その血が歩む道すじ:修正版   作:亞忌羅

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 漸く晴蓮くんの学生編も大詰め。次はナナミン達の土地神と夏油闇落ち案件か。……今の夏油は闇落ちするのか?


六十話

「私達にはその幻術術式? をかけたんですか?」

 ごもっともな質問で。

 

「いえ、お2人には術式はかけていません。だからあの時、泣き別れたモノがちゃん見えてたでしょ?」

「確かに、私が黒井と抱き合った後、晴蓮に言われた通り階段の奥に隠れたら入れ替わるように知らない2人が出ていった。それで知らない子供と一緒に夏油が降りて行った………それで、その後は」

「ストップストップ。もういいよ思い出さなくていい。なんなら僕の術式で忘れさせてあげようか? 僕なら出来るからね」

「……イヤ、あの出来事は忘れてはいけない。あれは私が……背負うモノだから」

「理子ちゃん。それは違う、今回の出来事は全部僕がシナリオを書いた。

 君が背負う必要は断じて無い」

「全部?」

「そう、全部だ」

 

 そうなのだ。今回の任務が天元からきた時点で晴蓮はシナリオを書いた。どうやれば2人を救えるのか、どうやればアレらの思惑を壊せるのかを。

 だから方々(ほうぼう)手を尽くした。先んじて盤星教の施設に行って片っ端から幻術術式をかけた、どこに誰が居るのか、高専に近い施設はどこにあるのかを。

 そして天元には元から『進化』してもらうつもりで初めから動いていた。

 晴蓮にとって天元は『人間』ではなく結界術を底上げする『装置』としてしか見ていなかった。星漿体(せいしょうたい)と同化せず『進化』した結果人類の敵になれば式神にでもするか、程度の存在。

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「1年くらい前かな、天元に会いに行ってね。その時にアレが時期がきたと言ったんだよ」

「時期がきたって、何の時期だよ」

「言わなくても分かるだろう?」

星漿体(せいしょうたい)の……同化、か」

「その通り。その時に天元は僕にも任務に同行させる気でいた、なのにいざ蓋を開けたら天元からの任務に入っていなかった。

 そんなの、何か有りますよって言ってるモノでしょ? だから視た」

「蓮には何が視えたんだい?」

「………君達が死ぬというあり得ない未来さ」

「オレたちが死ぬ、か。確かにあり得ねぇな、だが、あんなのを見せられたら………オレにも分かんねぇ」

 

 場に重苦しい空気が流れる。誰もが口を閉ざし沈痛な面持ちをする。

 割って喋ったのは黒井美里だった。

 ━

「あの……先程から加茂さんが未来を視たとか言っていますが、それはどう言う……」

「あはは、そりゃそうなりますよね。

 僕は天与呪縛の還り(恩恵)未来視(世界視)が出来るんです。今なら……そうですね、2年先まで安定して視れるかな」

「未来を視れる? そんな事が出来るのか!?」

「まぁね、それだけ重い天与呪縛だからね」

「天与呪縛……確か生まれ持った縛り? だったか?」

「うん、それであってるよ。僕に架せられた縛りは4つある。だから結構大変なんだよね」

 

 まるで他人事のようにからからと笑う。

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「おー3人組帰ってきたか。おつかれさん」

「硝子。君は何とも無かった?」

「私は隠れてたからねー。そっちは………何か有ったポイね」

「なあ硝子、ハルのアレ最近分かった天与呪縛ってなんだっけ」

「アルビノの事?」

「そうそう、それそれ。ハルの新しい天与呪(アルビ)()

 それでさ、分かった時に呪力が濃いって言ったじゃん?」

「そう言えばそんな事言ってたね。悟君には何か思い当たる節が有る……と?」

「ハルの呪力の濃さ……アレは『質』が違ぇんだよ。オレ達と」

「質が……違う? 悟、それはどう言う意味で?」

 

 考えながら絞り出すように「前にも言ったけどさ、ハルの呪力はオレの目が回るくらい濃い。それでずっと考えてたんだがよ。何でそんなに濃いのか、呪力の濃さって何だってな。

 それで分かったんだよ、ハルは『呪力の質』が他の呪術師と違ぇんだ」と話し、もう一度考えた後付け加えるように「一般的な呪術師の呪力の濃さ()を『1』とするならハルは『2』か『3』ってとこだな、だから濃いんだよ」と皆に言った。

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「成る程、質が違うのか。前々からおかしいと思っていた事があるんだよね」

「蓮もかい?」

「悟君、僕の呪力ってさ少ないよね」

「そうだな、こん中でハルが1番呪力が少ねぇな」

 

 驚きの発言に夏油も硝子も目を丸くする。

 ━

「は? マジで言ってんの、ソレ」

「マジも大マジ。オレの呪力量を『10』として傑は大体『8』くらいだな。んで、硝子は『7』か『7.5』辺り、ハルは『5』良くて『6』ぐらいしかない。

 ハルはオレたち4人の中で1番少ねぇ」

「でもさ五条、セイが呪力切れしたとこ見たこと無いんだけど」

 

