タクティカル祓魔師二次創作 森塚梢の事件簿2   作:泉 とも

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・そして撮影は続く

 かなまら様を見て気を失った者たちが、目を覚ましたのは三日目の夕方だった。

 

 梢はと言えば、全員の財布から金を取り出し、麓まで食料を買い出しに行き、戻っては食事の支度をしていた。

 

 格好も引き裂かれた制服から、シャツとジーンズというラフな物に着替えている。

 

「いやあ、本当に何から何まですいません」

「良いのよ。こっちこそ世話になったわ」

 

 別邸の台所では寸胴鍋から湯気が立ち上り、調理中の梢を手伝っているのは、偽NPOの職員たちだった。

 

 負傷をした身で全員の介抱をしてのけた彼女に彼ら、否、彼女たちは頭が上がらなかった。

 

 それもそのはずで、彼らは現在肌の色が肌色ではなく、青や赤や緑といった、人間以外の血色をしていたからだ。

 

「只者じゃないと思ってたけど、あんたたち穢淫(えいん)だったのね」

 

「ははは、まあ」

 

 穢淫(えいん)とは夜魔、サキュバスやインキュバスなどと呼ばれる、淫らな界異の総称である。

 

 勿論これ自体が一種の界異存在でもあるのだが、その生態は人間に取り憑き、頽廃の末に破滅させるというものだった。

 

「あなたは私たちの正体が分かったのに、何故祓わなかったのですか。あれほど無防備な状態なら、負傷していても容易かったはず」

 

 穢淫は人の体に寄生し、精神世界に本拠を置く。そのため彼女たちを祓うことは非常に困難であり、条件も厳しい。

 

 だがかなまら様のご威光によって、抵抗できなくなっていたのなら、話は別だった。なのに彼女はそうしなかった。

 

「別に、要は同業者みたいなもんでしょ」

 

 相手の危険度に対して、梢の反応は淡泊だった。穢淫に長い間取り憑かれた者は、その魂や存在の全てを奪われ、塗り潰される。

 

 古代の秘術に通じるような者ならば、祓った所で誰も帰っては来ない。

 

「それに傷も治してくれたし、おかげで痕も残らずに済んだわ」

 

「あなたは命の恩人ですよ。これくらいはさせて頂きます」

 

 先ほどまで男の姿をしていた偽NPO職員が言う。男性は穢淫に抵抗する手段が無く、性別も転換させられてしまう。

 

「それこそこっちの台詞だわ。ありがとね、あなたたちがいなかったら、私たちは山の主を退けられなかった」

 

 彼女たちが山の主と戦ったのは、あくまでも襲われる前に手を打とうという、危機感からだった。

 

「乗り掛かった舟ですよ。私たちも死にたくなかっただけです」

 

 傍迷惑な若者が一匹死んだだけと、楽観視をしなかったからだ。

 

 そしてそれが結果的に、生贄による弱体化を終えようとしていた邪神を、事前に祓うことが出来た。

 

(おばあちゃんの残した記録、最後はこう書かれていた)

 

【あなたはあなたの犠牲となる者を、それ自体を求めてはならない。何の為でもない。ただあなたの犠牲となるだけの存在を。それは決して無償の愛ではない。報いを求め、代価を欲する】

 

(あんまり求めるなってことよね)

 

 彼女の内心の戒めを他所に、界異たちは尚も喋り続ける。

 

「結果として全員が生還して、我々もまたとない経験が出来ましたし」

 

 穢淫たちからしてもとんだハプニングだった。

 

 相性で言えば、生命の力を好む彼女たちにとって、天敵に等しかったことだろう。

 

「本来ならもっとしっかりしたお礼をしたい所です」

 

 しきりに頭を下げる穢淫に、梢は内心で驚いていた。

 

 話に聞くこの界異は性のことしか頭に無く、邪知や奸智に富む悪鬼の類。

 

 だが実際はこの低姿勢であり、嗜虐心を誘うようであった。

 

(マゾとか社畜根性ってスケベでは抜けないのかも知れないわね)

 

 元がそうだったのか、或いはそんな界異に取り込まれたのか、人生の悲哀はいつも絶えない。

 

「そうねえ、じゃあこういうのどうかしら。監督さん、ちょっと」

 

「はいはいはいはい、どうかしましたか」

 

 呼ばれて鬼だるま監督がやって来る。山の主との戦いは撮られており、彼はその確認と編集をしている所だった。

 

「この後の撮影なんだけど、この人たちを参加させて欲しいんです」

 

『え!?』

 

「それでこの人たちの分の売り上げを、私に回して頂戴」

 

『え!?』

 

 鬼だるまと穢淫たちは思わず顔を見合わせる。

 

 降って湧いたとは正にこのこと。

 

「スケジュールが押してるのに申し訳ないんだけど、彼女たちがどうしてもお礼がしたいっていうから」

 

 他の者たちは目が覚めてから、未だに心の整理や現状の把握が追い付いていない。

 

 界異と祓魔師とAV監督が、台所で撮影の話をするなど、本来ならば異常事態である。

 

