャにクリスマスイブの日、二人で出かけようとシヲリは誘った。
◆
気づけば、ここにいる。
蒼い夢。
赤い鳥居。
その先をくぐれば、いつもそこには君がいた。
「ーーーーー。」
君の声はいつも聞こえない。
僕の声も届かない。
「ーーーーーー、ーーーーーー。」
「ーーー、ーーーーーーーー。」
その肌は冷たくて、
僕を映すその瞳がいつも悲しくて、
夢の中の僕はいつも、何かに怒っている。
「」
白銀色の髪が、僕に触れる。
くすぐったくて、どこか懐かしい。
夢はいつも、ここで終わる。
◆
「泣いてるの?」
目を開けて、真っ先に映ったのは愛らしい少女の顔だった。
こうして近くで顔を見ると、本当に整っているなと感心する。
きめ細やかな肌。
長いまつ毛に縁取られた双眼。
その双眼に浮かぶ、目を惹く鈍色の瞳。
「シヲリ?なんで黙ってるのよ。」
「………いや。慣れって怖いな、と今しみじみと思っていただけだ。」
「やっぱりシヲリは変ね。」
絶対に君だけには言われたくない。
そんな思いと共に、僕はゆっくりと体を起こす。
服の襟で、自分の瞼を擦る。
後ろから視線が飛んできているのが妙に恥ずかしくて僕は洗面台に急いだ。
「はぁ。」
あの夢を見るとき、僕は決まって涙を流す。
理由も分からなければ、その原因となる夢の内容すら今となっては曖昧だというのに。
◆
「じゃ、行きましょうか。」
駅前。
いつもの黒基調の服とは違い、現代のカジュアルな服装という、いつもとは違う装いのルシャ。
確か、ニットワンピ、とか言うんだっけか。
「……何よ?」
「い、いや。いつもと服装が違うから少し驚いた。」
「あぁ、これ?」
そう言って彼女はワンピースの裾を持って、僕に見せてくれる。
ワインレッドの服に黒のロングスカート。
ブーツにこれまた黒いレザージャケットという服装は、彼女の綺麗さを際立たせていた。
「いいでしょ。どう?似合うかしら?」
思わず見惚れている僕を、覗き込むように見るルシャ。
その瞳に映る、自分の姿がどうにも間抜けに見えて、目を逸らす。
「あ、あぁ、うん。いいんじゃないかな?」
「そ。それなら良かったわ。こうしてオシャレすることなんて今までなかったから、少し不安だったのよ。」
語尾に音符でもついているそうな、喜びに富んだ声音。
彼女はそう言って上機嫌に鼻歌を口ずさみながら、歩き出した。
その後ろを僕は続く。
「てか、そんな服持ってたんだね。てっきりいつものあの服しかないのかと思ってたよ。」
「いーえ?私の服はあれしかないわよ?」
「え?じゃあその服は?」
「マミがくれたの。」
本日2度目の衝撃。
思わず口が開く。
マミさん、こんな服持ってたんだという驚きもあるがそれよりも
「いつの間にそんなに仲良くなってたんだ?」
「別に仲良くなんかないけど。」
「仲良くない人に服なんか渡さないし、ましてや貰わないだろ。」
「……そういうものかしら?」
「そういうものだよ。」
どうにも納得がいかないのか、うんうんと唸るルシャ。
しかし、考えてみればルシャはマミさんの家で寝泊まりしているのだ。
それが1週間ともなれば、そりゃあいやでも会話はするかと納得する。
依然としてそれがどうして、服をあげる貰うの話になったかは謎だが、自由奔放なマミさんと、傍若無人やルシャだ、そこは考えるだけ無駄であろう。
なんて
「何か、失礼なこと考えてない?シヲリ。」
そんなことを考えていればいつのまにか、目を薄く細めたルシャがこちらを見ていたので、
「そんなまさか、」
とだけ、平静を取り繕って返しておいた。
◇
そして、電車揺れること30分。
ここら辺で最も栄えているであろう駅で降りる。
「わぁ……凄い人ね。」
もはやすし詰め状態の車内から、ようやく外に出る。
息も絶え絶えな僕に対して、ルシャは喜色を含ませて辺りを見渡していた。
「まぁ、クリスマスだしね。」
「へぇ〜、内心疑い半分だったけど、ほんとにみんな遊びに出てるのね。」
……ふふ、変なの。
と。
口に手を当てて、笑うルシャ。
彼女に取ってはクリスマスを祝う習慣がどうにも不思議に見えるらしい。
確かに文化も違えば、国も関係ない場所でクリスマスをイベントごとにするのは変な話ではある。
が、しかし。
「結局みんなイベントがしたいんだよ。遊ぶ口実、騒ぐ理由。それがあるんだったら多分、別にクリスマスじゃなくたって良くて、この時期はたまたまそれだったってだけだろうね。」
