その血が歩む道すじ:完全版   作:亞忌羅

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 いやーどうしたものか。




九十八話

「おん? 真希じゃねぇか」

「ゴリーー甚爾の兄貴か」

「お前も役目は果たしたか」

 

 担ぎ上げている呪詛師を見て問い掛けると「スッゲぇ弱かったぜ、コイツ」と見せ、「そう言う兄貴も片付けてんじゃん」と返す。

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「存分に愉しめたぜ」

「こっちは肩透かしだ、蓮兄の手紙に書いてあった通りにやったらすぐ終わった。マジつまんねぇ、だから死なねぇ内に家入先生見せねぇとな。んで? そっちもか?」

「こっちは気絶してるだけだ、アレ……なんだったか……ああアレだ、呪力封じの枷を取りに行くんだよ」

「アレ便利だよな、術師なら問答無用で呪力封じんだから」

「俺らには意味ねぇけどな」

「私らには呪力ねぇもんな」

 

 雑談しながら高専を歩き「私はこっちだから」と甚爾に言った後に「あー、念のために枷持ってきてくれよ」と言うと「腕が無い奴にどう使うんだよ」の言葉が返ってくる。

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「あー……腕も持ってきたし家入先生にくっつけてもらってから付ければ良いんじゃね? それが駄目なら足にでも付ければいいだろ」

「意味なさそうだが……ま、了解」

 

 言葉を交わして二手に分かれた。

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「いーえいーりせーんせー、急患でーす」

「見せ………意味なくない?」

「……一応生きてますし腕も持ってきてるので」

「ま、取り敢えず治して枷付けて牢屋にでもブチ込んでおくよ」

「よろしくお願いします」

「で? 行くの?」

「蓮兄の指示なので」

「全く、何考えているのか」

「蓮兄の考えが分かる相手って居るんですかね」

「多分居ないわね」

「………誰かが傍に居ないと蓮兄は必ず一人になる」

「私達が傍に居ればいいのよ」

「そうですね。じゃあ先に行ってます」

「行ってらっしゃい、一通り終わったら私も行くよ」

 

 一人になった医務室で棒付きキャンディを口から出し、「晴(セイ)が何を視て、何を考えているか、か。そんな事、誰にも分からないさ。だから……私達が居なきゃ駄目なんだよ」と一人呟く。

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「恵……」

「何したんだ、さっさと高専に戻るぞ。今高専の結界は緩んでる、直接顔を見られない限りオマエが戻っても問題ねぇ、一度五条先生達と合流してーー」

「やめろ……当たり前のように受け入れるな、無かった事にするんじゃねぇ」

 

まだ死ぬ訳にはいかねぇんだ

 

 

「(あぁは言っても虎杖君は迷っているんだろうな、自分が本当に存在していいのかどうかを。だから僕との戦闘で最後までボルテージが上がらなかった)」

「俺は人を殺した! 俺のせいで、大勢死んだんだぞ!」

「俺達のせいだ、オマエ一人で勝手に諦めるな。

 俺達は正義の味方(ヒーロー)じゃない。呪術師だ、俺達を本当の意味で裁ける人間はいない。だからこそ俺達は存在意義を示し続けなきゃならない、もう俺達に自分の事を考えてる暇はねぇんだよ。ただひたすら人を助けるんだ、これはそもそもオマエの行動原理だった筈だ」

「(違うんだ恵、それじゃオマエは……俺が隣に居る限りずっと苦しむ事になるんだぞ!)」

「先ずは俺を助けろ、虎杖。加茂憲倫(のりとし)が……羂索が仕組んだ呪術を与えられた者達の殺し合い『死滅回游』、その死滅回游に母さんや津美紀(つみき)が巻き込まれてる可能性が高い。頼む虎杖、オマエの力が必要だ」

 

 懇々(こんこん)と、そしてどこか縋るように話す。

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「二人をこんな事に巻き込みたくない、だからもう一度言う。オマエの力が必要だ」