「もの凄い大金を寄越せって言う訳じゃないし、でも纏まったお金が欲しいからね」

 

「分かりました。それじゃあ一度見送りになった例のヤツで!」

 

 鬼だるまは迷惑系動画配信者が祠を壊したら界異が出て来て性的に大変なことになるという当初の企画を蘇らせることにした。

 

「あんたたちはどう? 撮影NGだったりするの?」

「えっあっ、いやあどうだろう。どうする? ヤっちゃう?」

 

 偽NPOサキュバスが同僚を振り返る。

 生態としては全く問題が無い。

 倫理的な問題などこの山奥では通用しない。

 

「そうですね、特に困らないし」

「ヤっちゃいますか」

「ヤっちゃいましょうよ!」

 

 斯くして撮影に新たな人員が追加された。

 

「後ついでに聞きたいんだけど、あんたたちに寄生されると、使える術が増えたり力が増したりするの?」

 

「術は私たちが使える物に限りますし、力とかは相性ですねえ」

 

 夢魔たる穢淫の真骨頂は精神世界なので、現実へのアプローチは控えめである。

 

 身体的に強力な人間が堕落した場合は、そのまま強力な存在になるが。

 

「じゃあさ、あんたたちに取り憑かれて、勉強が出来るようになる?」

 

「えっ勉強」

「私これでも受験生なのよね」

 

 穢淫たちは困惑の瞳で梢を見た。

 

 これまで様々な欲望を見てきたが、寄りにも寄って自分たちに勉学の援助を願うなど、長い界異人生で初めてのことだった。

 

「でなきゃ単純に勉強が出来る仲間とか」

「ど、どるくらい?」

 

 穢淫が冷や汗をかきながらどもる。

 

 この手の存在に最も効果的な責め苦は素面に戻すことである。

 

「取り敢えず偏差値70代の大学の赤本解けるくらい」

 

 穢淫たちは自分たちの知識がどのくらいだったかを確認した。

 

 乗っ取った人間の存在は随分昔のものである。

 具体的には百年はくだらない。

 

「日本の?」

「日本の」

 

「後で本部に問い合わせてみますね」

「いなかったら今年度いっぱい撮影に出すわよ」

 

 彼女は界異たちとの契約を交わすと、引き続き食事の支度を続けた。

 

 以降数日も撮影は続き、日程の終了と共に、つつが無く自宅へと帰って来ることが出来た。

 

 

 ――数日後、桜之家。

 

 

「ただいまーっと」

「お帰り梢ちゃん」

 

 看護師と警官の両親がほとんど帰らない千春の自宅に、梢は我が物顔で寛いだ。

 

「いやー、今回はちょっとヤバかったわ。あんたが来なかったら、駄目だったかも」

 

「私もまさかあんなことになるとは思わなかったよ」

 

 荷物を居間に置きながら、二人はソファーに腰掛ける。

 夏の只中で異様に静かで冷たいこの家が、二人の愛の巣である。

 

「そういえばあんた、なんでうちに来たのよ」

 

「それはね、その、今更言うの恥ずかしいな」

 

「いいから、ほら」

「うん、そのね、実は」

 

 千春は偽NPOたちの協力の下、逸物を生やして梢とまぐわおうとしていたことを告げた。

 

「結局、ご破算になっちゃったけど」

「あんたって変な部分で行動力あんのね」

 

 小動物めいた所有物の、思いがけない暴発に彼女は戸惑う。これでよく穢淫たちに寄生されなかったものだ。

 

「でもそういうことなら、今の私って丁度良いのよね。ほら」

 

「え」

 

 梢は千春の手を引くと、自らのジーンズの中へと導いた。

 

 そこには肉厚の管が横たわっており、熱を持って脈打っている。

 

「梢ちゃん、これって……!」

 

「かなまら様の権能って奴よ。使い道に困ってたんだけど、あんたがそういう気なら、私も同じようにして構わないわよね」

 

 冷たく小さな手が揉み、握り、擦るごとに、神の棹は怒張を顕わにする。

 

「本当は、私が梢ちゃんにしたかったんだけど、いいよ」

 

『と』ではなく『に』である。間違いではない。千春の独占欲や支配欲は色褪せないが、この場は受け身の情欲が勝った。

 

 今やジーンズから迫り出した剛直から目を離せず、息も荒くなっていた。

 

「私も本当に男役をやるのって初めてだからさ、千春」

 

 そんな少女の様子を見て、梢は諦めにも似た笑みを浮かべる。

 

「もしも赤ちゃんができちゃったら、ごめんね」

 

「いいよ。そうしたら梢ちゃん、私のものになってくれる?」

 

 気が付けば千春はソファーから降り、梢のジーンズを引き下げて、跪いていた。

 

 その姿を見て、梢はくすりと笑った。

 

「そんなの、今もそうでしょ♡」

 

 愛しい所有物に股を開いて見せると、程なくして居間に二人の嬌声が満ちる。

 

 誰にも聞こえぬ二人の夏は、水音と共に更けて行くのであった。

 

<了>

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