その血が歩む道すじ:修正版   作:亞忌羅

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 突然の裏切り。(羂索視点)


六十八話

「は? あ?」

 

 口から血を垂らしながら呟いたのは襲撃の主犯、呪詛師弥永宗二(羂索)。何故なら彼は背中から骨ごと心臓を貫かれていた。

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「終わりだ、羂索」

「ぁ、晴……蓮………裏切るのか!」

「裏切る? それは仲間や味方に言うセリフだ。()は君に『仲間』や『味方』など言った事はない」

「晴……蓮!!」

 

 前に倒れこみ太刀から抜け出し、晴蓮に形代を向ける……が、体から抜けた太刀を返し羂索の腕を斬り落とす。

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「がっ……ぁ………」

「羂索、君はいつから僕の事を仲間と思っていた」

「何を……言って」

「よく言うだろう? 敵を欺くにはまずは味方から(・・・・・・・・・・・・・)と。

 僕は君と居る時に1度も君に対して『仲間』とも『味方』とも言っていない」

「それならあの時……君の幻術術式を聞いた時に君は言った筈だ……」

 

 あの時、羂索(・・)と言う名前を聞く変わりの交換条件の時に自分に対して確かに『味方』と言った筈だと叫ぶ。

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「あぁ、あの時の事か。あの時君に言ったのは敵を欺くにはまずはなんとやら(・・・・・)、だ。君に『味方』など言っていない」

「そんなもの……詭弁だろう」

「詭弁? お前が勘違いしただけだろう? 巧みな話術と言って欲しいね。

 そしてもう一度聞こうか、お前はいつから僕を仲間だと思っていた(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

「いつ……から…………」

「今から約12前、京都姉妹校交流会。

 個人戦の第1試合、僕と悟君との試合だ。あの時君、()に居たろ?」

 

 カヒュっと肺から空気が漏れる音をだし口からは絶えず血を垂らすが、それでも口を開く。

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「………まさか!?」

「やっと気付いたのかい君? 僕の幻術術式は1つじゃない。最も、幾つあるかは言わないけどね」

「晴! 蓮!! (おかしい……何故だ、何故治らない)」

 

 胸に手をやり血を撒き散らしながら叫ぶ。

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「滑稽だな羂索。

 ああそれと、反転術式はするだけ無駄だ、僕の術式で治癒の阻害しているからね」

「な……に?」

「まあ好きなだけすればいいさ」

 

 羂索から視線を切らず、太刀は常に首に向ける。

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「ははは、蓮相手に言葉で戦うのは馬鹿がする事だ」

「それは酷くない傑君。いつものヤツは総監部とやり合う政治だよ」

「その結果がコレなんだろう? やっぱり馬鹿がする事だ」

 

 隙を探り逃走を図ろうとする羂索の背中を斬り、指を向け三重に重ねた(隣接する2つの世界から引っ張った)拘束術式を使う。

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「ぐっ……これは……」

「君は見た事がある筈だ。最も、あの時より頑丈だけどね」

 

 羂索の体に水平に6つ血漿の板が、更に左右斜めから同じ様に6つの血漿の板が突き刺さり計18個の血漿の板で拘束する。

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「ッ! クソ!」

 

 何らかの術式を使っているのか拘束術式(血漿の板)がミシミシと音を立てる。

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「簡単には逃がさない。そもそも逃がさない。

 その体は僕の先輩の体だ、返してもらう」

 

一閃

 

 首を真一文字に刎ねる。

 体からスルリと地面に首が落ち、少し離れた場所に転がり止まる。

 体はその場に倒れる前に晴蓮が体を支える。

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『佐々』(伊佐々王(いざさおう))、背中……貸してくれるかい」

 

 名を喚ぶと晴蓮の体から蹄の音を鳴らし、背中には笹が生え苔むし、目は日光の様にらんらんと光る鹿が出てくる。

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「ありがとう『佐々(ささ)』」

「『我をこの様に使うのはお主ぐらいなものよ』」

「ははは、済まないね。でもほら、君に暴れられると困るからね」

「『まあ良い。かの御方が気にかける人間故、共に居てやろうとも』」

「あぁ、これからも頼むよ」

「新しい式神かな、その子」

 

 見慣れない鹿を見て戦闘態勢を解いた夏油が聞く。

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「この子は『佐々(ささ)』。伊佐々王(いざさおう)と呼ばれる妖怪(鹿の化け物)だよ」