 

 

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【『死滅回游』総則(ルール)。

 1.泳者(プレイヤー)は十九日以内に任意の結界(コロニー)にて死滅回游への参加をしなければならない。

 2.前項に違反した泳者(プレイヤー)からは術式を剥奪する。

 3.非泳者(プレイヤー)は結界(コロニー)に侵入した時点で泳者(プレイヤー)となり、死滅回游への参加を宣誓したものと見做す。

 4.泳者(プレイヤー)は他泳者(プレイヤー)の生命を絶つ事で点(ポイント)を得る。

 5.点(ポイント)とは管理者(ゲームマスター)によって泳者(プレイヤー)の生命に懸けられた価値を指し原則術師五点、非術師一点とする。

 6.泳者(プレイヤー)は自身に懸けられた点(ポイント)を除いた百点を消費する事で管理者(ゲームマスター)と交渉し、死滅回游に総則(ルール)を一つ追加できる。

 7.管理者(ゲームマスター)は死滅回游の永続に著しく障る場合を除き前項による総則(ルール)追加を認めなければならない。

 8.参加、または点(ポイント)取得後十九日以内に点(ポイント)の変動が見られない場合、その泳者(プレイヤー)からは術式を剥奪する】

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人を助けろ、何かあれば小僧(晴蓮)を頼れ。自分にできる事をしろ。

 

 

「…………乙骨先輩、宿儺が恵で何か企んでる。渋谷でアイツに肉体を取られたのは多分一度に指を喰わされたからだ、俺の中に今指は十五本。残りの五本全部一度に喰わされても肉体は乗っとられないと思います。それでも……もし次に宿儺と代わったら迷わず殺してください。先輩ならできると思うから」

「分かった死力(ベスト)を尽くすよ」

「恵、俺は何をすればいい」

「先ずは高専に戻って天元様と接触する、五条先生に夏油先生は行き方を知ってる筈だ。兄さんを封印した獄門疆(ごくもんきょう)の封印の解き方、羂索の具体的な目的と今後の出方。死滅回游は未曾有の呪術テロだ、事態を収集するにはこの二つの回答がマストだ。この問いに答えられるのは天元様しかいないと思う」

 

 何かを考え「あの人は九十九さんは知らねぇかな」と聞くと「九十九さんとはもう話した、これはあの人の案だ」と答える。

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「あの人も今高専に潜伏してる」

「潜伏?」

「上層部と関わりたくないらしい」

「問題は天元様の『隠す』結界なんだ、シャッフルが繰り返される千以上の扉の内一つだけが天元様の居る薨星宮へと繋がっている」

「それを引き当てなきゃ天元……様に会えねぇ訳か。…………ごめん恵、やっぱ今聞くわ」

「何をだ」

「俺と一緒に真人と戦って、真人の術式を受けた釘崎はどうなった」

 

 その問い掛けに一瞬顔が険しくなり、それを見た虎杖は察する。

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「そうか……分かった。……分かった」

 

 そう呟いていると影から『ぬぅ』と現れた人物……脹相(ちょうそう)が「その『隠す』結界とやらだが、なんとかなるかもしれない」と話し掛ける。

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「聞いてたんですね」

「どう言う事だ脹相(ちょうそう)」

「以前真人が宿儺の指と呪胎九相図(俺達)を盗み出しただろう、それと同じ事をする」

 

 

