「ああ………お前さんか……」
「……随分と弱ってますね、倭助さん」
「あの時……お前さんが言った『障り』とやらのせいだろうな。病気………癌だけじゃ説明がつかんらしい」
「そうですか……全く、無理をするからですよ。見つけた時に僕を呼んでくだされば良かったものの」
倭助さんの等級は低く見積もっても一級相当、だが相手が悪すぎた。アレは特級呪物、それも最悪な代物。
確実に奴の仕業だろうな、まさか本当に国を、世界を壊すつもりか? ……やる・やらないで考えればやるだろうな奴なら、そのためにこんな事をするのは常軌を逸しているが。
クソっ、首を刎ねれば死ぬと思っていたが何をすれば首だけで生きられるんだあのクソ野郎は。
「俺でもヤバいと分かるくらいだ、放置は出来んだろうて」
「分かってますよ、それくらい。
……貴方を死なせたくない。でも、これ以上の事は出来ない」
「『最優』のお前でもか」
「今倭助さんが生きているのは僕が定期的に治療しているからですよ」
「医者も驚いていたな。こんな状態……で、生きていられるのは奇跡だってな」
「『最優』ですからね、現代医療を超えるくらい出来て当然ですとも」
「何でもアリだなお前さんは」
「『最優』ですから」
「それで? お前さんの見立てでは……どれくらい持つ」
「………良くて2ヶ月。と、いったところですかね」
2人が話しているのは虎杖倭助の死期、医者が言うように今の倭助が生きているのは奇跡だ。今の倭助は自分の力では起き上がれない程に体は痩せ細っている。
虎杖倭助はどちらかと言えば年齢に見合わない体つきをしていたのに、今は見る影もない。
虎杖倭助は着実に死に向かっている。
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「2ヶ月か、予想より長いな」
「頑張ってますから、お礼の1つくらい言っても構いませんよ」
「その内……言ってやるよ」
「貴方らしい、本当に。………2ヶ月以上もたせて見せます」
「要らん要らん。悠仁の入学式も拝めたからな、もう充分だ。
俺は長く生きた、お前には感謝している。俺はこんな……性格だからな、友人らしい友人は、いない。だが、お前と会ってから……人生が、180度変わった。
カラスを侍させる、姉ちゃんに……目隠しした生意気な小僧。変な髪型だが、それなりに礼節のある小僧に……人間なのかすら分からん奴。いつも酒クセェ若造………楽しい時間を過ごさせてもらった。
だから………もう充分だ」
自身の性格を分かっているからか、友人の少なさはどうでも良かった。きっと自分は1人で……大勢に囲まれる事なく死んでいくのだろうと昔は思っていた。
しかし、ある時に奇妙な子供と出会い人生が一変した。
あまり良いとは言えない世界を知り、フィクションに出てくる様な存在を知り、また自身もソコに入れる……立つことが出来る事も知った。
それからの人生は目まぐるしい程に変わり、全てが過激で理不尽で、そして……死に溢れていた。
それでも友人と呼べる者達が沢山出来た。それ故に虎杖倭助に悔いは無かった、心は満ち足りていた。
きっと、あの不躾な小僧は看取りに来るだろう、葬儀を手伝うだろう。………最期は自分のために泣いてくれるのだろう、と。
だから、彼には一欠片も悔いは無かった。
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「性格悪いですもんね、倭助さん」
「ハッ! 言うじゃねぇか」
「事実でしょう?」
「ははは、違いねぇ」
「……また、来ます」
「伸ばすのか?」
「どちらかと言えば痛みの緩和ですかね」
「ソイツぁ良いな。イテェより痛くねぇ方が楽だからな」
「悠仁君に言っておいてください、『鍛練を怠らない様に』と」
「あぁ、伝えといてやるよ」
「では、僕は仕事が有るのでこれで失礼します」
「おう。次は手土産持ってこい」
「じゃあ、定番のフルーツの詰め合わせを持って来ます」
「安いのはいらねぇぞ、高いの持ってこい」