 事実、加茂晴蓮は呪術師として活動してから1度も呪力切れを経験した事が無い。

 ━

「恐らくそれが『呪力の質』に関係してんだろうな」

「『呪力の質』……それがいったい」

「オレにも良く分かんねーけど『質』が違えば燃費が変わるんだろうよ。

 オレが六眼で呪力ロスを限りなく0に出来るように、ハルは呪力のロスを……あー、違ぇな。何て言えばいいんだ? 呪力の少なさを質で補う……一般的な呪術師が術式を使う時に『5』の呪力を消費する、その点ハルは『1』で済む。って感じか。

 オレとは違う意味で呪力ロスが少ねぇんだろーな」

 

 五条曰くハル(晴蓮)が術式を使う時、呪力消費量が異常に少ない割りには術式の規模がデカイ。

 あの呪力消費量なら良くて周囲100m程度の範囲がせいぜいだとの事。

 しかし晴蓮の術式は最大で5kmもの範囲にまでに及ぶ、ソレは異常でしかない。

 ━

「さて、話を戻そうか」

「何話してたっけ」

「盤星教の云々だよ」

「そうだ。蓮、君は全部シナリオを書いたと言っていたけど……それはいったいどう言う意味なんか教えて欲しい」

「それこそ一から十までさ。あぁ天元からの任務は流石に違うけど、その後からは概ね僕のシナリオ通りに進んだね」

「つまりアレか、俺を巻き込んだのもそのシナリオ通りって事か」

「おや? 来ていたんですか甚爾さん」

「てめぇに文句と褒美とやらを貰いにな」

 

 そう言いながら校内に入って来たのは息子の恵と(養女)の津美紀を連れている甚爾だった。

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「さっさと褒美とやらを出せ」

「どうぞ、コレです」

 

 渡したのは某夢の国の年間パスポート人数分だった。

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「お、お前マジでコレくれんのか」

「勿論、正当な報酬ですよ。今回僕が思い描いていたシナリオには甚爾さん、どちらかと言えば甚爾さんが飼っている呪霊ですけど、あの呪霊って甚爾さんにしか使えないですからね」

 本当にあの呪霊って便利だよね、何でも収納出来るとか。イヤまあ俺も似たような呪具持ってるけどあの人(明王)由来の呪具とか関係性がある呪具しか入れれないし……使い勝手が良いから文句は無いけど。

 

「それでさ、ハル。どんなシナリオだったの」

「んー……そこまで複雑な事はしていないけど、先ず考えたのは、呪詛師集団『Q』と盤星教『時の器の会』コレらどちらか、或いは両方の解体(殲滅)

 星漿体と天元の同化を阻止。未来を知っているからアレがどうなるかはある程度知ってたからね、同化しなくても何とかなる事も分かってた。

 もし人類の敵になったらなったで申し訳ない(・・・・・)けど傑君に取り込んで貰うか、僕の式神にすれば良いだけの事、だからそこまで問題視はしてなかった。

 最優先なのは星漿体……つまり理子ちゃんとその周囲の人々の安全の確保だね。

 ただ1つ予想外だったのは僕達含め理子ちゃんの排除に来たのが、推定京都高の千同さんと風真琥太郎。彼らの登場は本当に驚いた。でも、彼らであったお陰でスムーズに事が運んだのも事実。

 棚からぼた餅ってヤツだよ、あの辺りは結構綱渡り状態だったからねぇ」

 

 未来視(世界視)が出来る晴蓮が綱渡り状態と言った事に疑問に思った五条は率直に聞く。

 ━

「未来を視てたんだろ? なのに予想外ってどーゆー事よ」

「それがねぇ、あの辺りモヤがかかってると言うかモザイクがかかってると言うか、はっきりとは視れなかったんだ。恐らくだけどあの呪力のせいだろうね」

「あの呪力……あん時のキショい呪力か」

 

 思い出し「アレ見た時吐いたからな」と口をモゴモゴさせる。

 ━

「うん、アレは本当に気味が悪いからね。アレはもう呪力と言うより生物に近いナニ(・・)かだよ」

 

 あの呪力。晴蓮が異様呪力(いようじゅりょく)と呼ぶ奇っ怪な呪力。

 そしてソレがあの男の仕業と知っているのは今は晴蓮のみ、話した方が良いのか、それとも言わない方が良いのか彼には珍しく二の足を踏んでいた。が、五条は晴蓮が何かを知っている事に気づいており当然彼が聞かないワケがない。

 ━

「ハル」

「何?」

「知ってんなら教えて、とーぜん全部な」

「あー、んー……そうだね、皆は知っておく権利は有る」

「晴、あん時のヤツか」

「うんそう。ただ違うのは卵か否かの点だね。……津美紀ちゃんの時は卵だった、だから何とか出来たし津美紀ちゃんにも害は無かった。

 でも今回のアレは違った。孵化(・・)していた、その結果があの変異だと思う。

 人間を呪霊が如く変質させる呪力……僕はアレを異様呪力(いようじゅりょく)と呼んでいる。

 アレは呪力と言うより生物に近いナニかだからね、そしてソレを使える呪詛師を僕は知っている。

 何せ、何度か交戦してるからね」

「!?」

「ハル、ソイツが誰か分かるか」

 

