タクティカル祓魔師二次創作 森塚梢の事件簿2   作:泉 とも

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・実は沢山いる

『ちんちん 生やす 界異』

 

 検索結果 114514件。

 

「出た……!」

 

 千春は自分のパソコンのブラウザをシークレットモードにしてから、上記のような内容で検索を掛けた。

 

「わっわっ、すごい。合成じゃ、ないよね?」

 

 ネット上には境界対策課が組織される以前から、各地で神様、妖怪、都市伝説として発生していた、界異の情報が転がっていた。

 

 オカルト呼ばわりだった時代にはごく一部を除き、見向きもされなかったこれらの存在は、むしろ現実の存在として認識されたことで、記録され、拡散されてしまった。

 

「動画もある。うわー」

 

 法整備が進み、みだりにそれらと接触・利用する者には、法的罰則も適用されることになった。

 

 だが実際には千春が見ているアンダーグラウンドなサイトを始め、軽犯罪相当の術・界異利用は枚挙に暇が無い。

 

 摘発する人員の数が全く追い付いていないのが現状である。

 

(合成画像避けのアプリが反応しない。じゃあやっぱり本当なんだ)

 

 画面の中では偶然を装った動画配信者たちが、卑猥な形状の界異に襲われ、その経過を撮影していた。

 

 この時代でさえモザイク消しマシンは存在しないが、画像がAI・CG合成が無いかを判別し、効果を除去するソフトは開発されていた。

 

 余談だが安物のアダルトDVDの中にはパソコンで開いたとき、モザイク処理を施すプログラムのフォルダが同梱されていたりして、それを何やかんやするとモザイクを消せるようになっている物もあったそうだが、今は関係ない話である。

 

 やる時はネット環境を絶ってから自己責任でやるように。

 

「すごい、レビューもある」

 

 千春は界異によって齎された逸物の寸評を見た。

 

 それは単純に生えるだけの物、射精機能のある物、妊娠まで可能な物、その後の後遺症などの情報が、事細かに書かれていた。

 

 多言語にも対応していた。

 

『使役祭具って言ってね、倒した界異と契約して使役する術があるの』

 

 先日の森塚梢の言葉が、彼女の脳裏に反響する。

 

 祓魔師が界異を調伏し、自らに従える術。

 

 サイト内には攻略のし易さや手順、最近では利用者たちの信仰を受けて更新された、界異の情報もあった。

 

「私でも、何とかなるの、あるかな」

 

 外見と性機能への欲求は、人類が絶滅するまで付きまとう、原初の欲望である。

 

 しかしそれ故に、エロスとコンプレックスは人類最大の力でもあった。

 

「ここのNPOに相談してみようかな」

 

 世の中には自称NPOの怪しい集団も死ぬほど存在している。

 千春が不用意にアクセスしたのもその一つだった。

 

「メールで内容と、場所を送ってと」

 

『初めまして。私は神奈川県の高校に通う三年生です。女性同士のカップルなのですが、私にも男の人の物が欲しいと思い、相談のメールを出させて頂きました。県内でスポーツや格闘技をやっていない女子でも、安全に使える界異はありませんか?』

 

 そのような文面と、梢の体を思い出し、相応しいと考える逸物の妄想を添えて、千春は相談用のフォーラムにメールを出した。

 

 返事は秒で返って来た。

 

 このような集団は各地の界異を活性化させたり、或いは特定の目的のために成長させたりと、本格的な取り締まり案件なのだが、そんなことは利用者にはどうでも良かった。

 

「来た。場所は、横浜市営地下鉄、Y町のお稲荷様の境内の外れ」

 

 手順書も同封され、当日その場所に調伏と契約用の装備を送る旨が、認められていた。

 

 千春は慌てて日程を送った。

 

 ある程度のネットリテラシーは常識だが、法人のウラ取りまでは一般人には荷が重い。

 

 ましてや後ろ暗く、相談し難い性的な内容となれば尚更である。

 

(これで私にも、でも梢ちゃんも、どうしよう。流石に二人分はいらないよね……?)

