忙しさもあってなかなか更新できませんでしたが何とか最新話です。なんだかんだ10000字超えてましたがお楽しみいただければ幸いです。
それでは本編どうぞ!
雄英体育祭来る!
臨時休校が明けた翌日、マスコミの出待ち取材をなんとか振り切って登校した僕たちなんだけど…
「おし、じゃあ何か言い残したいことはあるか?」
「いや心配かけたのは謝るよ!でもこれはいくらなんでも横暴だろ!?」
猿渡君が縛られて宙吊りにされています
なんでも相澤先生を助けようと敵に突っ込んだ時に瀬呂君から『後で袋叩きにする』って言われていたらしく、それで今テープでぐるぐる巻きで吊るされているんだとか。
「確かにお前に助けられたのは事実だ、俺たちも情けなかったと思ってるし、本来なら文句を言う資格もない。ただそれはそれとしてクソ心配させた罰として1発殴らせろ。」
「おかしいって!?何もそんなに怒んなくてもいいじゃん!あ、ちょっと待って砂藤ドーピングしないで!障子も腕複製すんな!確実に殺そうとしてるやん!」
どうやら瀬呂君たちの怒りは想像以上だったらしい。あまりにも容赦が無さすぎる。
「出久、飯田助けてくれ!俺まだこんなところで死にたくない!」
さすがの仕打ちに耐えかねて猿渡君が助けを求めてきた。うーん、ヒーロー的には困っている彼を助けてあげたいところなんだけど…
「すまないが今回ばかりは僕も瀬呂君たちに同意だ。1発お灸を据えてもらうといい。」
「あはは、ごめんね猿渡君。今回は助けない方がいいかなって。」
「んな殺生な!?」
うん、飯田君もかなり怒ってる。正直僕も思うところはあったし今回はいい機会だと思う。
「よーし、委員長の許可が降りたぞ。やっちまえ!」
「待て待て待て!あっ、葉隠!一生のお願いだから助けて!」
とうとう恥も外聞も捨てて葉隠さんに助けを乞いだした。でも話を聞く限りこの中で1番怒ってるのって…
「……猿渡君なんて知らない!」
「…っ」
そう、実は瀬呂君よりも飯田君よりも今回の件で怒ってたのは葉隠さんなのだ。猿渡君本人は詳しく知らなかったみたいだけど、葉隠さんは彼がもう帰ってこないんじゃないかとあの場で泣き崩れていたらしい。
そこまで心配をかけた相手に対して軽々しく助けを求めれば…こうなるのも仕方ないと思う。
「残念だったな猿渡、いいかげんに腹くくれよ。」
「もういっそ殺してくれ……」
その後瀬呂君たちから1発ずつ殴られ、彼への制裁は幕を閉じた。ただ殴り終わった彼ら曰く『葉隠に拒絶されたことの方がよっぽど苦しそうだった』との事だ。
*
「うぅ…なんでこんな目に…」
「うわっ、朝からズタボロやね猿渡君。」
「まさか有言実行されるとは思わなんだ…」
あの後瀬呂たちから文字通り袋叩きにされようやく解放してもらえた。褒められることをしたとは思ってはいないが、それにしてももう少し温情があっても良かったんじゃなかろうか…
「みんな心配しとったからね、もちろん私も。あと透ちゃんにはちゃんと謝らんとダメだよ。」
「…ああ、あれにはさすがに堪えたからなぁ。」
まさかあんな風に拒絶されるなんて思ってもみなかった…後でしっかりと謝ろう。詫びに飯でも…いや、物で釣るのは良くないだろ。でもただ言葉で謝るだけなのも…
「あ"ー…こんなに悩むなら中学でもちゃんと友だち作っとくんだった…」
「何で悩んどるんか知らんけど、こういうのは素直に謝るのが1番やと思う。」
「…そりゃそうか。」
考えるのは一旦後にしよう。もうすぐホームルームが…あれ?
