蒼雪の魔術姫   作:藍間道逸

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第3章 9日目「衝突。」 結節「この日の終わり。」

 

 先までのシリアスな展開はどこへやら。

 ぽかん、としたルシャの顔。

 

「口、空いてるぞ?」

「な、なな、ななな、なんで!?なんで儀式が終ってるの!?」

「ぐぇ、だから、勝ったって、言ってるじゃないか、」

 

 ルシャは興奮して僕の襟首をつかんで縦に揺さぶる。

 相変わらず馬鹿力で締め上げられ、抵抗する力も僕にはなく、ただなされるがままに振り回されていたが、意識が飛びそうな寸前でルシャが気付き、手を離される。

 

「あなた、何をしたの?本当に魔術は使えないのよね?」

「嘘じゃないさ。僕は魔術のまの字もしらないよ。」

 

 もう立っている元気もなく、そのままその場にへたり込む。

魔術に関しては、当時マミさんが僕を拾ってすぐ、僕を面白がって教えてれようとしたがすぐに諦められた。

 

「どうにも、僕には魔力が1ミリもないんだってさ。」

 

 それは、ガソリンのない車と同じで、素体は作れるがそれが起動することがないというのがマミさんの意見だ。

 別に魔術なんて使うきなどさらさらなかったが、それでも才能がないと言われるのが気に障り、しばらく拗ねたのは記憶に新しい。

 

「魔力がないって、そんなことあるの?」

「さぁ?僕はソレ以来、魔術を触ってないからね。そこらへんのことはさっぱりだ。でもマミさんがないっていうならないんじゃないか?疑うのなら、マミさんに聞いてみればいい。」

 

 ルシャはそれでも納得がいかないのか、うんうんと唸っていたが、別に僕としては納得してもらう必要はないので気にしない。

 

「いや、別に疑ってるわけじゃ……、でも、それなら、どうやって儀式を終わらせたのよ。」

「だから、言ってるじゃないか。このゲームは僕の勝ちだって。普通にルールにのっとって終わらせたんだよ、君が負けで、僕が勝ったから終わったんだよ。」

「……そんなわけがないわ。だってこの儀式は誰か1人が死なないと終わらないように設定したもの。」

 

 どこか不満げな顔で話すルシャ。

 どうしても納得がいかないらしいので、僕はことの詳細をルシャに伝えた。

 僕が勝つために仕組んだ、ただ一つの勝ち筋を。

 

 

「さ、詐欺じゃない、そんなの。シヲリがそんな人だとは思ってなかったわ。」

 

 説明が終ると、わなわなと口を震わせ、ルシャがそんなことを言う。

 どういうことと言われたから説明したのに、説明したらしたで、詐欺師扱いされるのだから解せない。

 

「しょうがないじゃないか。それしか、僕が勝つ方法は無かったんだから。」

「だからって、そんなの……。」

「というか、そもそもルシャが焦って高を括って僕の話をちゃんと聞かないのが悪いだろ?」

 

 得意げに語る僕に、何か言いたげな顔で、睨めつけるルシャ。

 それでも、儀式が不正に終わらされたことに納得ができないのか、ルシャは口をパクパクと僅かに閉口させる。

 

「それは、そうだけど。」

 

 そして、数秒後、必死に何かを呑み込む様にそうぼやくルシャ。

 その姿がどこか、子どもっぽくて可笑しい。

 

 結論から言って、僕がゲームが始まる前にルールを少し変えていた。

 でも、僕に魔術は使えないから、ルシャに変えてもらうほかなかった。

 だから、勘違いをしてもらうことにしたのだ。その方法だけが、思いついていなかったのだが、都合よくルシャは遠く離れてくれたから、すんなり思惑が通った。

 

 ――この勝負僕が、きづけたら勝ちでいいんだな。

 

