蒼雪の魔術姫   作:藍間道逸

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◆前回までのあらすじ
 契約を果たすために、学校へと赴いたシヲリとルシャ。
 ルシャの要望通り学校見学を2人でしたシヲリであったが、その最後にシヲリはルシャから契約を果たすための手段を聞く。
 自分が死ぬか。
 宮本千織を見殺しにするか。
 それとも、ルシャを殺すか。
 提示された3つの選択肢を聞き、シヲリはゲームを開始した。


第3章 9日目「衝突」 承節「遊戯」

 

 靴を脱ぎ、どう降りていこうかと考えて4階で隠れる中、突如として大きな声が校内に響いた。

 校内放送を伝って響くルシャの声。

 しかし、今この学校にそんな機能が果たせるわけがなく、また彼女もその機能を理解しているはずもない。

 だとすればこれも魔術かと辟易とする。

 魔術を使えるルシャに対して、使えないだけならまだしも、魔術で一体何ができるのかすら知らないのはかなりの不利条件で、思わず頭を抱える。

 

「今、私2階にいるのだけれど。1部屋ずつしっかりと探していこうと思うの。」

 

 わざわざ自分の居場所をばらすルシャ、何が目的かは分からないが、それは僕にとっては落ち着ける材料になった。

 もし魔術とやらで、位置を探索されて瞬間移動でもされたらたまったものじゃないと思ったがどうやらそこまで無茶苦茶なことはできないらしい。

 しかし、そんな安堵も次のルシャの言葉でかき消される。

 

「でも、一度探した部屋に入られるのはさすがに私の不利だし、なにより面倒くさいから、一度探した部屋に入ったら探知できるにしておくから、気を付けてね。」

 

 4階の階段降りた直ぐの教室で隠れながら、内心で思わず悪態をつく。

 不利もくそもあるか、絶対面倒くさいが主な理由だろ、と。

 

「しかし、困ったな。

 それなら時間をかければかけただけ、不利になるのは僕……でも、探知に引っかかるのは部屋に入ったとき、か。」

 

 つまり探したのに、見つけられなかった場合は、見逃されるということだ。

 未だかつてないほどに僕は僕の勝利条件のために頭を回し、そして考えがまとまったのち、最初の教室をでた。

 

 足音が聞こえる。

 鼻歌と共に、次々と開けられていく扉の音。

 本当に気が狂いそうなほど怖かった。

 

 ――本当に、どこのホラーゲームだよ。

 

 音を消し、息を潜める。

 ばくばくと早鐘を打つ心臓をなんとか落ち着けようとするも、一向に収まってくれる気配はない。

 そして、僕が潜んでいる教室の扉が開く。

 隠れたのは、ただの空き教室だった。

 机と椅子は一個ずつしかなく、後はロッカーがあるのみ。

 

「……♪。」

 

 綺麗な音色のメロディーが耳に届く。

 

「ここでは、なさそうね。」

 

 あらん限りの力で口を抑える。

 耐えろ、耐えろ僕、と自分に言い聞かせる。

 どうやら考えは上手くいったようだ、下手に隠れるところがあると、ルシャはきっと警戒する。

 だから一見、なにもないところの方がかえって捜さないだろう、と思っていたのだ。

 

 そしてそれは、功をなした。

 後は、どうやって下の階までいくか、というところだけ、……そう、考えていた、その瞬間。

 

「なんてね。」

 

 小鳥が鳴くように優しく呟かれたその言葉に、僕は強烈な防衛本能を感じて、横に飛ぶ。

 先まで僕がいた方向から、モノがはじけるような騒音。

 そこには、一体どれほどの力でなぐったらそんなことになるのか、完全にひしゃげた、スチール製のロッカーと

 

「随分さがしたわ、シヲリ。さ、殺しあいましょう。」

 

 凄惨な笑みを浮かべた白色の死神が、そこにいた

 どうやら、死神はかくれんぼは終わりみたいで、鬼ごっこがご所望らしい。

 

 

 ごしゃ、という音と共にすぐ横の木製の机が文字通り木っ端になる。

 人生で聞いたことがない音だが、破壊という概念を音にしたら、きっとこんな音なんだろうと思うほどには惨たらしい。

 