「そういや、今日のホームルームってどうなるんだ?相澤先生入院中だろ。」
「確かに、代わりの先生が来てくれるんかな?」
よくよく聞けば周りも同じことを話してたみたいだ。そのまま誰が来るのかと予想してると──
「おはよう。」
ドアから
「相澤先生復帰早えぇ!」
「いくらなんでもプロすぎるだろ!」
「先生、ご無事だったのですね!」
「無事言うんかなアレ…」
「俺の安否はどうでもいい…何よりまだ戦いは終わってないからな。」
相澤先生の言葉に緊張が走る。戦いが終わってない…ってことはまたあの時みたいに敵が──
「雄英体育祭が迫ってる。」
『クソ学校っぽいの来たァ!!!』
雄英体育祭
かつてスポーツの祭典と謳われたオリンピック、しかしそれらは超人社会の発展とともに規模が縮小し形骸化した。
そして、現代日本においてオリンピックに代わるスポーツの祭典が雄英体育祭だ。
「でも敵に襲撃されたばっかで開催して大丈夫なんですか?」
「逆に例年通り開催することで雄英のセキュリティに問題がないことを示す腹積もりらしい。その分警備体制も例年の5倍に拡大するそうだ。それにうちの体育祭は襲撃ごときで中止していいイベントじゃないからな。」
雄英体育祭は国民が熱狂し、トップヒーローたちが未来のヒーローを発掘すべく注目する、いわばヒーロー科にとって最大のアピールの場。ここでの活躍しだいでヒーローとしての将来が約束されると言っても過言ではないビッグイベントなのである。
「プロになればまずはヒーロー事務所に
全員の顔つきが一気に変わる。ここでのチャンスをみすみす逃すようなバカは居ない。ここに集まっているのは自らの手で未来を切り開くことしか頭にない最高の有精卵どもだけだ。
「年に1回、合計で3回しかないチャンス、ヒーロー志すなら絶対に外せないイベントだ。その気があるなら準備は怠るな!」
『はい!』
*
午前中の授業も終わった昼休み。いつものように梅雨ちゃんたちと食堂へ向かおうとすると猿渡君が声をかけてきた。
「なぁ葉隠、ちょっと──」
「あっ梅雨ちゃん、響香ちゃん早く行こ!」
食い気味にそう言い猿渡君の横を通り抜ける。……今はどうしても、顔を合わたくなかった。
「ねぇ透ちゃん、あなた少し変よ?」
「猿渡のこと徹底して避けてるよね。何かあったの?」
「う、ううん!何でもないよ!」
「…嘘もここまでわかりやすいとギャグにしかならないよ。」
「ケロ、良かったら話を聞くわ。誰かに聞いてもらうだけで楽になることもあると思うし。」
「…あはは、まぁこれじゃ隠せないよね。」
本当に良い友達に恵まれたと思う。クラスの女子はみんないい人ばかりだけど、この2人なら尚のこと話しやすいと思った。
「実は今朝のことでちょっと後悔してて…」
「今朝のこと?猿渡が男子にシバかれてたやつ?」
場所を食堂に移してから私は2人にぽつぽつと話し始めた。
「うん。あたしあの時猿渡君に助けを求められてさ、『猿渡君なんて知らない!』って言っちゃったんだよね。」
「確かにそんなこと言ってたわね。」
「それがどうかしたの?」
「言った後にガープさんから聞いた話を思い出したんだ。猿渡君は独りぼっちになることが何よりも辛いって話。」
USJで相澤先生が、プロヒーローが簡単にやられてしまうような相手に、まるでコンビニに行くかのように気軽に挑んでいく姿を見て…私はもう彼が二度と帰ってこないんじゃないかって思って、心配で泣き崩れてしまった。
私を何度も助けてくれた、いつも私のイタズラに笑って付き合ってくれた優しい彼がいなくなるなんて考えたくもなかったんだ。
なのに彼といったらなんだ、こっちがあの時どんな気持ちで見送るしかなかったかなんて知りもしないで『助けて』なんて言ってくる。
それでつい腹が立って…彼を拒絶するような事を言ってしまった。瀬呂君も言ってたけど、守られた私たちには感謝こそすれ彼に文句を言う権利すら無いはずなのに。
「あれを言った時ね、一瞬だったけど猿渡君凄く苦しそうな顔してたんだ。その顔を見てこの前の話を思い出して…なんて酷いこと言っちゃったんだろうって思って…それで今はどんな顔してまた話せばいいかわかんなくなっちゃって。」
「…ふーん。」
「ケロ…」
本当は前みたいに仲良くしたいけど、変に避けちゃったせいで謝りづらくなっちゃったし…どうしたらいいんだろ…
「透ちゃん、前にも言ったけど私思ったことは何でも言っちゃうタイプなの。」
「う、うん。」
「その上で聞きたいのだけれど…」
な、なんだろ。いったい何を言われ──
「あなた、猿渡ちゃんのことが好きなの?」
………へ!?!?!!?!