 首を横に振り「残念ながら名前は分からない。知っているのは奇妙な術式を使う……くらいだね」と言い続けて話す。

 ━

「僕が知っているのは、あの呪力を呪霊に寄生させて変質させていた。

 見た事があるのはカエルの呪霊の背中から蜘蛛の様な脚が生えた呪霊と、肩から鉤爪の様なモノが生えた呪霊。そしてあの呪霊から産み出されたミジンコの様なナニか。

 あのミジンコの匂い(呪力)は呪霊のソレじゃ無かった、当然人間の物でも無い。本当に気味の悪い呪霊だよ」

 

 その時の事を思い出したのか顔を顰めて、ソレを仕出かした呪詛師に対して腹立たしそうな表情をする。

 ━

「どちらにせよ、その呪詛師が絡んでるのは確かだ」

「ハルが何度(・・)も交戦してるって事は捕まえる事も仕止める事も出来ねぇくらいに強ぇのか」

「そうだね、蓮であれば大抵の事は対処出来る。

 なのに逃げられる程に強く、そして逃げられる手段が有る……と言う事になるのか。厄介な呪詛師だね」

 

 この中で、晴蓮の実力を疑う者は誰一人いない。理由など言うまでも無い、彼は『最優』の呪術師。

 出来ない事は無いとまで言われる特級呪術師、そんな彼が捕らえる事も仕止める事も出来ない呪詛師に強い警戒をするのは当然だった。

 ━

「今どうする事も出来ない相手は無視しよう。今考えるべき事はこれからどうするか、だ」

「どうする……とは?」

「そりゃ勿論黒井さんと理子ちゃん達の事さ」

「ソレどーすんのさ」

「そうだねぇ、僕の方でどうにかやるしか無いかな」

「例えば何が出来んの、セイ」

 

 少し考え、思い付いた事を2人に提案する。

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「んー、戸籍上死んだ事にして名前も変えて……そうだ。ねぇ理子ちゃん」

「何?」

「寒い所と暖かい所、どっちに住みたい?」

「暖かい所!」

「なら沖縄の方がいいかな」

 高専にアイツの匂い(呪力)もあった。

 見ていたのは確実……俺が居たのかを聞いてくるだろうな。何せ、わざわざ俺を遠ざけるために別の任務を宛がったんだ、たいそう驚いたろうよ。

 初めから見ていたのなら何をしたのか気になっている筈だ。

 だが、それなのにアイツの匂い(呪力)は施設に無かった。

 つまりアイツの中では天内理子も俺も死んでいる事になっている……奴なら俺が生きている事に気づくだろうな、となると向こうから接触してくるか? ……正直、相手するのが本当に面倒くさい、暫くは隠す……隠せんか。

 マジで面倒くさい。

 

「その様な事を出来るのですか?」

「僕ならね。ま、時間は沢山有る、ゆっくり決めればいい」

「……分かった」

「何、悪いようにはしないさ」

 

 実際に加茂晴蓮なら大抵(戸籍を変える程度)の事を出来る。

 問題はも今も尚残る『盤星教』の残党(信者)。彼らにとっては同化していなくても邪魔者であることには変わらない。

 呪詛師達に気づかれて、呪詛師達が勝手に動き、盤星教に持っていけば盤星教は少なくない金銭を払うだろう。

 その反面『Q』は同化しなかった時点で興味は無くした、故に警戒するのは盤星教のみ。しかし、晴蓮なら盤星教に何かするのは明白、警戒度は下がるだろう。

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 盤星教事件から数日後、あの事件に関与しているのかを確認するため歌姫に連絡を取る。

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「行方不明? いつからですか」

「そうなの、半年前に任務に行って以来ね」

「半年も前からですか……」

 上から連絡は無かった、何かあればすぐに俺に知らせるようにしておいた筈だ。なのに何故連絡が無い、俺に連絡がいかないように何かをした……と、考えるのが妥当だな、面倒な。

 それに俺がアイツと会ったのは2・3ヶ月程前、あの時には既に何かをしていたのか………何を考えてやがる。

 俺が知るアイツの術式は体を変える事が出来るという事だけ……どうやって変えられるのかは知らない。俺としても下手に刺して疑われるのは避けたい………今は何もせず泳がすか。相手したくないし。

 

「どのような任務か分かりますか?」

「等級通りの任務だった筈よ、特に変わった事は無かったわね」

 だとするとアイツが等級を偽り先輩方を行かせ死なせた、そしてその死体を回収、いつでも変われるように保存していた………あり得るな。会って見るか? そうすれば今の体が誰なのかが分かる、分かるがマジで相手するのが面倒くさい。

 殴る(殺す)のを我慢するのは結構堪える。やっぱり時間をおくか。

 少なくとも俺の頭が冷えるまでは………




 晴蓮くんの呪力は2倍ではなく原作者大好き2乗です。

 Fate的に表現するなら魔力はCだけど魔力の質がA+以上的な感じ。
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