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「やっと来たか」

「真希姉さん!? あ、ども」

「もう揃ってたんですね」

「俺はハルの指示はねぇけどやらせたい事くらい分かるからな」

「私は蓮(れん)から天元様に会いに行けと指示が書いてあってね、呪霊や呪詛師を適当に狩って高専に来たんだ」

「私は除け者だったけどね」

「蓮(れん)は九十九さんの事嫌ってますから仕方ないんじゃないですかね」

「私は結界術を使う呪詛師の捕縛と高専への帰還を指示された、受肉体だって言うから期待したんだが弱くて肩透かしだ」

「俺もだな、俺は禍求夜(カグヤ)を捕らえろって指示があった。久しぶりに愉しめたからそれなりに満足だ」

「なんや、ようやっと来たんか。暇すぎて寝とったわ」

「なんで禪院さんがここに?」

「蓮クンの指示や」

「兄さんの?」

「『呪霊を祓ったら東京高高専に行け』ってな、せやから来たんや。親父と扇の爺は別で動いとるみたいやけどまだ結界(コロニー)には入っとらんようやな、多分俺からの指示待ちやろ」

「それでさ、どうやって下に行くつもり?」

「五条先生は行き方を知っているんじゃ」

「あん時は天元が招き入れたからな、簡単に行けたが今回はそうとも限らねぇ。ゴリラは」

「俺らなら結界を素通りできるが何かしらの足跡が無いと無理だ」

「どないすんのや」

「それは俺からの説明しよう。先ずはーー」

 

 

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「この方法なら理論上行ける」

「good」

「あー、一つ聞いていいか? 誰だ?」

「……取り敢えず俺の、兄貴って事で」

 

 その言葉を聞き脹相(ちょうそう)が「悠仁ー!!」と叫ぶ中「行こう」と虎杖が言い、全員が動き出す。

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「ここが薨星宮の入り口……」

「入り口の入り口だな」

「入り口の、入り口?」

「この千の扉から当たりを引く必要があるけど」

 

 そう言い脹相(ちょうそう)を見て脹相(ちょうそう)が頷き「任せろ」と答える。

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「あれだ、間違いない。この先に弟達が眠っている、開けるぞ」

 

 眼下には無数の木々が生い茂っていた。

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「降りよう、奥に薨星宮へと続く昇降機がある」

 

 少し歩き九十九が「何かが可笑しい」と呟くと「天元とやらの結界だな」の言葉が甚爾から聞こえ「私達なら結界の繋ぎ目で道が分かる」と真希が答えた。

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「何故こんな事をするんですかね天元様は」

「直接本人に聞けばいいさ」

「にしても俺達がここに来れる事をなんでハルは分かってたんだ?」

「あの男は俺の存在を知っていた、そして俺に問い掛けた」

「何を?」

「『俺達兄弟が羂索な味方なのか』、とな。

 あの男は俺が高専側につくことを知っていたんだろう、だからあの時俺を殺さなかった、殺さないように立ち回っていた」

「全部掌の上か」

「みたいだな」

 

 

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「血痕? さっきもあったけど何かあったの? コレ」

 

 その言葉に「昔に色々あってね、だからここに来ると複雑な心境になるね」と返すと「ハルの仕業とは言えあんなん見せられたんだからな」とボヤいた。

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「ああ、あん時の偽物か。そう言やぁお前さんら騙されてたんだったな」

「蓮兄何したんだよ」

「私もその辺り知らないんだけど」

「加茂先生が昔に何かしたんですか?」

 

 その問い掛けに夏油が重い口を開く

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「全員を騙したんだ」

「全員? 全員って誰ですか?」

「文字通り全員だよ。私達も敵も、全員蓮(れん)の術中に嵌まり騙された」

「騙される方が悪いやろ」

「あの呪術使われて騙されるなってのが無理なんだよ」

「ハッ、ご自慢の六眼は役立たずやな」

 

 五条と直哉が言い争っている中、「師匠がなんの為にそんな事を?」と質問すると「蓮(れん)がよくやる方法だよ」と答えが返ってきた。

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「『敵を欺くにはまずは味方から』だな」

「つい最近もやったね」

「ああ、私達は与君が呪詛師側についたスパイと睨んでいた。しかし、実際は蓮(れん)の掌の上だった」

「まー仕方ないでしょ、晴(セイ)が徹底的に隠してたし、多分与君は薨星宮に居るだろうし」

「ああも露骨にやってんだ、ダブルスパイとか思わねぇよ」

「俺は露骨すぎて変やと思うたけどな」

「嘘いうんじゃねぇよタコ」

「蓮クンの傍におるクセに分からん方が可笑しいやろ」

 