 それを見て僕は、あらん限りの力で地面を蹴り、その場を脱出する。

 そうでもしないと、数舜後には、自分がああなってしまう。

 こんな時期だというのに、背中を伝う汗に嫌気がさしながらも、見失わなわないようにルシャを視界に入れる。

 見る限り余裕綽々と言った様子に、思わず舌打ちが出る。

 

「くそっ、これのどこが公平なゲームだよ、無理げー過ぎるだろ!?」

「失礼ね。これでも大分、力は制限されているのよ?それに、状況が悪いというなら、それはあなたが下らない勝ち方にこだわってるからじゃない。」

 

 一定の間合いを図りながらも徐々に後ろに下がっていく。

 

 ……ここも、ダメか。

 

 障害物を使い、なんとか教室を出ようと画策する。

 ルシャが考えていることは分かる。

 なにせ彼女は特別なことは何もしていない、ただ単に僕の後ろを追いかけてくるだけ。欺けば簡単に引っかかるし、口車にたやすくのってくれる、だというのに、圧倒的な力の前でそれらが全て無力化されているだけのこと。

 なんと、悲しきかな。

 とりあえず、逃げなければ、という一心で出口に差し掛かったところで、左腕をルシャに捕まれる。

 

「――っな!?」

 

 まるで体の一部をひっかけたみたいに右腕を持っていかれた僕の体は勢いあまって宙にうき、彼女はそんま僕の体に片手をそえ

 

「そぉ、っっれぇ!」

 

 なんて、可愛らしい掛け声とともに、文字通り僕を投げ飛ばした。

 視界が一回転し、日常では考えられないほど飛ばされた僕は、そのままガラスを突き破り、教室のそとに放り出され廊下の壁に激突する。

 

「……痛ぅ。」

 

 頭を抑えて、苦悶に呻く。

 背中と後頭部を強打し、意識が飛びそうになる。しかし皮肉にも、その痛みによってなんとか意識がつなぎ止められる。

 

「ほら、シヲリ。よけないと死んじゃうわよ!」

 

 明減を繰り返す視界の端、拳を振りかぶるルシャの影。

 決死の判断で、咄嗟に頭を下げる。

 同時に、バン。という音と共に後ろのガラスが粉々になって廊下に散らばった。

 その光景に、唖然と口を開く。

 ボロいし老朽化は進んでいるとはいえ、学校のガラスだ、学校用とはいえ強化ガラスを素手で殴り壊す女なんて、あまりに馬鹿げている。

 

「ご、ゴリラかお前は……。」

「なっ!!?なんてこというのあなたは!魔術が制限されているから身体能力しか使えないだけよ!失礼ね!」

 

 そうは言っても、素手で強化ガラスを粉々にするような奴は、人間かゴリラかでいえば、どちらかと言えばゴリラよりには違いないだろう。

 しかし、今の。

 確実に避けなければ、自分に直撃していた、あれが自分の頭に突き刺さるかとおもうとゾッとしない。

 

 しかし、彼女はどうしても僕を下の階へと下ろすつもりはないらしい、そこまで慌てて僕を追うわけではないが、階段へはどうしてもいかせてくれない。

 

 ……そう言うことならば、仕方がない。

 

 本当は、できるだけ使いたくなかったのだが、勝利条件は何も宮本さんを助けるだけではない。

 そう決意して、僕は再び走り出す。

 

「まだ、逃げるの?」

 

 無様に背中を見せて逃げる僕の後ろを、ゆっくりと歩いて近付いてくるルシャ。

 

 ……あぁ、助かる。

 

 彼女は完全に僕を舐めている。そしてそのおかげで、その限りにおいて僕にはまだ、勝機が残されている。

 

 

 校内を走り回り、後ろにルシャの姿が見えなくなったところで、僕は家庭科室に逃げ込み、息を殺す。

 そして入ってすぐに、僕は横へと張り付く。

 これはゲームだと、彼女は言った。そして勝利条件は、あくまで彼女を傷つけること。

 

 ……なら。

 

 と、ゲーム開始前に確認した、彼女とのやり取りを思い出しながら、耳をすませる。

 あと五秒後には彼女がここへ、入ってくるだろう。チャンスは一度。仕掛けも、この教室以外にはしてない。

 機を逃せば終わり、何か一つでも僕がミスしても終わり、ぼくの賭けが外れても終わり。

 あまりにも、分の悪い賭け。

 急く呼吸は、この際もういい。ただ全神経を集中させて、彼女が入ってくる瞬間をうかがう。

 ……3,2,1。

 と、そのタイミングで彼女の足が教室の扉を跨ぐ。

 

