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その男は、不思議な男だった。
身長は170センチに届くかどうかというところ、太っているわけでもなく、かといってがりがりなわけでもない。
髪は混じりけの無い黒色で、目にかかる程度まで無造作に伸ばされている。本人はどうにも自分のことになると卑屈になるが、別に顔も不細工というわけではなく、シンプルな顔だちで着飾ればだれか好きになってくれるそうな人がいそうなほど。
普通を着飾った、異質な人。
それが私の彼の第一印象だった。
彼との出会いは、私が教会を抜け出けだして、半月が経った頃だった。
出来心と、少しの願いだけで外にでた。小さい頃から、教会内ですごした私にとって外はととても刺激的で、心が躍るものだった。
そして自分の価値も理解せずに外に出た私を待っていたのは、手痛い仕打ちであった。
気付けば、魔術士に囲まれていて、酷い重傷を負った。なんとか撃退しながらも、逃げ続けて、これで最後か、というときにその魔術士の首から上は消えていた。
はじめて見る死体。
首から噴き出す鮮血は、とても奇麗で思わず見入ってしまった。
そんなとき、彼が現れた。
彼は、私を見ていた。
肌が粟立った。
もう、存在感なんてほとんどないはずの私をしっかり見て……泣いていた。
たまたまなのかもしれない。
何かの間違いかもしれない。
でも彼は私を認識してくれたいた。
見たところ魔術士ではない。
なら、消さないと。
だけど、そんなことは無理だった。
私の中のナニカが弾けて、あふれた。
嬉しかった。
でも、それで終われなかった。
そんな彼に、私は興味を抱いてしまった。
生れて初めて抱いた。人に好奇心を抱いた。
名前は、黒上シヲリというらしい。
――そして。
私は1つの欲望にかられた。
そんな彼と共に私は、さいごの時間を過ごすと決めた。
その選択は間違いではなかった。
彼を思って過ごしたこの四日間はとても楽しいものだった。
だからこそ、これ以上は、迷惑をかけてしまうかもしれないから、少し早いけど、今日終わらせてしまうことにしたのだ。
シヲリはとても優しかった。
退屈を嫌う私に、彼が語る普通は理解できなかったけど、それでもそれを彼が大事にしているのは分かった。
そんな彼が大事にしているものは大事するべきだとも、大事にしたい、と私は思った。
だから、これでさいご。
「さぁ、ゲームをしましょう。シヲリ。」
これから、私はそんな彼に殺される。
その瞬間を、きっと彼はわすれない。
私の肉を裂く瞬間を、私と過ごした時間を、そして私という存在がいたことをきっと、彼なら覚えていてくれる。
だからこそ、ここが最適だった。ここが私の死に場所だ。とそう決めた。
◆
「最後に、ルールの確認だけ、いいか?」
屋上からシヲリが私に話しかける。
私は魔術を使って音を届けられるけど、彼は魔術士でないからそうはいかない、目測一五メートルほど先の彼の言葉は風に遮られて、上手く聞き取れないけど、声を張り上げてくれているおかげで問題なく聞こえる程度にはあった。
「いいわ」
それは、きっと最初の契約のことを根に持っての事だろう。
彼はことあるごとに詐欺だ詐欺だ、と言っていたから。
「お前は俺、……殺せば、……、なんだよな?」
「えぇ、そうよ。ちなみに、今度は逃げられるとは思わないでね。私も貴方を殺しに行くから、全力で貴方も私を殺しにきて。」
ゲームの公平性を保つため、私が出せる魔術の出力はかなり抑えられているけど、それでも彼を殺すくらいはなんてないほどにはあった。
そんな私のはったりを聞いて、何を思ったのか。非常に気になるが、ここからでは彼の表情はうまく読み取れない。
それから、彼はしつこいほどにルールは確認してきた。彼が案外細かいところまで気にする人間なのはこの数日を通して分かってはいたが、これにはさすがに私も思わずうんざりするほどにしつこくて、必然、語気が強くなる。
「ねぇ、いいのかしら?この毒の効力はもって30分よ?あなたは説明確認で、この子を殺すつもり?」
これは彼も効いたのか、先とは打って変わって少し低い声でこれで最後だ、と私に言う。
いい。彼からの殺気と怒りがひしひしと伝わってきて、それがあまりに私にとって心地の良い物だった。
この感情は、教会にいるときは知らなかった。こんなことなら、もっと早く抜け出しておけばよかったとも思るし、同時にこれがさいごでよかったと思う。
いつもなら鬱陶しいであろう、自分の中に生まれた二つの矛盾、それすらも愛おしいとおもえる私はきっとハイになってしまっているのだろう。
「僕の勝利条件は、君を出し抜いて……、宮本さん、をきづつけるか、もしくは、君、……、きづけることで間違いないな?」
「えぇ!だからそう言ってるじゃない!」
もとより、こんかいのこのゲームにおいて私は彼を騙すつもりはない。私が悪いと言えば悪いのだが、シヲリからのあらぬ疑いはあまり気持ちがいいものではなく、乱暴に会話を切り上げる。
それを私が怒っていると勘違いしたのか、かれは「そうか」とだけ言って、校内へと入っていった。
彼が校舎に入ったことを確認して私は、ん、と両指を絡ませて高く上げ、一度大きく伸びをする。
「さぁてと!鬼ごっこの始まりね。」
これからのことを思うと足取りは軽く、思わず口調も明るくなる。
そして私は、本校舎へと続く扉を開いた。
◆
――今、彼は何階にいるのだろうか。
うす暗い廊下を抜けていく中、ふと彼のことを考える。
蛍光灯は無論ついているはずもなく、窓から入る星明りと所々光る非常口の看板、消火器の位置を知らせる明かりだけがわずかに廊下を照らしている。
今校舎には私とシヲリだけ。
足を止め、息を潜めても、音は聞こえない。
うるさいほどの静寂は自分の心臓の音が鮮明に聞えるほどだ。
この感じだとシヲリはしっかりと物音を消しているらしい。
彼がどういう作戦でこのゲームに勝とうとしているかは分からないが、私は気にせず散歩でもするかのように1階をぐるり、と1周する。
大きな食堂。
校長室、と書かれた部屋にはよさげ椅子と机、その隣は会議室と円形の机が置かれていた。他にもトイレや職員室という場所もあった。
普段、彼はここで生活をしているのかと思うとどうしてか、少し興味がわいたのだ。
そして一階は見終わり2階の階段へと差し掛かる。
本当はこの校舎以外の所も見て回りたいがそうもいかない。
「さて、そろそろシヲリに出会えるかしら。」
私はわざと、階段をならしながら2階へと上がる。
きっと彼のことだ、私の足音を聞いて、きっと彼も警戒している。
それでいい。私がまずやるべきなのは、彼に私を殺す以外の選択などないのだと諦めてもらうことだから。
故に、2階からは念入りに捜索していかなければいけない。
「ふふ、どうしてかしら、案外楽しい物ね。」
2階のトイレの中、鏡に写る自分は楽し気に笑っていた。
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