 と、また言い争うのを無視し甚爾がなんて事もないように「未来(世界)を視てんだ、俺達に分かるかよ」と呟き、「『虚を突き、実を得る』蓮兄がよくやるヤツだな」と真希が答えた。

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「そう言えば特訓の時もそんな事言ってたな」

「蓮兄は戦闘に未来視(世界視)を使ってっからな、こっちの動きは読まれて当然だ」

「ソレを超す速度で叩きゃいいだけだ」

「ソレができんのはゴリラだけだろ」

「それでも千日手なんですよね?」

「そりゃあな、例え未来視(世界視)より先に動いても晴(ハル)に当たらなきゃ意味がねぇからな。しかもアイツはその行動を見越した上での行動をしてくる、お互い攻めあぐねるんだよ。ま、式神使われたらどうか分かんねぇけどな

「蓮兄ってどんだけの式神が居るんだ?」

「数えきれない程かな」

「ああそれと、お前達の特訓では未来視(世界視)使ってねぇぞ」

「は?」

「晴(ハル)が言ってたぜ、『使わなくても問題ない』ってな」

「マジかよ」

「あー、なんだっけか……ああ、『匂い(呪力)と風の動き、衣擦れの音で分かる』だったな」

「でも私は呪力ねぇぞ」

「汗の匂いだとよ」

「汗の匂い……そんなに臭いのか?」

「ハルは鼻も耳も良いからな、真希達なら未来(世界)視(視)が要らねぇんだろ」

 

 高専組が話し合うなか深部に近づくにつれ、九十九はどこかピリつき「(空性結界をここにまで? 何故ここまでする)」と自問自答し「(拒絶しているのか?)」と天元の行為に当たりをつける。

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「なんもねぇ」

「これが本殿?」

「やはり拒絶していたか、ここに来るまでにも幾つもの空性結界が張られていた。天元は現(うつつ)に干渉しないが、加茂晴蓮が封印された今なら接触が可能だと踏んだんだが……。(拒絶されているのは私達ではなく私か?)見通しが甘かった」

「つってもハルの事だしここ以外に来るしかないでしょ」

「蓮(れん)にも何か考えがある筈だ」

「蓮クンが意味も無い事せぇへんからな」

「だが誰も居ない、奴も出てこないならここに用は無い。戻るぞ」

 

 帰ろうとすると「帰るのか?」の声が聞こえる。

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「想定より多いのは加茂晴蓮の仕業か、だが挨拶をしよう。初めまして、禪院の次期当主と禪院の子にして加茂晴蓮の妹でり双子の片割れのフィジカルギフテッド、そして兄の天与の暴君に呪胎九相図(じゅたいくそうず)。道真の血、最後に宿儺の器。

 だが、本当に多いな、ここまでの人数になるとは思ってもいなかった」

「(双子は分かるが禪院の子ってなんだ? 終わったら蓮兄に聞くか)」

「私には挨拶なしか? 天元」

「君は初対面じゃないだろう、九十九由基」

「私にも挨拶無し?」

「君も加茂晴蓮と共にここへ何度も来ていたろう? 今更する必要は無い」

 

 目の前に居る目が四つある天元を見て「天元様……そのお体は……」と呟き「ん? なんだ加茂晴蓮から聞いて無いのか。イヤ、加茂晴蓮であれば伝えないだろうな」と返され若干イラだった声色で「ソレどー言う意味だよ」の言葉が響き、「十二年前、私は星漿体と同化をしていない。別の星漿体が居ると言うのは嘘だ、故に私は『進化』したのだよ」と答えた。