「今度はどこに隠れるつもり?いい加減に……」

 

 そこで、僕は出来る限り力いっぱいに彼女の足を蹴り払う。

 そして僕の思惑通りに、彼女の足は後ろに払われ、上体は前へと倒れ始める。

 

「――え?」

 

 その際、ルシャからは間の抜けた声が漏れる。

 

「よかった。常に身体能力強化とやらはかけているわけじゃ、なかったんだな。」

 

 だとしてら終わっていた。

 しかし、この賭けは僕が勝ちだ。

 ぐらりと揺れて、前のめりになる彼女の上体を後ろから手で押す。

 バランスが取れなくなったルシャはそのまま、床へと手を伸ばす。

 そして、そこには数本の包丁が。

 ルシャの表情は見えないが、このまま床に手をつけば彼女は手を切ることになるだろう。

 

 勝利条件は、何度も確認した。

 別に傷つけるのは、受け取った刀でなくてもいい。

 毒も何も塗られていない、学生も使う程度の切れ味の包丁。

 ルシャには悪いが、細い勝ち筋に僕はなんとか糸を通した。

 極限まで高められた集中力と、達成感に、視界はいつもの数倍も遅く流れているようにすら見える。

 

「悪いな、これで僕の勝ち――」

 

 そう、思っていた時期が僕にもありました。

 

 ――バリン。

 という音が室内に響き渡る。

 

 結論から言って、彼女が手を包丁につけた瞬間、彼女の手から血がでることは無かった。代わりに包丁はあられもない姿になって、ぼろぼろに崩れ落ちている。

 

「おいおい、嘘だろ?」

「惜しかったわねシヲリ。この包丁が私が渡したものだったら、私の負けだったわ。」

 

 俯きに、床に手をつくルシャが、体越しに僕をのぞき込む。

 

「――本当に、心底驚いた。あなた、この期に及んで、まだそんな考えなの。」

 

 彼女は地面に手をはなし、ごみでも払うように両の手をこすり合わせる。

 

「そう、そうなの。なら、仕方がないわね。」

「何を、……アガッっ!?」

 

 そして、それが彼女の逆鱗に触れてしまったのだろう。

 僕は何か言う間もなくそのまま腹部を思いっきり蹴られ、僕は再び壁へと激突し、強制的に排出された酸素に、思いっきりせき込む。

 

「……せん、ぱい。」

 

 そこはちょうど中庭が見える位置で、そこで宮本さんが首を抑えて、酷く苦しそうに悶えていた。

 

「宮本さん……。」

「いいの、シヲリ。まだそんな甘ったれた理想を通そうと考えているのなら、死ぬわよ?その子。」

 

 ゲーム終了まで、あと10分。

 筋肉は既に余すことなく悲鳴をあげている。

 息は一生整わないし、酸素が足りてないのか頭までくらくらしてきた、それでも、僕は再び地面を蹴った。

 

 

 これだけ追い詰めても尚、シヲリは逃げ続けた。

 途中出し抜かれて2階へ行かれたが、それくらいどうってことない。私を彼を追って、本当に殺すつもり拳をふるった。

 この際、別にもうそれでもよかった。

 彼が私を殺す気が無いのなら、私が彼を殺したい。

 

「ルシャ、君はどうして、こんなことをする?」

「言ったでしょう?契約を果たすためよ。」

 

 既に、彼は死に体だ。

 

「それがどうして殺し合いなんて結論に至るんだ。。」

「……それをあなたが知る必要はないわ。」

 

 彼は、追いかけられながら、殴り、蹴り飛ばされながら、私に色々な質問をした。

 命乞いのつもりなのか、情に訴えかけるつもりなのか、でもそれが意味のないことということを、理解できないほどに彼は頭が悪くはないはずだ。

 

「お前は一体、何を望んでいる。」

 

 ――それともこの極限状態で、本当に頭がおかしくなってしまったのだろうか。

 

 ムカついて、少し本気で殴る。

 しかしそれもかわされ、後ろのガラスがまた粉々になる。

 ばらばら、と衝撃で棚が倒れ、本が床に散らばる。

 彼女にはあまり壊すなと、言われたがまぁ仕方ない、だってこれはシヲリが悪いもの。

 