伊佐々王(いざさおう)? 峯相記(ほうそうき)に書かれている鹿の化け物の?」

「『我を化け物などと言うか小僧。喰ろぉてやろうか』」

「(喋ってたのは気のせいじゃなかったのか、確かに峯相記でも喋った記述が有ったな)すまない。別に君を貶す訳じゃないんだ、書物にそう書かれていたモノだからつい」

「『フン。貴様は主の友故許してやろう』」

「………さぁ、帰ろうか(・・・・)僕たちの高専に」

 

 

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 ━━━━

 

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「あっはっは、言ったら感づかれちゃいますから。ほら、言うじゃないですか『敵を欺くにはまずは味方から』と、なので夜蛾学長。済みませんでした」

「加茂………お前と言う奴は……」

「ま、僕は気付いてたけどね」

「仕方ないじゃないかな悟。私達くらいにしか気付かないさ」

 

 ホンの僅かな合図。目配せ程度の合図。晴蓮と付き合いが長ければ気付ける程度のモノ。そのため付き合いはそれなりに長いが、五条や夏油程では無いが故に夜蛾は気付けなかった。

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「それで? いつからだ、いつからこんな事をしていた」

「んー………12~13年くらい前からですかね」

「高専に入る頃からか」

 

 12~13年前。丁度高専に入学した頃から晴蓮は羂索と密通し、高専の情報を流していた。これだけでも充分な離叛行為だが、その根底にあるのは高専を守るための行為でもあった。

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「本格的にアレと関わり始めたのは1年生の時の京都姉妹校交流会以降ですね、あの時に2つの幻術術式をあの場にいた全員に掛けました」

「あの時からか!?」

「はい。あの時、羂索………弥永宗二さんですね。体は(・・)、ですが」

 

 体は弥永宗二(・・・・・・)。晴蓮はそう言った。

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「体は? どう言う意味だ」

「そのまま意味ですよ。()は弥永宗二さんのモノです。中身は違いますが」

「蓮、中身が違うと言うのは……」

「あの男の名前は羂索。何らかの術式を使い他人の体を奪う呪詛師です」

「体を……奪うだと」

 

 聞いた事の無い術式、あり得ない術式を聞き目を白黒させていた。

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「名前を知るだけで精一杯でした。

 僕の催眠術式の影響下でありながらあの男……羂索の術式であろう体を奪う方法は残念ながら聞けませんでした。全く、警戒心の強い奴だ。

 名前を知るだけでも手札を1枚切る羽目になった」

「マジかよ、ハルの術式の影響下だっつーのにハルが手札を切るって、ヤベぇ奴だな」

 

 羂索の事を話し合っていると学長室に乙骨と真希が飛び込んできた。

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「蓮兄!」

「やぁ真ーー」

 

 名前を呼ぼうとしたら真希の拳が晴蓮の頬を殴り、だらしない声をあげながら仰け反る。

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「痛いじゃないか」

「何も言わずにこんな事するからだ!」

「言ったら意味ないし」

「もう1発殴る!!」

 

 拳を握り締め殴ろうとする真希を乙骨が「その前に言う事があるじゃないですか!」と腕を掴む。が持ち上がり。

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「う、うわぁあぁあ」

 

 そしてそのまま飛んで行く。

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「はは、相変わらず凄いパワーだね」

「さっすが疑似(・・)フジィカルギフテッド。あのゴリラ程じゃないとは言え真希もデタラメになったよね」

「あー痛い」

「痛いで済む蓮もどうかと思うけどね」

「それはほら、僕シン・巌流の創始者だし、力の受け流しくらい出来ないと。

 それでさ乙骨君、言う事ってなに?」

 

 ひっくり返っている乙骨に何を言いに来たかを尋ねる。

 ━

「あ、はい。あの後被害に遭った人達を探して回収していたんですけど、その………」

「あの弥永って奴の頭が無かったんだ」

 

 全員に衝撃が走る。それが意味するのはーー

 ━

「生きてますね、羂索」

「頭だけで生きてるって何だよ」

「それが術式なのか?」

「つまりは、だ。まだ解決していないと言う事か」

 

 頭に手を置きタメ息を吐きながら溢す。

 ━

「ですね。でも恐らく暫くは何もしてこないかと思いますよ」

「何故だ」

「今のアイツは致命傷を負ってます。それに僕に名前を明かした。

 それを考えれば今、行動するのは危険だと判断し潜伏するかと。もし僕があの男の立場であればそうします」

 