「うわー、ストレートに聞いちゃった。」
「なっ、えっ、ナンデソンナコト!?///」
「だっていくらきっかけがあったとはいえこの短期間で彼のこと泣くほど心配するなんて、ただ仲が良いからだけの気持ちじゃ考えられないと思うの。」
「ウチもそう思う。そもそもなんとも思ってなかったらここまで悩まないでしょ。」
「響香ちゃんまでぇ…///」
確かに男子の中では1番仲良いし、正直かっこいいって思ったことも……そうじゃない!今まで一度も猿渡君が好きだなんて考えた事もなかったよ!
「まぁ好きかどうかは置いとてさ、仲直りしたいならちゃんと謝るしかないよ。」
「そうね、そもそも猿渡ちゃんもそのために声をかけてきたんでしょうし。面と向かって話せばすぐに解決すると思うわ。」
「…そうだよね。よし、放課後になったらちゃんと話してみる!」
「それがいいよ…ところで実際猿渡のことどう思ってんの?」
「も、もう!だからなんとも思ってないって!」
「耳郎ちゃん、好きね。」
その後も響香ちゃんにからかわれたりしたけど、気持ちはかなり楽になった。
うん、ちゃんとごめんなさいしよう。そこからはいつも通りの関係に戻るんだ。
*
「それでどうだったんじゃ、例の敵連合とやらの調べは。」
「…懸念していた通り、例の脳無と呼ばれていた敵から複数の個性が与えられた形跡を確認したそうです。」
昼休みの仮眠室ほぼ自分専用の部屋と化したその部屋で、オールマイトとガープはUSJを襲った敵について話していた。
「2年前から影を感じ、センゴクとつるちゃんの独自捜査でその可能性には行き着いておったが…これで確定じゃな。」
「ええ、奴が…
自然と脇腹に手が伸びる。
この傷を負わせた張本人、超人社会黎明期より裏の世界に君臨し続けた最悪の魔王。
その男は他の個性を奪い、他に与えることが出来る自身の個性と共にこう呼ばれた──
「よもやあの傷を負って生きているとは…信じたくない事実です。」
「あまり当たって欲しくない予想じゃったがな。敵連合…いや、恐らくあの死柄木とかいう男の後ろに奴がおる。」
「…だとすれば一刻も早く奴らの足取りを掴まねばなりませんね。」
「用意周到な奴のことだ、そう易々とは見つからんじゃろうて。それよりも俊典、お前さん後継者の小僧にはどこまで話してあるんじゃ?」
「…OFAがどのような個性なのか、そこまでしかまだ話していません。」
「折を見て、全てを伝えた方がいい。そう遠くないうちに、ワシらはもう一度やつと戦うことになる…もしもの時は次の世代に託さにゃならんやもしれんからな。」
「そうならないように私の代で全てを終わらせてみせます。…緑谷少年が引き継ぐのは、『平和の象徴』という存在だけでいい。」
「あまり背負い込みすぎるな。元はと言えば、ワシらと志村の代でケリをつけるはずだった話じゃ。」
「……」
「なぁ俊典、お前さんは反対するじゃろうが…ワシはこの事を、孫の拳一にも伝えるべきだと思っとる。」
「なっ、なぜ猿渡少年に!?彼は後継者でも何でもない、この一件とは無関係の人間ではありませんか!」
「ワシもできることなら巻き込みたくはない。じゃがワシとお前さんが出会い、その後継者とワシの孫が出会った…ワシにはこれがなんの関係もないこととは思えんのだ。」
「ガープ先生…」
「今すぐにという話ではない。じゃが必要があれば、ワシは迷わず拳一に話すつもりじゃ…そこだけはどうか分かって欲しい。」