「これでも僕は名家の出ですよ? 最高級の詰め合わせを持って来ますよ」
「ああ……楽しみだ」
何て事のない会話、ただの世間話。でも、何て事のない世間話が心地好かった。いつも通りの会話が心地好かったのだ、またこのやり取りが出来る事を願っていた。
それでも2人とも分かっている、その『次』が有るのかどうか怪しい事くらい、分かっている。
それでも、願わずにはいられなかった。
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「………悠仁、一応だが……聞いてやる。両親の事……知りたいか」
「興味ねーからいいよ」
「まあだろうな」
「師匠いるし。あの人って何だか親みたいな感じするしさ」
「お前が小せぇ時からの付き合いだからな、そう思っても……おかしくねぇ。
………悠仁、俺が死んだ後はアイツを頼れ。アイツはああ見えて……良いとこ出の坊っちゃんだ、その手の類いは得意だろうからな」
息も絶え絶えに言葉を紡ぐ。
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「へー、師匠ってスゲェ人なんだ。(そう言えばいつも高そうな着物を着てたな)それは、まあ分かったけど……こーけーにんってヤツ?」
「ま、似たようなもんだ。
………悠仁、………お前は強い。アイツから……武術を習ってんだ。強くて、当たり前だ。だから……人を、助けろ。
手の届く範囲でいい、救える奴は救っとけ。迷っても、感謝……されなくても、とにかく助けて……やれ。お前はきっと………イヤ、最後は忘れろ。
ああそれとアイツに、晴蓮に………礼を言っといてくれ。『ありがとよ』ってな」
「何だよそれ、ワケ分かんねーよ。てか自分で言えよ、爺ちゃん? ……爺……ちゃん? ……ぁ………」
天井を仰ぎ見て、ナースコールを掴みボタンを押し、「爺ちゃん、死にました」と伝え、その後にスマホを取り出し師匠、加茂晴蓮に電話をかけた。
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「悠仁君」
「師匠……爺ちゃん、死にました」
「そうか、寂しくなるね」
「爺ちゃんが師匠に『ありがとう』って伝えてくれって、言ってたっス」
「はは、倭助さんらしいね。………そうか、そうか…………あの人はとても
「あ、爺ちゃんが師匠を頼れって言ってたっス。色々としてくれるだろうって」
「あぁ、後見人の話だね。倭助さんから聞いてるよ、君さえ良ければ法的にいつでも後見人になれる。いつでも言うといい」
「ウッス」
昔を思い出すように話し合い、故人を偲び沈黙が流れる。
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「じゃあ僕は倭助さんに会いに行くよ。最期の挨拶くらいはしたいからね」
「あ、今爺ちゃんは霊安室に居ます」
「そう、ありがとう。行ってくるよ」
そう言い、霊安室へと向かった。
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「………うっし。何か書類有るみたいだし、書きに行くか」
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「うん、必要な書類はこれで全部よ」
「ウッス、お世話になりました」
「……本当に大丈夫?」
「そーっスね。こういうの初めてなんで、まだ実感湧かないかな。
でもさっき師匠が来たんで大丈夫っス」
「師匠?」
「武術の師匠っス。子供ん頃から稽古つけてもらってた人っすね。
四角いサングラスかけてて、着物着て白杖持ってる人なんすけど」
「あぁ、あの」
看護師が「イケメンよね」と悠仁に言い「そっスね、性格もメッチャ良いっスよ」と、返すと「何それ完璧じゃない。連絡先教えて」と会話が弾んだいた時、横から自分の名前を呼ぶ者がいつの間にかソコに居た。
