蒼雪の魔術姫   作:藍間道逸

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◆前回までのあらすじ
 ルシャとの約束を果たし、1日ルシャと外を満喫したシヲリは後日、宮本千織から呼び出された。


第2章 7日目「選択肢」 上節「12月25日」

 

 曇天。

 重々しい雲の下、僕は待ち合わせ場所で本を開く。

 約束の時間までは、まだ30分ある。

 集合時間より早く来てしまうのは僕の悪い癖なのだ。

 早朝も早朝、朝の冬の駅のホーム。

 宮本さんが来たのはそれから、15分ほど過ぎて少し寒いな、とそう後悔していた頃。

 

「おはようございます先輩!」

「おはよう宮本さん」

「す、すみません、遅れちゃって……っ」

「いやいや、まだ15分前だから全然だよ。僕が先についてただけだから謝らないで」

 

 上がった息が、空気を白くさせていて、慌てさせてしまったかと反省する。

 そんなことより。

 一体、今日僕は生きていけるだろうか、なんて物々しいことを考えていたから、宮本さんの服装に、少し拍子抜けする。

 

「どうしたんですか?」

「いや、宮本さんは休日でも制服着るんだなぁ、と思って。」

「へ、変……ですかね。」

「いや、僕としてはいつも通りを感じられて凄い落ち着く。」

 

 そう言うと、宮本さんは一瞬驚いたように目を丸めて、すぐにはにかみながら笑った。

 

「それなら、良かったです。

 

 刹那に流れる、何とも絶妙に気まずい雰囲気。

 一応、こういう時のために会話デッキは用意してあるのだが、なぜか今回は上手く引き出せなかった。

 

「じゃ、じゃあ、いきましょうか。」

「あ、うん!そうだね。」

 

 そんな雰囲気は電車が止まったことにより流れていって、僕らは2人電車に乗り込んだ。

 だからか、この時の僕に、どこへ行くのか、という思考をする余裕はどうやらなかったらしい。

 

 

 それから、僕たち2人は心ゆくまで何故か1日を楽しんだ。

 

「ここは?」

「本屋さんですね。」

 

 店内は暖色に染められているお洒落な場所。

 見るところによると、珈琲屋と本屋が兼ねられているらしい。

 

「いいね。凄い良いところ。」

「でしょう?私もずっと気になっていたんです。でも1人で入る勇気はなくて。」

「それで、僕を?」

 

 何とも引っ込み思案な静さんらしい意見だな、と思っていたら宮本さんからすわったジト目を向けられる。

 

「な、何かな?」

 

 何事かとそう聞き返すも、宮本さんは拗ねたようにそっぽを向くだけ。

 

「………いえ、何でもありません。さ、早く中に入りましょう。」

「ふむ。また何かやらかしたのだろうか僕は」

 

 ボソリ、小さな背中を見つめてそうつぶやくも

 

「覚えてないなら別に良いんですよ。ほら、先輩、飲み物、どれにしますか?」

 

 その呟きはしっかりと聞かれていたらしい。

 

 

 次に来たのは大きなショッピングモールだった。

 静さんの謎の不機嫌は先ほどの珈琲屋兼本屋にてデザートをたべたら回復したらしく、現在も心なしか上機嫌に見える。

 

「ウィンドウショッピングというものを、してみたくて。」

 

 そんなに、顔に出ていただろうか。

 疑問を抱くよりも早く静さんが答えてくれる。

 

「ウィンドウショッピング?」

「はい、こうやってお店に並べられているものを見ることを言うそうですよ。」

 

 そう説明しながら、彼女はゆっくりとお店を回る。

 その際、回るお店が所謂アパレルショップが多いのに気づいた。

 

「宮本さんは服が欲しかったりするの?」

 

 そう言うと、宮本さんは照れたようにはにかんだ。

 

「あはは、気づいちゃいました?」

「やっぱり宮本さんも、服とか小物は好きなんだ。」

「好きというのはちょっと違うんですけど、ちょっとした憧れみたいなものです。」

 

 宮本さんはそう言うと立ち上がり、またお店を出る。

 

「憧れ?」

「はい、前に私の家神社なんですよ、って話したじゃないですか?」

 

 それは、半年ほど前に聞いた話で、僕はなんとか思い出し、首を縦に振る。

 

「それで、家には和服しか置いなくて、だからこういった、ひらひらとしたと言うんでしょうか?洋服みたいなのは持ってなくて、それで」

「なるほどね。……でも今時和服なんて珍しくない?奥ゆかしい宮本さんにはピッタリだと思うけど」

「え、そ、そうですか?わ、私も別に和服が嫌いというわけじゃないんです、ただやっぱり友だちと遊ぶ時はどうしても浮いちゃうじゃないですか?」

「あはは、確かに今時和服で歩く人は珍しいもんね。そっか、だから今日も制服なの?」

 

 休日に、それも女の子が珍しいな、とも思ったがどうやらしっかりとした背景があったらしい。

 なんて。

 そんなことを話していると、奥の方からとことこと眩しい店員さんが歩いてきて、声をかけられる。

 

「ご試着なされますか?」

「え、あ、いえ。買うわけじゃないので大丈夫です。」

「いえいえ、別に買わなくてもいいですよ、ただご試着なされるだけでも、お客様凄くスタイルいいですしきっと似合いますよ!」

 

 凄い。

 恐らくこれが陽のオーラというものなのだろう。

 どちらかと言えば、陰の者な僕らはその勢いに呆然と口が空いたままになる……というのは冗談で、宮本さんは困ったように僕に視線を投げてきていた。

 