 

 後一歩の所で千春は戸惑った。そう、彼女にとって『する』と『される』の関係上、自分は『される』側であった。

 

 そのため梢が自前で用意して来るのは構わないが、自分に生やすのは躊躇われた。

 

 正確にはその後が、である。

 

「……」

 

『私と彼女とで試して要る方に残したいし、普段の生活を考えて、使わないときは消したいのですが、それは可能でしょうか?』

 

 再びのメール送信。

 

 今度は大分時間が掛かった。具体的には二時間ほど掛かった。

 

 相手先の自称NPOは、あくまでも界異をダシに使い、信用を獲得してから性的な商品の取引に繋げる、入り口の役目を持っていた。

 

 そのため危険が伴う場合や、無理なことは丁重に断り、謝罪し、お祈りをするというマニュアルが存在する。

 

「来た!」

 

 しかしそうでないなら、可能性を模索し挑戦しなければならない。

 

 本拠地の分からない地球のどこかで、彼らは顧客の注文が実現可能かどうか、挑戦と検証をして結論を出した。

 

 曰く「できます」と。

 

「よかったぁ……!」

 

 ちなみに千春は待っている間、他の肉体を変化させる界異の情報を集めていた。

 

 結果的に美醜関連は、最後に因果応報とでも言うべきものがあった。

 

 しかし特定の部位を豊かにしたり、子宝を授かったりといった内容にはそのような報告は少なく、中には性転換を齎す、強力な界異の話さえあった。

 

 界異の中でも細かい縄張りというか、業界というか、管轄の違いはあるようだった。

 

「何々? 必要の無くなった界異との契約を解除するには、当日お送りするお祓い刺青シールを指定した箇所に、毎日欠かさず貼り変えることで、男性器を消せます。ただし個人差が有りますので、出来ればその変化を撮影し、指定のアドレスにお送りしてください」

 

 素人や一般時には超常的な力は無いので、一発解除ともなれば負担も大きいらしい。

 

 目安としては一ヶ月程度。

 一度生やせば一ヶ月はそのまま。

 だがしかし。

 

(できる。ちゃんと手順を守れば、私にもできる……! 梢ちゃんとできる!)

 

 情欲に濁った瞳に粘付いた火が灯る。

 

 もしかすれば、逆に自分を植え付けることが出来るかも知れない。

 

(梢ちゃん、きっと怒るよね。でも梢ちゃんなら、絶対許してくれる)

 

 他人から見れば甘ったれた願望でしかないが、この二人にとっては違うと言えなかった。

 

 例え狂信と確信が背信を招くとしても。

 

(私が梢ちゃんの物になるか、梢ちゃんが私の物になれば、梢ちゃんはずっと私といてくれる)

 

 千春は梢が自分を自立させ、巣立たせようとしていることは分かっていた。

 

 だからこそそれを拒んだ。

 

 破滅的な提案を拒んだことは何度か有るが、今では破滅に向かう自分自身を、止められなくなりつつあった。

 

 それほどまでに梢の存在が、千春の中で大きくなり過ぎていた。

 

(私が男だったなら、他の男に先を越されることは無かったのに)

 

 彼女の境遇や二人の出会いを鑑みれば、決してそんなことは無いのだが、妄執は現実を見えなくさせる。

 

(梢ちゃんがAVの撮影に出かけるまで時間が無い)

 

 千春は殺風景な自室のカレンダーを見た。友人から依存先へと成り下がりつつある人物のスケジュールが、しっかりと書き込んである。

 

 夏休み平日の時刻は夕方になっていた。

 

(二人はどうせ今日も帰って来ない。イケる)

 

 彼女は無謀としか言えない行動力で、先ほどの自称NPOへとメールを出した。

 

 自分の最寄り駅と、今日中に実行できないかとの相談を。

 

 待つこと数十分。誤魔化しの無い一分一秒は遅く感じられ、貴重な時間が消えて行く。

 

 無理を承知の打診でもあった。千春は駄目かと思い、後日の朝一番に変更をしようと、考え直そうとした。

 

 その矢先である。

 

『できます』

 

 帰って来たメールに、四文字の力。

 

 千春には知りようも無いが、ネットの向こう側では彼女が囮捜査か、がっついた学生かで判断が分かれていた。

 

 そして後者だろうという結論を出された。

 

『ありがとうございます。大至急支度をして、手順の場所に向かいます。よろしくお願いします』

 

 虚仮の一念岩をも通す。

 

 この日彼女は偽NPOというれっきとした犯罪者に繋がりながら、無防備さと勢いだけで犯罪への誘導を回避した。

 

 奇跡だった。

 

「待っててね、梢ちゃん……!」

 

 恋とは執着であり、愛とは執着である。

 

 日本の夏よりも高い湿度を胸に秘め、千春は家を飛び出したのであった。

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