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「(あの時星漿体がもう一人居た訳じゃなかったのか、加茂君はソレを知っていたのか? どうやって知った。未来(世界)を視たのか? どこまでの未来(世界)を視た)」

「そんな……蓮(れん)は確かに」

「伝えない方が良いとでも判断したのだろうな、あの男らしいやり方だ」

「晴(ハル)ならしてもおかしかねぇな」

「どうやら天与の暴君は切り替えが早いらしいな」

「無駄話してねぇで本題に入れよ人外」

「良いだろう」

「その前に聞きたい事がある」

「何かね」

「何故薨星宮を閉じた」

「羂索に君が同調している事を警戒した、私には人の心までは分からないのでね。加茂晴蓮も同じ……イヤ、あの男はソレ(心)さえも見据えた上での行動をするか」

「加茂君がそう呼んでいたな、それで羂索とやらはなんだ」

 

 当然の疑問を投げ掛け「かつて、加茂憲倫(のりとし)、今は宿儺の器である『虎杖倭助』の肉体に宿っている術師だ」と答えると、「爺ちゃんの体に……なんで……」と弱々しい声で呟く。

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「今更ながら慈悲の『羂』に、救済の『索』か。皮肉にもなってないね」

「天元様」

「何かね」

「師匠を封印した奴は本当に爺ちゃんの体なんですか」

「(当然の反応だな、だがよくこのタイミングで割って入れるな)」

「ああ事実だ、ここにいる(・・・・・)与幸吉が確認した」

「やっぱり居たんだ」

「世話をしろと言われてね」

「爺ちゃんがなんでそんな事に……」

 

 奥の方から人影が「奴の術式だ、先生に付けていた小型呪骸(じゅがい)で聞いていた」と近づきながら話してくる。

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「君は与幸吉君だね? 君の天与呪縛は相当酷いモノだと聞いていたが」