「(助けて下さい,先輩)」

 

 こう見えても、宮本さんとは半年以上の付き合いだ。

 こういう時、宮本さんが何をしたいか何となくわかる気がして僕は

 

「なら是非試着させて貰うといい!」

 

 だからこそ。

 出来る限りのスマイルでそう言った。

 

 無言の空気。

 その空気を破ったのはやはり陽気な店員さんで

 

「そういうことなら行きましょう、折角なら靴とかも合わせちゃいましょう、あ、これとかどうですか?」

 

 そそくさと、宮本さんの手を引いて奥へと連れて行ってしまった。

 その後ろ姿に、満足感を感じながらも僕もはぐれないように、しかし邪魔しないように後ろに着いていく。

 

「ほら、この帽子とか、合わせるのが難しいんですけど、お客様ならきっと似合いますよ、一緒に被ってみますか?

「(先輩のばかぁぁぁあああ!)あ、そ、それなら、はい」

 

 まるで仲の良い友人のようにキャッキャしている女子2人を見て、僕は何だかいたたまれない気持ちになって、席を外すことにした。

 ぶらぶらと、店内を見回る中遠くの方で楽しそうな声だけがかすかに聞こえる。

 

「よし、それならこれで行きましょう!それにほら、すごく似合ってたら彼氏さんが買ってくれるかもしれませんよ!」

 

 この距離では何を話しているか周りの雑音で聞こえないが、どうやら微笑ましい会話をしているらしい。

 あ、宮本さんの顔が耳まで真っ赤に。

 

「か、彼氏じゃ、」

「あらあら、まだそういう関係ですか?いいですねぇ、1番楽しい時期じゃないですか!」

「そ、そういうのじゃ、」

「ほらほらそういうのはいいですから、早く着替えてきちゃって下さい。」

 

 背中を押されて試着室に入る宮本さん。

 たまたま近くにいただけだったのだが、はたと店員さんと目が合って

 

「お客様もどうぞこちらの椅子でお待ちください。」

 

 全力の営業スマイルで、ソファを指示された。

 特にやることがあったわけではなかったので、僕は言われるがままに椅子に座る。

 

「……。」

 

 先ほどの雑音はどこへやら。

 妙に落ち着いた店内に、目の前の試着室から聞こえる微妙な衣擦れの音が心地悪くて意味もなく目を背ける。

 そんなこんなで3分ほど経った後

 

「せ、先輩?いますか?」

 

 と、小さな声で聞こえたものだから、

 

「うん、居るよ〜」

 と返す。

 

「き、着替え終わったんですけど」

「え、あ、そうなんだ。……その、どう?」

「え、あ、そ、そうですね。確かに服はすっごく可愛いんですけど、私には可愛すぎるかも知れません」

 

 そう言われて、先ほど手に持っていた服を宮本さんが着ているところを想像する。

 

「そ、そうなんだ。そんなことも、なさそうだけど……。」

「あ、ありがとうございます。」

「…………………。」

「…………………。」

 

 き、気まずい。

 こういう時どういう答えが正解なのか、どう会話するのが最適なのか、あまりに経験が薄い僕にはわからない。

 体感としては30秒ほどの沈黙の後

 

「じゃ、じゃあ着替えますね。」

 

 そう、宮本さんが告げた。

 是非とも、着替え終わった静さんも見てみたかったが、僕から見して、というのもどうかと思い願い虚しく……そう思っていたところ思わぬアクシデント(彼女からしてみれば)が起こった。

 

「あ、着替え終わりました?じゃあ開けますねぇ〜」

 

 そんな軽快でポップな言葉と共に、いつの間にか帰ってきていた女性店員がカーテンを開いた。

 そして、そのカーテンの先には、

 

「ーーえ?」

 

 物語のヒロインが、そこにはいた。

 白色のリブニットに灰色のふわりとしたロングスカート。

 決して、派手なわけではないその装いは宮本さんの可憐さをさらに魅力的に見せてくれていた。

 

「………。」

 

 突然のことで大きく目を見開いて、フリーズしている宮本さん。

 しかしすぐに現状を理解し、意味がないことなど分かっているであろうに、両手を顔に当ててその紅潮した頬を隠す。

 

「………な、何か言って下さい。」

「え、あ………その、似合ってる、と、思う、ます。」

 

 冬らしい、服装から僅かに覗く肌は、心なしか少し赤くほてっているように見える。

 こんな時、もっと気の利いた言葉を言えれば良いのだろうが、現状、これが僕の精一杯らいし。

 しかし、それでも彼女は満足してくれたらしく。

 ちらりと、顔を覗かせて

 

「ほ、本当ですか?」

「……うん。凄い似合ってる。」

 

 それを最後に、凄い勢いで宮本さんはカーテンを閉めてしまった。

 突如、訪れる沈黙。

 ふと、女性の店員と目が合う。

 

「どうなされますか?」

「……買います。」

 

 この時、僕はこれ以外の選択肢があっただろうか?

 まんまと嵌められた気がしないでもないが、不思議と悪くは無かった。

 

 




 どうも藍間です。こんばんは。
 この度は、7日目を読んで下さりありがとうございます。
 宮本さん、やっぱり可愛いですね。普通にシヲリ君を殺そうとしていたのに、こういううぶな反応を見せるのがギャップ萌えです。

 閑話休題。
 もしこの物語が『面白い』『続きが気になる』と思っていただけましたら、是非評価や感想の方をよろしくお願いします。
 やる気が、でます。

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