 言い終えた後「何せ首だけですからね」と付け加える。

 ━

「そうか……未来は視れるか?」

 

 口髭を弄りながら晴蓮に聞く。

 ━

「………無理ですね。以前からあの男近辺の未来はモヤがかかっていました、今はそれにも増してモヤが濃い。奴の術式のせいでしょうね」

「体を……変える、か」

「恐らくは。それにしても厄介な奴に狙われてますね」

「他人事じゃないでしょハル」

「今出来る事無いし、他人事さ。それにここ約10年間アイツの相手をしてきたんだ、認めたくはないがアイツが今どう行動するかが何となく分かる」

「へー。何すんの」

「地下に潜り、傷を癒し、時を待つ。機が熟すまでね」

「機が熟す? それはどう言う意味だい蓮」

 

 真希の頭を撫でる手を止めずに答える。

 ━

「奴はまだ何か仕込んでいる。それが何かまでは分からない、それでも奴は何かを企てている。

 嫌な未来が視えた」

「嫌な未来? それは何だ」

 

 沈黙。言う方が良いのか、言わない方が良いのか。言った事での変化、言わない事での変化をも視た上で結論を出した。

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「呪いの………王」

「「「!!」」」

「加茂! まさか……そんな事はーー」

「はい、本来ならあり得ません。ですが、確実に目を醒まします。これはどの未来を視ても起きました。

 これがアイツの……羂索の仕業なのかは分かりませんが……それでも確実に呪いの王が目を醒ます」

「国家転覆どころの話じゃ無いぞ!! この国を滅ぼすつもりなのか!」

「…………最悪そうなりますね」

 

 全員が押し黙り、これ以上の事を聞いても良いのか躊躇っていた時「済みませんがこれ以上は言えません。言ってしまえば確定してしまう。

 観測者が僕だけであれば未来は変えられる、変える事が出来る。未来を知るのは僕だけで良い」と言い、これ以上は何も言わない事を暗に示す。

 ━

「なーハル」

「うん? 何」

「その未来ってヤツさ、どれぐらい近けりゃ教えてくれんの?」

「そうだねぇ………3ヶ月から半年くらいかな。そこまで近いと変えようが無いからね」

「じゃあ今する事はあんの?」

 

 乙骨をジッと見て「彼女の解呪」と言うとすぐに乙骨が「出来るんですか!?」と大声で聞き返す。

 ━

「やろうと思えば出来るけど、それじゃあ意味がない。ね? 悟君」

 

 特級過呪怨霊(かじゅおんりょう)・祈本里香。

 それの正体を五条と晴蓮は探っていた。そして『これが理由だろう』と言うモノが分かった。

 ━

「ああそうそう。まだ言ってなかったね。

 憂太。君、菅原道真の子孫だった」

「つまり乙骨君は悟君の超遠縁。親戚だね」

 

 突然な、そして超特大の名前が出てきた事に五条と晴蓮以外が言葉に詰まる。

 ━

「え、誰。何で真希さん離れるんですか」

 

 衝撃の事実を言われた本人は何も分かっておらず、夜蛾と真希が驚いていた。

 ━

「マジかよ、あの日本三大怨霊の1人の子孫って」

「何か有るとは思っていたが……まさか菅原道真公の子孫とはな」

「え、と……そんなに凄い人なんですか?」

「呪術界においてこれ以上無い程に有名な呪術師だよ」

 

 未だ理解が追い付かずその事(子孫)と自分がどう繋がるのか考えたいたら、晴蓮から耳を疑う事を言われる。

 ━

「乙骨君、率直に言おう。彼女が君を呪ってるんじゃない。君が彼女を呪っているんだ(・・・・・・・・・・・・)

「え………僕が……里香ちゃんを、呪っている?」

「そうだ、君が呪っているんだ。祈本里香の家系を調べても呪術とは関係の無い家だっだ」

「なのに憂太の方はザルだったからね、僕とハルで色々と調べた。そしたら道真公に行き着いた」

「じゃ、じゃあどうやれば解呪出来るんですか! 加茂さんは………加茂さんは『最優』の呪術師なんですよね、どうにかーー」

「さっきも言ったけど、出来る事は出来る。ただ、僕が出来るのは封印だ、解呪じゃない。

 勿論引き剥がす事も出来る。けど、君と祈本里香は魂レベルで結合している、それを無理に引き剥がせば君が廃人になる。

 それと、今から解呪術式を造ろうとすれば早くて2年、長ければ5年はかかる。術式を創るのは簡単じゃない。

 だから君が君の手で、解呪するしか無いんだよ。乙骨君」

 

