蒼雪の魔術姫   作:藍間道逸

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第4章 13日目「わがまま」 起節「夢の続き」

 

 夢を見る。

 目を開ければそこには、青が広がっていた。

 

 痛いほどの蒼穹が広がり、不釣り合いなはずの蒼水晶の月が大きく鎮座している。

 その中央にある、幾重にも重なる真っ赤な鳥居。

 そこを、抜けるとそこにはいつも彼女が居た。

 

 空を反射する水面に散らばる彼女の髪はまるで太陽のようで、静かに横たわる彼女は儚さと同時に暴力的なまでの美しさを押し付ける妖精で。

 その少女を、僕は知っていた。

 

 

「――君は、一体何なんだ。」

 

 2020年、12月15日に出会ったその少女。

 名を、ルシャルシアーデと彼女は言った。

 今に思えばそれが本名なのかすら僕には分からない。

 

「君はどうしたかったんだ。何故、外に出てきた。なんで、最期に僕を選んだんだ。」

 

 ……そっと少女を抱きかかえる。

 僕の声は届かない。

 元より、声になっているかすらわからない。

 

 この夢の世界では僕はどこまで傍観者だから。

 それでも枯れてしまいそうな号哭を必死に抑えながら、僕は腕の中で眠る少女を見て、話かける。

 

 不気味なほどに美しく。

 あまりに完成されたその在り方は故に、致命的に不十分であった。

 

 僕が感じた儚さは、恐怖はだから多分、そういうことだ。

 

「自分の生き方に、不満はないと言うならば、君は外にでるべきではなかった。」

 

 彼女はよく笑った。

 よく怒って、よく泣いて、よく悲しんで。

 毎日を楽しそうに過ごしていた。

 今になって思う。それはまるで、自分はここにいると主張していたのだと。

 

 彼女にとっては、毎日が刺激的だったことだろう。

 だからきっと、彼女はぼくにとって刺激的であろうとしたのだ。

 色んなことを聞いて、知って、奇想天外なことを、意味不明なこともたくさんされた。

 

「自分が消えることに、なにも思っていないなら、どうして僕に聞いた。」

 

 26日の夜、彼女はぼくに言った。

 

 ――シヲリ、生きるってどういうことだと思う。

 

 結局、僕は答えを最後まで出せなかった。

 その時はついぞ気付かなかったが、彼女も上手に論点をずらしていた。

 だから、あんなことしていたのだろう。

 今となっては彼女の行動のすべてが理解できる。

 僕に殺されようとしたのも、その為だ。

 

 彼女は依り代になるといった。

 知らない誰かのために、自分という存在の器を明け渡すのだと。

 詳しいことは一般人の僕には分からないけど、それは彼女が消えるということだということくらいは分かった。

 誰にも悟られず、誰の記憶からもいなくなり。

 僅か1か月の人生を歩んだルシャという少女はあと数刻もしないうちに、知らない誰かに変わるらしい。

 

 ――それで、いいのか。

 

 ずっと、悩んでいた。

 頭では分かっている。

 これは正義の味方だとか、善意だとか、助けるだとか救うの話ではない。

 だから、これでいいと。

 彼女は自分の結末を受け入れている。

 

 僕も、日常を続けられるなら、そうしていたい。

 やせこけた、あの魔術士にも相応の理由があるのだろう。

 僕には、先生がそれほど悪い人には見えなかったから。

 

 ――僕はどうするべきか。

 それをずっと考えていた。

 

「でも、きっとそれは違ったんだ。」

 

 行動に、正解はある。

 言動にも、何もかもに、正解はある。

 物事には必ず理由があるし、結果には必ず過程がある。

 

 よく、人の心は説明できるものではない、なんて奇麗ごとを並べているけど、あれは嘘だ。

 人は理由をもって悪意を行使するし、考えがあって善意を振りまく。

 だからこそ、その場に適した、誰もが幸せになるわけではないけど、誰もが不幸になるわけではない正解が、必ずある。

 

「……だから、これは、僕のわがままだ。」

 

 ルシャによく似たその人を抱きかかえ、心の中で誓う。

 この子がルシャなのか、そうでないのか。

 はたまた、どうして出会う前からこの夢に出てきたのか、この夢が何なのかはついぞわからない。

 けれど、今はそんなことは、どうでもよくて、どころが、お陰様で決心がついたから、ありがとう、と感謝もしておくことにした。

 

 そっと、僕は彼女から離れる。

 

「行くの?」

 

 その背中に、鈴を転がすような綺麗な音色が、耳を打つ。

 振り返ることはしない。

 

「うん。行くよ。」

「……バカね。」

 

 ルシャが僕の背中に頭を押し当てる。

 彼女はゆっくりと、僕の首に手を回して、耳元で優しく、笑っていた。

 それは、僕の良く知っている暖かさで、楽し気な笑い声だった。

 

「――君は」

 

 世界が白んでいく。

 夢の終わりが少し変わる。

 数舜後には、ほとんど何も見えなくなって、彼女の姿さえ、見えなくなる。水中に放り出され、凄い勢いで沈んでいく。

 

「シヲリ。――こそ、私を……、」

 

 沈んでいく体に、急激に浮上していく意識の最後に彼女の声だけが聞こえた。

 

 やることは未だに決まらない、どうするべきかもわからないし、自分が一体何をしたいかもわからない。

 それでも。

 そういえば1つ、聞き忘れたことがあったことを思い出す。

 だから、最期にソレだけは聞いておかねばなるまい。

 

 

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