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「誰だよ、こちとら喪中だぞ。(どっかで見たことが有るような、無いような……)」
「呪術高専の加茂恵だ、悪いがあまり時間がない。
お前が持っている呪物はとても危険なモノだ。今すぐこっちに渡せ。(さっきもだが、どこか見覚えがある顔だな。どこかで会った事があるのか?)」
「(加茂? 師匠と同じ名前だな知り合い? 後で聞こ)じゅぶつって何だよ」
ポケットからスマホを取り出し、画像を表示して虎杖に見せる。
━
「これだ、持ってるだろ」
「んー? あーはいはい拾ったわ。
俺は別にいいんだけどさ、先輩らが気に入ってんだよね。理由くらい説明してくんないと」
面倒ではあったが呪物とそれに関する事柄を簡潔に説明する。
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「呪いぃ? 何だよそれ、ファンタジーじゃねぇんだぞ」
「お前が信じるかどうかなんてどうでもいいんだよ。続けるぞ、特に学校や病院のような大勢の思い出に残る場所には呪いが吹き溜まりやすい。
辛酸・後悔・恥辱。人間が記憶をーー」
話していると後ろから聞き慣れた声が聞こえてくる。
━
「何度も記憶を反芻……ようは思い返す度に学校や病院はその感情の受け皿になりやすいんだよ」
「兄さ……加茂先生!?」
「師匠!?」
「悠仁君、手続きは終わったかい」
「ウッス、一通りの手続きを終わらせたっス……ん? 先生?」
「先生がなんで此処に?」
「この病院に友人が入院していてね、その人は彼のお祖父さんなんだ。……先程、息を引き取ったけどね。
それより恵君、どうして君が此処に?」
「任務で特級呪物の回収に来たんです」
恵の言葉に眉をピクリと動かし、いつか有った事を思い出す。
━
「その呪物はどこに?」
「杉沢第三高校の百葉箱です」
「俺のガッコーすね」
「………今ソレはどこに有るのか分かるかい」
「それはコイツがーー」
「箱は持ってますけど中身は無いっスよ」
「!? どこに有る!!」
「先輩が持ってますね。あー、そういや今日の夜学校で、アレのお札剥がすって言ってたな。
え……もしかしてヤバい?」
「ヤバいなんてもんじゃない。ソイツ、死ぬぞ」
「
「『相分かった、任せよ』」
「うお!! タヌキ!? デケェ!」
晴蓮の呼び声に呼応するように晴蓮の体から成人男性程の背丈のタヌキが現れる。
━
「すぐに行った方が良さそうだね、案内頼めるかな」
「ウッス!」
晴蓮の一言で全員が目的の学校へと急いで向かう。
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━━━━
━━━━━━
「!! (何だ、この
「………悠仁君、君は此処にいるんだ。
それと、部室はどこに有るのか教えてくれないかな」
「師匠! 俺も行きます! ヤバいんすよね」
「だからこそだ、君は此処にいなさい」
「でも!! 2ヶ月やそこらの付き合いですけど、友達なんです。放っとけません」
この子も羂索同様……イヤ、それ以上に視えにくい。それは恐らくアレと関係が有るんだろう。何せ彼からは………。
何かが起きる、今日此処で何かが起きる。だが、それが何なのかが視えない。
「………
「『アヤツの孫か、似ているな。して、共に居ればよいのだな?』」
「あぁ、頼むよ」
「『ウム、任された』」
「……恵君、行こうか」
「はい」
「師匠!!」
━━
━━━━
「きゃあぁあぁあ!!」
「どうやら既に外に出ているみたいだね」
「気配が無茶苦茶で探しにくいです」
「意識を研ぎ澄ませなさい。君なら出来る」
「はい………居た」
やっぱり地力は高い、甚爾さんの子供だけはあるね。
「ちゅーるちゅーるちゅる」
「俺がやります。『
加茂恵が手で犬の影絵を作ると、影が盛り上がり、二体の狗が現れ狗が
━
「やっぱり便利だよね、
「調伏するのが大変ですけど、出来れば格段と戦闘が楽になります」