 あの(・・)加茂晴蓮でさえも2年以上かかると言った事に動揺を隠せなかった。

 ━

「どうやれば………いいんですか……」

「それが分かれば苦労しないって憂太」

「そんな……里香ちゃん」

 

 里香の名前を呟くと、乙骨の背後から特級過呪怨霊・祈本里香が完全顕現する。

 ━

「ゆ"う"だぁ"あ"ぁ"……な"ぁに"ぃ」

「僕がね……君を呪っているみたいなんだ」

 

 里香は呻くだけで乙骨には何もしなかった。

 ━

「里香……ちゃん…………」

 

 その時、第三者の声が聞こえてきた。

 ━

「何、この状況」

「こんぶ」

「私に聞かれても分かる訳ないでしょ」

 

 それは東京・新宿で羂索の式神を倒し終えた真依・パンダ・狗巻の3人だった。

 ━

「やぁお帰り3人とも。頑張ってたのは聞いてるよ真依」

「加茂センがなんで此処で話し合ってんのは分かんねぇけど、加茂センが教育者に向いてねぇのは分かったな」

「しゃけ」

「兄さんはなんと言うか……その、加減を知らないから」

 

 3人の散々な言われように反論する。

 ━

「ちゃんと手加減したよ。だって()しか使わなかったし、大技も使わなかったしさ」

「あー……それは手加減してるわね、一応はだけど

 

 まさかの真依の裏切り? と衝撃の発言に「マジかよ、アレで手加減してんのかよ」とパンダが言うと「しゃけ、青菜」とおにぎり語で答える。

 ━

「それで、兄さん。何が起きてるのか説明して」

過呪怨霊(祈本里香)の話だよ」

「そっちも気になるけど、その前に兄さんが取った行動の事を教えて」

「ん? ああそっちね。三重内通者(トリプルクロス)ってヤツだね」

三重内通者(トリプルクロス)? 何それ」

 

 知らないワードに五条・夏油を除いた全員が首を傾げ、夜蛾が「どう言う意味だ」と代表して聞いた。

 ━

「総監部、総監部を裏から操るゲス……まあ羂索ですが、そして天元。コレら全部に関わり総監部を操り吐かせた情報を羂索に渡し、総監部に吐かせた天元の居場所に行って羂索の思惑を伝え、総監部が考えている事・やろうとしている事を悟君と傑君に伝える」

「なら五条や夏油さんは今回の事知ってたのかよ」

「イヤさっぱり。何も聞かされて無いね」

「悟に同じく。ただ……」

「ただ。何だ夏油」

 

 五条を見て首肯したのを確認した後「悟は蓮が離叛したと言うのに笑っていた、それにとある(・・・)仕草をしたんです」と言う。

 ━

「仕草? 何をしていた」

 

 あの時……呪詛師弥永宗二の抹殺、および加茂晴蓮の捕縛を話し合っていた時に五条がした仕草を、なぞって見せた。

 ━

「その程度で加茂を信じたのか夏油」

「はい」

「五条。お前はどこで加茂の行動を見破った」

「初めからです。

 ハルがアイツに付いて行く時、子供ん時にイタズラをする顔をしていました。なので何か考えた上での行動なのはすぐに分かりました」

「何故言わなかった」

 

 分かっていたのなら話を通すのは当然の事。しかし五条も夏油も誰にも言わなかった、それはーー

 

「夜蛾学長。さっきも言いましたが『敵を欺くにはまずは味方から』です。

 言ってしまえば夜蛾学長は差し迫った危機感・緊張感を無くし、僕にとって都合の良い行動をするでしょう? それでは意味が無い。

 羂索に気取られては全部がご破算です。なので誰にも言いませんでした。

 まあ悟君は気づくだろうと思っていましたし、悟君経由で傑君も分かるだろうと思ったので何も懸念はありませんでした」

「お前達は……」

 

 コメカミを指で押さえ、タメ息を吐く。

 ━

「あっはっは。いやまあ上手くいって良かったですね」

 

 極論ではあるが、この騒動を起こしたのは晴蓮であり、尚且つ最後まで晴蓮の掌の上………予定調和だったからだ。

 ━




 原作とは違い様々な要因が重なり、純愛イベントが発生しなかったため特級過呪怨霊・祈本里香の解呪が発生しない。
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