「先生の術式だ、擬似的に体を治している。

 そして擬似的の治癒である以上天与呪縛の還(恩)り(恵)は適用されている、だから日本中に俺の呪(じゅ)骸(がい)が居る」

「彼は本当になんでもできるね」

「九十九由基、お前は先生を過小評価し過ぎだ」

「しているつもりは無いけど結果的にそうなってしまったね。それで? 羂索の術式と言ったがどんな術式なんだい」

「聞いていた限りの話である事を念頭に入れておけ」

「そうしよう」

「奴の術式は『脳を入れ替えて肉体を転々と移り変われる』、そしてーー『肉体に刻まれた術式も使える(・・・・・・・・・・・・・)』そうだ」

「つまり今の羂索は虎杖倭助の術式、還魂(かんごん)操術が使えると。だからあんな芸当ができた訳か」

「そうだ」

「待ってくれ、倭助さんの遺体は常に監視していた、移り変わる瞬間は無い筈だ」

「それが一度だけ、数分の間だけ監視の目が離れた瞬間がある」

「いつだよ、建人が常に見てたしハルの式神も常に付いていた」

「一本目の宿儺の指を回収する時だ、あの時先生は虎杖倭助の傍から離れた、式神を付けずにだ。その瞬間に移り変わられたんだよ」

「変わった瞬間は分かった、でもその後も倭助さんの遺体は有ったし倭助さんの遺体だった、火葬するまで変わっていなかった」

「その理由は別の術式だ。奴は海外に居るときにとある術式を手に入れた」

「変えても誰にも気づかれない術式なんてあり得ない」

「術式は『チェンジリング』、そして奴は使う時に縛りを科した。それは『チェンジリングを使うのは一度きりにする』と言う縛りをな。

 その結果術式の性能は底上げされ誰も入れ替わっている事に気づけなかったんだ」

「そんな………爺ちゃん……」

「宿儺の器には申し訳ないが本題に戻ろう。君達がここに来た理由は分かっている」

「それなら話はハエぇな、さっさと話せ」

「その前に聞きたい事があります」

「検討はついてるが念のため聞こうか」

「僕達がここに来た理由は羂索の目的と、獄門(ごくもん)疆(きょう)の解き方です。知っている事を話してもらえませんか?」

「勿論……と、言いたいところだが、一つ条件を出させてもらう。

 乙骨憂太、九十九由基、天与の暴君、呪胎九相図(じゅたいくそうず)。四人の内少なくとも二人はここに残り私の護衛をしてもらう」

「護衛?」

「不死のアンタには必要ないだろ」

「さっきも言ったが十二年前に私は星漿体との同化に失敗している、その為老化は加速し私の個としての自我は消えーー」

「『天地そのものが天元さまの自我』だっけ? 晴(セイ)が言ってたヤツ」

「その通りだ反転使い、だから護衛をしてもらう」

「でも不死なんですよね」

「蓮兄みたいに封印とか危惧してるんですか」

「フェアじゃないなぁ天元。護衛の期間も、理由も明かさないのか?」

 

 その言葉を聞き僅かな沈黙の後「では羂索について話そうか」といい、続けて「羂索の目的は日本全土対象とした『人類への進化』の強制だ」と語る。

 ━

「それは兄さんからの手紙に書いてありました、具体的に何をするつもりなんですか? 羂索は何故あの時天元様の結界を利用し、呪霊・真人の『無為転変(むいてんぺん)』で日本の人間を全員術師にしなかったんですか?」

「単純な呪力不足だ、還魂(かんごん)操術で摘出した魂と術式(・・)は操れるが呪力は外部呪力となり術師に還元されない。

 還魂(かんごん)操術は魂を操るだけの術式。だから呪力は足りず、術式で一人一人進化を促すのはあまりにも効率が悪い」

「じゃあどうすんだよ」

「羂索が取る進化手段は一つ、そしてそして呪霊操術の君であれば意味が分かる筈だ」

「………人類と天元様との同化、ですね」

「ですが天元様との同化は星漿体にしかできない筈です」

「以前の、十二年前の私ならね。十二年前から進化を始めた今の私なら星漿体以外との同化もできなくもない(・・・・・・・)」

「だが天元(オマエ)は一人だろう、どうやって複数の人間と同化するんだ」

「今、君達の前に居る私ですら私ではない。進化した私の魂は至る所に在る。言っただろう、天地そのものが私の自我であると。私と同化した人間は術師という壁すら超え、そこに居てそこに居ない新しい存在の形だ。

 私には結界術があった、だから私は進化後もこうして形と理性を保てているが、もし人類が進化し、その内の一人でも暴走を始めたら世界は終わりだ」

 

 険しい表情で「何故だ」と短く聞き「『個』としての境界がないんだよ、悪意の伝播は一瞬さ」と返し続け様に「一億人分の穢れが世界に流れ出る、先の東京が世界で再現されるんだよ」といい終える。

 ━

「なんの為にそんな事すんだよ」

「さてな、これも言っただろう。私には人の心までは分からない」

「それよく晴(セイ)に言われてたよね、天元さまは人の心が無いって」

「彼の場合は意味合いが違うだろうがね」

「でも、それは天元様が拒否すればいいだけじゃないんですか」

「そこが問題なんだ、呪霊操術使い。君に私はどう見える」

「…………人間より、呪霊に近い存在です。私の呪霊操術の対象になる。蓮(れん)の指示書に書いてあった」

「どんな」

「『事が事なら取り込め』とね」

「そう、その通りだ。今の私の組成は人間より呪霊に近い、そして私の魂は至る所にある。

 あらゆるモノに宿る魂を操れる還魂(かんごん)操術を使える虎杖倭助の術式の対象内だ」

 

 その一言は全員を驚愕させるのに充分な発言だった、事ここに到って状況の最悪さを痛感する。

 ━




 う~ん困った。
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