深々と頭を下げるガープ。今目の前にいるのは孫を思う1人の祖父でしかないのだとオールマイトは理解した。
「顔を上げてください。そうならないように、我々で今度こそ決着をつけましょう。」
「…ああ、そうじゃな。」
弟子と孫、互いにかけがえのないものを抱えたもの同士、過去の遺恨を次に繋ぐまいと改めて誓い合うのだった。
*
結局昼休み以降葉隠と話す機会は巡ってこなかった。本格的に避けられてるのか授業が終わってすぐ教室を出ていったし…もう仲直りはできねぇのかな…。
ピロン
そんなことを考えてるとスマホから通知音が鳴った。メッセージは…葉隠からのものだった。
『中庭で待ってる!』
一言だけの簡潔な内容だった、でもそれを見て俺は一も二もなく教室を飛び出した。
何を言われるかまではわからんが、話す機会を向こうがくれたんだ。誠心誠意謝ろう、なんでかは分からんがあいつにだけは嫌われたくは無い。
中庭にはすぐに着いたがまだ誰も居ない──こともないらしい。
庭の真ん中に出て目を閉じる、正面から段々と気配が近づいてくるのを感じて…
「えいっ!」
「いてっ。」
そのまま額に手刀を落とされた。
「…なんでまた完全透明スタイルなんだよ。」
「脅かそう思って!…でもそう言う割には気づいてたよね?」
「1発殴られるぐらいの覚悟はしてきたからな。…あの時は本当にごめん、無茶して心配かけて悪かった。」
「…ううん、私も今朝酷いこと言っちゃったから。」
「葉隠は何も悪くないだろ。瀬呂たちもそうだったけど、結局は俺の──」
「聞いたの、3年前の猿渡君の話。」
───そう言われて一瞬思考が固まった。
3年前の話…ってことは、父さんが死んだあの事件のことだろうな。
「…じいちゃんから聞いたのか?」
「うん、私だけじゃなくてクラス全員が。」
「あのクソジジイ、余計なこと話しやがって。」
「聞いたのは私なの。…ごめん、やっぱり知られたくなかったよね。」
「そういう意味じゃない。聞いて気分のいい話じゃないからな、あまりに聞かせたくなかっただけだ。というか、それを聞いたからって葉隠が謝ることなんて何一つないだろ。」
「…話の中でね、ガープさん言ってたんだ。猿渡君は独りぼっちになることが何よりも辛いから、大事な人を失わないように無茶をするって。その話を聞いてたのに、ちょっと腹が立ったからってあんな拒絶するようなこと言っちゃったから。」
「いや、それだって結局は──」
「でもあの時の猿渡君、一瞬だったけど凄苦しそうだったよ?」
「……本当に余計なことしか話さんなあのジジイ。」
確かに葉隠にあんなこと言われた時は本気で辛いと思ったが…まさか顔にまで出てたとは思わなかった。
───ああ、今になってなんであんなに辛かったのかもわかった気がする。
「入学初日の時もさ、ここで話したの覚えてるか?」
「うん。」
「あの時葉隠が言ってくれたろ、『入試の時助けてくれありがとう』ってさ。あの時の俺反応薄かったかもしれないけどさ…すげぇ嬉しかったんだ。」
そう、初めてだったんだ。助けた誰かに感謝されたなんて。
「自分の不用意な行動のせいで父さんが死んで、強くならなきゃ何も守れないって知った。そこからじいちゃんに特訓してもらってたけど…その時は自分がまだ何も守れないままなんじゃないかって正直不安だった。」
当時は事件のことを何度も夢に見た。どれだけ強くなっても、また同じことを繰り返すんじゃないかって何度も頭をよぎった。