 風が強く、距離も遠い、きっと彼女は上手く聞き取れないが、恐らく僕が傷付けたら、と言ったと認識したのだろう。

 しかし、その実、僕はしっかりと気付けたら、と発音していた。

 勿論誤認させるように、ではあるが。

 

 傷つけたら、気付けたら。

 その両者の言葉はよく、似ている。

 おかげで彼女は勝手に誤解してくれた。そして、ルールの確認で、了承した彼女はそのままゲームを再開した。

 故に、僕の勝利条件はルシャの何かに気付けたら勝ち、となっていたのだ。

 

「ま、問題は気付けたら、っていうのがすごい曖昧なルールってことだったんだけどね。」

 

 ゲームの性質上、そこがネックだった。

 

「だから、僕はゲームマスターである君に、気付いたと言わせる必要があったんだよ。ね?ちゃんと僕はルールに則って勝ったんだ。」

 

 気付けば、風は止んでいて、僕は宮本さんをちらりと見る。

 僕たちはどちらからともなく、安堵のため息と笑い声を共有していた。

 耳をすませば、お互いの呼吸音くらいしか聞こえないほどの静かで、綺麗な夜。

 

「なんだか、馬鹿馬鹿しい終わり方になっちゃったわね。」

「あぁ、本当に。でも、もうこんなようなことは止めてくれよ?」

 

 地面に仰向けに寝転がる。

 そして目を閉じて、辟易と呟く僕。ルシャは僕の隣で座った状態で僕を見つめ、ニヒルな笑みを浮かべていた。

 

「さぁ、どうかしらね。」

「勘弁してくれ……。」

 

 先までの戦闘を思い出し、もう一度盛大なため息をつく。

 あんな経験、そう何度もしていたら命がいくつあっても足りない。

 

 それからしばらくの間、僕たちの間に会話はなく、ただ空を見上げていた。

 そんな中、突然ルシャも僕の横に寝転がる。

 

「もう、動けそうにないや。」

「そうね、私も。」

 

 耳のすぐ横で、ルシャの声がする。

 少しドキッとしながら、隣でそうつぶやくルシャに僕は抗議の声をぶつける。

 僕とは違って彼女に身体的疲労、苦痛は無いはずだ、というと、彼女はぶーたれた顔で

 

「あなたに騙されて、心の傷が深くて。」

 

 なんて言われしまい、そう言われてしまうとなんだか悪い気がしてきて僕は黙る。

 そんな僕を見て笑うルシャ。

 

「冗談よ。ただ、動く気が出ないのは本当。これで、私はまた、死ぬまでの目的がなくなってしまったもの。」

 

 空虚に、投げやりに少女は言う。

 その言葉に、僕は喉がつまる。

 なんと言ったらいいのか、どう行動するべきなのか、僕がいまどんな感情を抱いているのかさえ、分からなかった。

 

 ずっと、どうするべきか、分からなかった。

 この、あまりにも儚い少女に僕は、どう接するべきか、と。

 果たして本当に、自分が関わっていていい存在なのか、と。

 あの、出会いから、今日この瞬間までずっと悩んでいた。

 

 閉じていた目を、開く。

 ――だから、決めた。

 彼女は言った。私が死ぬの12月31日だと。

 

「なぁ、ルシャ。」

「なによ。」

 

 僕に彼女を助ける必要も、理由も、意味もない。

 ……いや、そもそも助けるという言葉の意味すら、この場合成り立たないだろう。

 だって、それを彼女は望んでいないのだから。

 その証拠に今でも彼女の顔に浮かぶのは、落胆と虚無だけ。

 しかしそれなら、どうせ死んでしまうのならば、という考えが頭を過る。

 一握の願いが、僕を邪魔した。

 

「君が殺されたい理由って、僕に覚えておいて欲しかったからなんだっけ。」

「えぇ、まぁそうね。……でも、そういうのあまりぶり返すのやめてくれる。なんか恥ずかしいし。」

 