「またシヲリが屁理屈を言ってるわ。……って大丈夫シヲリ?なんか体調悪そうだけど」
「屁理屈も理屈だよ。あとごめん。この近くに珈琲屋があるからそこで少し休んでもいいかな?」
デート開始早々のギブアップ宣言。
いやはや、我ながらダサいし申し訳ないとは思うが、思った5倍くらい人が多くて、目が回ってしまった。
「え、えぇ、勿論よ。どうする?おぶさってあげましょうか?」
割りかし本気で心配してくれるルシャに感謝だけ伝えて、膝から手を離す。
「いや。今更格好つけるわけじゃないけど、こんな大衆の面前で女の子におんぶされてる所なんて見られたらこう、僕の男の子としての何かが失われるからそれは勘弁してくれ。」
「でも、体調悪いのよね?その男の子としての何かってそれよりも大事なことかしら?」
「あぁ、大事なことだね。」
断言する僕。
そしてそれを不思議に見つめるルシャ。
側から見ればかなり滑稽な2人なんだろう。とふと思う。
「そ。なんだかよく分からないけどそういうものなのね。」
「うん。僕にも一体何でかよくわからないけど、これはそういうものなんだよ。」
少し話して楽になった僕は気丈に振る舞って、歩き出す。
流石にここは知らない場所だからかルシャも我先にと歩き出すことはなくて安心する。
少し人酔いしただけだから、喫茶店で休めばすぐに回復するだろう、そう思って近くのお店に向けて歩を進める。
そして、いざ喫茶店に入れたのはそこから1時間と30分がすぎた頃であった。
このクリスマス、こんな人混み。珈琲屋が空いているわけもなかったのだ。
◇
それから、珈琲屋で少し休んだ僕たちは、特に目的も無く、当てもなく、その辺りをぶらぶらと歩いた。
最初は、彼女の希望に応えてゲームセンターに入った。
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
コインを入れる音と、クレーンが商品を滑る音。
そのたびに僅かにルシャの喉が鳴る。
「…………。」
「…………。」
それが5分ほど経ったくらいだろうか、怖いほどに黙々とコインを投入し続けるルシャに少しだけ怖くなって声をかける。
「る、ルシャ?」
「取れるわ。」
「え?」
「シヲリにはわからないでしょうけど。今もうつかめてるのよ。あと少しなのよ。」
「…………。」
気迫にも近い、何か。
それを感じて僕はもう少しだけルシャを見守ることにした。
それから、彼女の動作の一切が停止するのは10分とかからなかったのは言うまでもない。
「る、ルシャ?」
「…………、……。」
「あの、よければ、取ろうか?」
そういえば、しばし固まっていたルシャは、そっと横にずれる。
どうしていいか、わからず僕はただ恐る恐る横に立ってコインを5枚入れる、理由はそうすると6回できるからだ。
そもそもこういうクレーンゲームはだいたい1回でできるようには設計されてはいないのは見ればわかる。
……がこん。
という音が僕らの間で鳴ったのはそこから3回やった後であった。
「…………。」
よくわからない動物。
それを手にもつ僕と、無言で見つめるルシャ。
どこか悲しそうにすら見えて、僕はゆっくりとぬいぐるみを彼女に差し出した。
「い、いる?」
しかし彼女は首を横に振る。
言外にそれは貴方のよ、と言わんばかりだ。
だから、余った三回でもう1匹取れないかな、とだめもとでチャレンジしてみることにして
「ど、どっちがいい?」
結果、とれた。
わかるこれが、そういうことではない、というのは僕にもわかる。
しかし、取れてしまったのは仕方がない。
「…………。」
「る、ルシャ?」
静かに僕の手にある二つのぬいぐるみを見つめるルシャ。
虚空を見つめているようにも見える瞳。
普通に怖い。
そして、刹那。
ぼくが持っている真っ黒のぬいぐるみのほうだけを取り上げて、悔しそうにぬいぐるみをぎゅっとした。
……どこを、とは言うまでもあるまい。
そして僕の手には白色の方が残ったのであった。
◇
どうも藍間です。おはようございます。
この度は6日目も読んで下さりありがとうございます。
物語は折り返し地点に立ち、ここからは終わりに向けて進んでいきます。
閑話休題。
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