「それでも、入試で葉隠を助けて、初めて誰かからありがとうって言われて『ああ、自分がやってきたことは間違いじゃなかった』って救われたんだ。…だから余計にだろうな、そんな相手に嫌われたんじゃないかって思ったらすげぇ辛かったんだ。」
「…大袈裟だよ、あんな何でもない言葉で。」
「その何でもない言葉に、俺は確かに救われたんだよ。」
だからこそ、自分を救ってくれた恩人とも呼べるような子を泣かせたことが悔やまれる。
「…多分どれだけ心配しても、この先猿渡君は誰かのために頑張ろうとするんだろうね。」
「…そうかもしれんな。」
「だからこれだけは約束して。もう絶対に1人では頑張らないこと…これからは私やクラスの皆をちゃんと頼るって。」
「…ああ、わかった。」
「よし、じゃあこれでこの話はおしまい!これからもよろしくね猿渡君!」
「おう!」
とにかく葉隠と仲直りができて安心した。あとはもっともっと強くなって…人に頼ることもちゃんと覚えよう、もう二度とこの子に心配かけないためにも。
「…それはそれとして、女の子を泣かせておいて『ごめん』だけで済ませるのはどうなのかなぁ?」
「なっ、てめぇさっきこの話は終わりって行ったばっかだろうが!」
「あーあ傷ついちゃったなーこのままじゃまた泣いちゃうかもなー???」
「…要求は?」
「甘い物食べたい!猿渡君の奢りで!」
「現金なヤツ…駅前に美味いクレープの店があるらしいからそれでいいか?」
「うん!」
こうして俺たちの間にあったわだかまりはすっかり解決したのだった。
余談ではあるが2人でクレープを食べてたところを耳郎と上鳴に目撃され、クラスメイトから2人していじられることとなった。
*
「ただいまー。」
葉隠と別れた後、いつものように誰もいない部屋に帰宅する。今日の晩飯は昨日買っておいた肉があるからそれを使ってなにか作ろう。あとは適当に作り置きから──
「おう、帰ってきたか。随分遅かったのう。」
「友だちと帰りにちょっと寄り道してた。たまにはこういう日があってもいいだろ。」
「適度に遊ぶことも必要じゃからな。…ところでその友だちというのは女の子か?」
「そーだよ、クラスで1番仲良いやつでさ。前話したろ、入試の時に助けたなんでここにいる。」
あまりに自然すぎて全く気づかなかった。なんでこのジジイは俺の部屋にいるんだ。
「なんじゃい、じいちゃんがいたら悪いのか?」
「来るなら来るで事前に言っといてくれよ。夜飯の準備とかもあるんだからさ。」
「心配せんでももうできとるわい。手洗って飯にするぞ。」
よくよく鼻を利かせてみれば部屋の中にカレーの匂いが漂っていた。中学の時何度も食べたじいちゃん特製の肉マシマシカレーだ。突然来たのはアレだが、久しぶりにこれを食べられるのはなんだかんだ嬉しいもんだな……聞きたいこともあったしちょうどいい。
「久しぶりに食べたけど、やっぱり美味いなこのカレー。」
「ワシのじいさんの頃から伝わる秘伝のカレーじゃからな。お前の父ちゃんもこれを食べてでかくなったんじゃぞ。」
何気ない会話をしながら食べ進める。明らかに十数人前はあろうかという量だったが、俺たちにかかれば2日目のカレーを待つことなく鍋の中は空になっていた。
「ふー食った食った、ご馳走様です。」
「おう、洗い物は頼んだぞ。」
じいちゃんが飯を作ったあとの洗い物は必ず俺がやる。これも変わらないルーティーンだ。
そして鼻歌混じりに洗い物を進めながらずっと聞きたかったことを聞いてみることにした。