 一体、どこまで逃げるつもりなのか、そのまま彼は一階へと逃げていった、中庭にはいかせられないので、そのまままた投げ飛ばす。

 大きな音をたてて、シヲリが転がっていく。

 転がった先は食堂と書いてあった。

 床に手をつきながら、命からがらに私を映すシヲリの真っ黒の瞳。

 

「なぁ、お前はこんなことをして、何がしたいんだ?」

 

 そんなもの、最初から1つだ。

 だけどそれは教えてあげない。

 どれだけの数、やりとりしただろうか。

 逃げ惑う彼、追い詰める私。

 ちょこまかと動く彼を、私は膂力に身を任せて追い詰めた。

 隠れている場所ごと吹き飛ばして、邪魔なものは魔術で消し飛ばす。

 我ながらあまり美しい戦い方とは言えない。

 しかし、どういうことか、彼は私の攻撃をかわすのが異様にうまかったのだ。

 まるでわかっているかのように、型にはまった動きはその悉くいなされる。

 だから、彼にはこういう暴力的な戦いが一番理にかなっていると思ったのだ。

 

 でも、それももう終わり。

 食堂で、追いかけっこをして数分、ようやく私は彼を壁際へと追い詰めた。

 肩で息している様子をっ見ると、どうやら本当に魔術が使えないらしい。

 気付けば、彼は包丁をもって、私に対峙していた。

 

「やっとやる気になった?」

 

 私の中にあるのは、少しの落胆。自分でもどうして、そんな感情を抱いているのかはよく分からない。

 彼を見て、思わず笑う。この状況で、シヲリはまだ何も諦めていない。

 

「さぁな、それよりも、何か匂わないか?」

「はい?そんなんで、私が……」

 

 しかし、言われてみれば確かに何かくさい、刺激臭のようなにおいが鼻につく。

 生まれてこの方、教会からでたことがない私にはその匂いの正体がわからない。

 

「よかったよ。お前が世間知らずのお嬢様だったんだな。」

「何が言いたいの?」

 

 そう言って彼はそのナイフを振りかぶり、私へと投げつける不恰好で、何の強化もされていないただの投合。

 

「何処に投げているの?もとよりそんな刃物で私が傷つけられるってまだ――」

 

 本当にコントロールも何もない、包丁は綺麗な放物線を描いて、私の右上を通り過ぎる。

 しかし、いくら何でも、外れすぎている。

 それは元より私を狙っていないみたいな、

 

「あなた、何――」

 

 前を見れば、彼はうっすらと笑っていた。

 気を抜いていたわけではない。

 しかし、心のどこかで侮ってはいたのだろう。

 

 そこで、私の意識は本当に時間にして1秒もない間、消え失せた。

 

 ――その結果がこれだ。

 

 今までの非にならないほどの轟音が後ろから響いたと思えば、ものすごい勢いで火の手が上がった。

 爆風で私は壁に打ち付けられ、火の手が上がったせいで学校の警報機が鳴り響き、防火シャッタが下ろされる。

 時間しては僅か3秒にも満たないだろう。

 咄嗟なことに防御が間に合わず、意識を飛ばしていたことに気付く。

 眼を開けて、辺りを確認する。

 もはや原型をとどめていない、この場は火の手が上がり、天井からはスプリンクラーが水を撒いている。

 私の中の最後の迷いは、ここで消えた。

 人生で初めて抱いた、おかしくなってしまいそうな怒りに任せて、私は吠える。

 

「やってくれたわね、しをりぃぃぃ!」

 

 儀式はそれでも終わらない。

 私に傷はないと儀式は判断したのだ。

 

「そう。そこまでして、あの子が大事なの。……そう。それなら、もういいわ。」

 

 恐らく、シヲリはこのまま中庭へと向かったのだろう、中庭への入り口は二個しかない、一個は私の後ろにあるため、もう一個の方へと向かったのだろう。

 その時、私は初めて彼に殺意を抱いた。

 

「これで最後よ、シヲリ。」

 

 




 どうも藍間です。こんばんは。
 9日目、4話目を手に取って頂きありがとうございます。
 激怒しているルシャ、かわいいですね。私もそのくそでか感情を向けられたいです。

 閑話休題。
 もしこの物語が『面白い』『続きが気になる』と思っていただけましたら、評価や感想の方をよろしくお願いします。
 私が、狂喜乱舞します。

この物語は面白いですか?

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  • 登場人物が好き。
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  • 設定が好き。
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