「でも慢心はしないように、甚爾さんの協力で複数の式神を調伏出来ているとは言え、君の式神は完全に破壊されたら二度と顕現出来なくなる。
「はい」
━
「早く二人の所に行かなきゃいけないが、少々
晴蓮が腕を横に伸ばすと
落ちた血液が蠢き姿を妖怪『
しかし一点、妖怪『
━
「『珍しいな、俺を呼ぶのは』」
「君は僕の術式と相性が良いからね。
さて、祓おうか」
式神『
━
「(凄い。式神を通して自身の術式を使うなんて………、俺も見習わないと)」
「アレか」
「!?」
ソコに居たのは生徒が持つ呪物ごと取り込む
━
「(間に合わねぇ!!)」
「
『
━
ッ! ………やっぱり……こうなるのか!! 視えてはいなかった、しかし予想は出来ていたが……やっぱり君は、倭助さんの孫だ。
そしてすぐさま生徒2人を
━
「これが
「済みません、倭助さん。彼を……悠仁君を遠ざけるのは出来ませんでした」
一連の出来事を見て血が出る程手を握り締め、今は亡き友人に謝る。
━
「フゥ……何で来た。と、言いたいところだが良くやった」
「何で偉そうなの。因みにあっちで
「俺の式神だ、見えてんだな」
「悠仁君。
「師匠……」
「死に際や今のような特殊状況だね」
「確かに俺今まで幽霊とか見たことないっスね」
「………オマエ、怖くないんだな」
虎杖の行為を見て思った事を聞いた。
━
「いやまあ、怖かったんだけどさ……知ってた? 人ってマジで死ぬんだよ。
爺ちゃんはさ、きっと正しく死ねたと思ってる。でも、こっちは間違った死だと思ったから来た」
「は?」
「だったら……せめて自分が知ってる人くらいはさ、正しく死んで欲しいって思うんだ。まあ自分でもよくわからん」
あぁ、クソ………今になって視えた。彼は……悠仁君は
抱き上げていた女子生徒から何かが落ちる。
━
「これが」
「ああ特級呪物。『両面宿儺』その一部だ」
「りょうめ?」
「言ってもーー」
「……二人とも、今すぐソコを離れなさい」
「!?
晴蓮の言葉を聞き、虎杖を
同時に天井が粘土のようになり、手に変化し虎杖を突き飛ばした恵を襲う。が、晴蓮の術式が恵を縛り、引き寄せる。
━
「『
式神『
━
「先生、ありがとうございます」
「自己犠牲も良いけど考えて動きなさい」
「分かりました」
「いったい何が!?」
「新顔のお出ましだ」
天井から虫の様な
━
「
たが、その攻撃を晴蓮の防御術式が許さず、そして間髪入れず攻撃し、
━
「くっ!」
「うっるせぇ!」
「此処では狭い、外に出そうか。『
式神『
━
「君達は下がってなさい」
「……分かりました」
成るのは確定、だから遅らせる。成った後は……すぐに無力化する。
「なあ加茂、大丈夫なのか? そりゃ師匠が強いのは知ってるけどさ」
「何一つ問題無い、先生は強い」
「課外授業。と、言いたいところだが今は時間が無い。すぐに終わらせようか。
掌の
━
「すげぇ、手から火が出た」
「アレが呪術、
「呪い?」
「呪力と呼ばれる力だ、だから呪力のねぇオマエが居ても意味ねーんだよ。邪魔にしかならない」
「なあ……何で
「喰ってより強い呪力を得るためだ」
「そっか、俺にそのじゅりょく? ってヤツがあれば師匠の役に立てるんだな?」
「!? 何を考えてる馬鹿が! やめろ!!」
ポケットから両面宿儺の指を取り出し……『呑み込んだ』。
━
「(特級呪物だぞ!? 猛毒だ! 確実に死ぬ……だが、だが万が一……良い方向になれば先生と……イヤだがアレは両面宿儺の指。起こりえるのか……そんな事が……)」
!? このタイミングか! クソッタレが!!
「
硬質化した6枚の血液の板が体に突き刺さり体の自由を奪い封じるーーー
━
どこでどうやって指を呑ませるのか考えてたけど、このタイミングしか無かったけど幾らなんでも無理が有る。苦しい。
晴蓮くんが居れば大抵の呪霊は一撃だし、とても苦しい展開だ。
何で宿儺の指が有るのか?どっかの
━━
そう言えば伏黒じゃなかったなって思い出したので恵君の名字は加茂に変わります。
どこまでいっても詰めが甘い