「そういや、じいちゃんに聞きたいことあったんだけどさ。」
「なんじゃい?」
「じいちゃんってオールマイトのことどんくらい昔から知ってたの?」
「あやつが雄英で学生やっとった頃からじゃ。俊典の師匠とは昔から縁があってな、そいつから『鍛えてやってほしい』と頼まれたのがきっかけじゃ。」
「ふーん…じゃあさ、じいちゃんはオールマイトの個性が実際何なのかって知ってるの?」
「見たまんまじゃ、腕の一振で天候を変えるほどの超パワー。初めて見た時は驚いたもんじゃわい。」
「へぇ…でもあんな超パワーがある日突然目覚めたら、子供の時苦労したんだろうな。」
「それは無いじゃろ、何しろ俊典は肉体だけは最初から完成しておったからな。単純に実践でしごいてやるだけでいいから育てるのは楽じゃったわい。」
「なるほど…やっぱりなんか隠してるんだな。」
「…何が言いたい?」
「個性が発現するのは生まれてから5歳までの間。そんな幼い体に『完成してた』もクソもないだろ。…それにもう知ってるんだ、
「その話をどこで聞いた?」
「俺のクラスメイト…緑谷出久とオールマイトが話してるところをたまたま聞いちまった。」
「あの馬鹿者が…己が隠しておきたいと言うとったろうに。」
「教えてくれじいちゃん。そうまでしてオールマイトの個性のことを隠そうとする理由は何なんだ?」
押し黙るじいちゃん。オールマイトの力を狙う者が現れないよう隠すのは分かる。でもそれなら『オールマイトを継ぐ者が現れ続ける』ことを公表してしまう方が犯罪の抑止力になるのではないか。
それでも隠そうとするのは『
「…やはりこうなる運命か。悪いが拳一、今のこの場で全てを話すことはできん。明日の昼休みに雄英の仮眠室に来い。そこで全てを話そう。」
「…分かった。」
「そら、今日はもう休め。」
「うん、おやすみじいちゃん。」
挨拶を残し自室に向かう。振り返った時に見えたじいちゃんの顔は最後まで暗いままだった。
*
次の日、昼休みになると同時に仮眠室へと向かう。部屋が見えてきたタイミングでじいちゃんに朝言われた通りメッセージを送ると『そのまま入ってこい。』と返事、どうやら部屋の中にいるのはじいちゃんだけではないらしい。オールマイトと出久の気配がするから恐らく当事者を集めて話をするんだろう。
「失礼します。じいちゃん言われた通りに──」
「さ、猿渡少年!?」 「猿渡君!?」
「おう来たか。」
部屋の中には確かに人が3人いた。じいちゃんに出久…しかしもう1人は予想外の人物だった。
その人は全身が枯れ木のように痩せこけ、その影響で目までもがくぼみ、目の隈も相まって暗い影がかかってるかのようだった。
しかしその人から感じる気配、その体からは想像できないような存在感は…確かにオールマイトのものだった。
「拳一、お前にはこの男が誰か言わんでもわかるじゃろう。」
「本当に、オールマイトなのか?」
「いっ、いや、私はオールマイトではなく…そう!彼の親戚兼事務所のスタッフでね!」
「無駄じゃ俊典、いくら取り繕っても拳一の気配察知は誤魔化せん。」
確かに感じる気配はオールマイトのものだ。だがにわかに信じ難かった。筋骨隆々の体とその迫力から『画風が違う』とすら言われた男の正体がこんな痩せ衰えたものだったとは。
「……はぁ、すまない猿渡少年。だがこれは必要な嘘だったんだ。ガープ先生、なぜ彼を含めた我々をこの場に呼んだのですか?」
「拳一にお前の個性の秘密が漏れた、他ならぬお前自身の口からな。」