 どこか照れた様子でそっぽを向くルシャ。いつも気丈に振舞っているから、彼女にもそういった感情はあるのかと、少し新鮮だった。

 きっと、あの言葉は嘘ではない。

 

 首を横に倒す。

 彼女の綺麗な横顔が目に映る。

 だからこれは、こいつのせいだ、と心の中で責任を擦り付ける。

 

「なぁ、ルシャ。それなら君が死ぬまでの時間、僕にくれないか?」

 

 ルシャもぼくと同様に、首を倒し目が合う。

 これは、僕のささやかな願いであり、欲望だ。

 

「え、どういうこと?」

「……だから、その。あれだよ、君が死ぬまでの間くらい付き合うって、言ってるんだ。行きたいところとか、やりたいこと、あるんだろ?それ、全部やろう。君が死ぬまでに、全部。」

 

 死ぬなとは言わない。そんな権利僕にはない。

 でも、それくらいならば、どうせ死んでしまうのならば、それまでの時間に寄り添うことくらいは許されるのでは、というのは、傲慢だろうか。

 

「君が死んでも、忘れられないくらいの時間を過ごそう。」

 

 

 程なくして、僕はルシャと共に、学校を後にした。

 街は当然眠りについていて、互いの息使いとルシャの足音だけが響く。

 彼女は1人で悠々と。

 僕は背中に宮本さんを担いで、彼女の後ろに続く。

 

「おい。」「何よ。」

 

 ルシャの横顔を、睨む。

 帰り道、人払いとやらのおかげか、人に会うことはないものの、僕は気が気ではなかった。

 

「もう少し、歩くペースを落としてくれ。」

 

 前を一人歩く、浮世離れした美しさの少女。

 その後ろに少女を背負ったかすり傷、痣だらけの男。

 見つかれば通報待ったなしではある。

 

「なんだかよく分からないけど、それは無理ね」

「なんだかむかつくから。」

 

 段差で体が揺れて、激痛が走る。

 

「私がいうのもなんだけど、体大丈夫?」

「本当に、君がいうのはなんだけどね。」

 

 ぶっきらぼうに呟く僕に対してルシャが笑う。

 

「明日は何をしましょうね。」

「明日はさすがに、休ませてくれ。」

「最期まで私のわがまま、聞いてくれるんでしょ?」

 

 目線を上げると、ルシャは嬉しそうな顔でこちらを見ていた。

 結局、僕の傲慢だろうか、なんて心配は杞憂に終わり、僕とルシャは12月30日までを、共に過ごすことにした。

 しかし、それは同情だとか、正義感だとか、優しさなんて、そんな嘘くさいものではなく、なんてことはない、ただの契約だ。

 僕と彼女の契約は、これをもって果たされる。

 

 ――それじゃあ、シヲリ。最期の日まで私に、忘れられないくらいの時間を頂戴ね。

 

 彼女はあの後、そう僕にお願いをした。

 僕の願いに対した、彼女の願い。ただの契約関係。

 でもそれでいい。

 

「……はぁ。どうしてこう、僕の周りは上げ足をとるのがうまいやつしかいないんだよ。」

 

 冬らしい、冷たい風が僕らをつつむ。しかし、今は不思議と気にならない。

 体中は痛いけど、心はこんなにも穏やかだ。

 

「学んだのよ、あなたから。」

 

 皮肉気に、意地悪に笑みを深めながら、ルシャはその日の最後、僕にそう言った。

 

 




 どうも藍間です。こんばんは。
 この度は9日目読んで下さりありがとうございます。
 そして9日目、これにて終了です。
 あと数日、瞬きすれば終わるような時間ですが、もしよければお楽しみに。

 閑話休題。
 もしこの物語が『面白い』『続きが気になる』と思っていただけましたら、評価や感想の方をよろしくお願いします。
 この藍間が泣いて喜びます。

この物語は面白いですか?

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