「い、一体どこで!?」
「すいません、初めて戦闘訓練やった日に校舎前で2人が話してるのたまたま聞いちまって…」
「あの時かぁぁぁ………」
「そういう訳じゃ。こうなってしまった以上、こやつらに全てを話すべきじゃろう。」
「いや、しかし…!」
「腹を括らんか俊典!…もはや奴との衝突は避けられん、ならばこの場で全てを伝え、その上でこやつらを徹底的に強くするしかあるまい。生き延びるためには、それが最も可能性が高いんじゃからのう。」
「ち、ちょっと待ってくださいよ!生き延びるって…
「OFA?」
「……すまない、席に着いてくれるかい猿渡少年。2人には私の…私の個性にまつわることを全て話すよ。」
それからオールマイトが語った話は俺の想像をはるかに超えていた。
『
その男は通り名と同じ名の『AFO』という他人から個性を奪い、与えることができる個性を持っていた。
AFOは他人の心を巧みに操り、自分の配下として従えることで勢力を拡大し、いつしか混沌とした超人社会黎明期の裏社会に君臨した。
AFOには正義感の強い無個性の弟がいた。ある時彼はその弟従えるためなのか『個性をストックできる個性』を与えた。
しかし、無個性だと思われていた弟には『個性を与えるだけ』の個性が存在していた。
無意味だった弟の個性と与えられた『力をストックする』個性が混ざり合い…出久が継承した個性『OFA』が生まれた。
弟は兄の所業を止めるためにその力を培い次へと託すことを決めた。
初代である弟から次へ、また次へと力を受け継ぎ、八代目のオールマイトでとうとうAFOは討ち取られた……はずだった。
「どういう訳かやつは生きのび、敵連合のブレーンとして再び活動を始めた…USJに現れた複数の個性を持つ敵『脳無』やつの存在がその証拠さ。」
「待ってくれよオールマイト!超人社会黎明期って…じいちゃんすら生まれてないような時代だぞ。そんな昔の人間がなんで今まで生きてんだよ!?」
「個性を奪うことができるようなやつだぜ、なんでもありさ。おそらくは『成長を止める個性』そういう類を手に入れたんだろうさ。半永久的に生き続け、当時の社会情勢も相まって勢力差も絶望的。だからこそ、初代である奴の弟は力を次に託したんだ…いつか兄を打ち取るための力となるように、と。」
「…じいちゃんはそいつのことを知ってたのか?」
「俊典と七代目継承者ともう1人の師、ワシら三大将は共に奴と対峙したことがある。…情けないことに、その時は七代目を死なせる結果となってしまった。」
「じいちゃんたちが居てそれなのか…」
「OFAは、いわばAFOを倒すために受け継がれた個性。それを受け継いだ緑谷少年と秘密を知った猿渡少年はいずれその巨悪と対峙しなければならない…かもしれない。」
「……」
「酷な話だとは思う。特に猿渡少年に関しては、私の不注意で巻き込んでしまったようなものだ。大変申し訳ない。」
「……」
「猿渡少年?」
「ごめんなさい、話の規模がデカすぎてよくわかんなくなって。」
「ズコーっ!?」
あっ、オールマイトが椅子ごと後ろに倒れた。とはいえそんなはるか昔から続く因縁を聞かされたところでなぁ…実感湧かないのが普通だと思うが。
「出久は今の話どう思った?」
「言い方はあれだけど…僕も猿渡君と同じで実感湧かないっていうのが本音かな。」
「だよな、それにこれを聞いたところでやることはあんま変わらんし。」
「ど、どういうことだい?」
「元から目標はじいちゃんを超えるヒーローになる事ですから。そのぐらい強くなれば大抵どんなことがあったってなんとかなるでしょ。出久もそうだろ?」
「うん。僕もオールマイトの期待に応えられるように頑張ります!」
「大丈夫ですよ。少なくとも俺たち、オールマイトよりも頼れる仲間には恵まれているつもりですから。いざとなったら皆で何とかすればいい。」
オールマイトが倒しきれなかった敵、それだけでビビるには十分すぎる情報だ。でもオールマイトみたいに全部1人で背負わなくていい。
それをこの前教えてもらったんだからな。
「少年たち…」
「…ぶっ、ワハハハハ!言いよるわい!さすがはワシの孫!」
「話はこれで終わりですかね。それじゃ俺たち教室に──」
「待て、もうひとつ話が残っとる。」
時間もあるのでそろそろ戻りたかったのだが急にじいちゃんが呼び止めてきた。……なんかすっげぇ嫌な予感がする。
「お前たちの気持ちに揺るぎがないことは分かった。じゃが、今のままではやつに立ち向かうには到底足りん。」
「んな事は分かってるさ。それがどうしたんだよ。」
「俊典、雄英体育祭まであと何日じゃ?」
「えっと、約2週間ですね。それがいったい?」
そうかそうかと言いながらじいちゃんがおもむろに立ち上がり、こちらに近づく。この時点で嫌な予感がして反射的に逃げようとしたが間に合わず、首根っこを掴まれてしまった…出久も一緒に。
「おい、何しやがる!」
「えっ、ちょっ!?」
「雄英体育祭に向けてワシが直々にこいつらを鍛えることにする!」
「はぁ!?」
「えぇ!?」
「どの道いつ敵連合やAFOが動き出すのかはわからんからのう、とりあえずは目先の目標に向けて精進するのがええじゃろ。つーわけで俊典、この小僧をしばらく預かるぞ。」
「ガープ先生の直接指導!?ま、待ってください!私の時とは違い、彼は体もまだ未完成です。いきなりあの訓練はさすがに…」
「そんなことは分かっとるわい!ちゃんと段階は踏んでやる。しかし拳一が中学卒業して以来じゃからな、久々に腕が鳴るわい!」
「あ、あの!一応僕たちの意思は!?」
「諦めろ出久、こうなったジジイはもう止まらん。それに悪いことばかりじゃねぇ。この訓練を乗り越えれば、俺たちは確実に強くなる。」
「猿渡君…うん、そうだね!」
「あ、死ぬほどきついのは確定だからそこは覚悟しとけ。必要を感じるなら遺書の用意もしとくといい。」
「イショ!?」
「さぁ楽しくなってきたわい!早速明日から特訓じゃ!」
「oh......頑張りたまえ緑谷少年。どうか無事に生き残ってくれ…」
*
オマケ 葉隠とクレープを食べた翌日
「おいコラこっち来い猿渡!」
「昨日の今日でなんなんだよ上鳴、俺今度は何もしてねぇぞ。」
「お前昨日駅前で葉隠とデートしてたよなぁ!?」
「なんだと!?どういうことだよ猿渡!!」
「デートて…色々詫びを兼ねてクレープ奢っただけだろうがよ。」
「ふざけんなコラ!女子と仲良く放課後クレープなんざ100年早いんだよこの裏切りもんがァ!!」
「なんだなんだ、朝から峰田が発狂してんな。」
「猿渡が葉隠と放課後デートだってよ。」
「マジで!猿渡も隅に置けねぇな!」
「笑ってねぇで助けてくれよ瀬呂…」
「興味無いですみたいな雰囲気出しといてこれかよ!オイラだってなぁぁぁぁ!!!(血涙)」
11話も書いてりゃ葉隠とこんだけ進展してもええやろ(ゲス顔)
ずっと各キャラの口調とかが再現出来てるかがすごく不安です。語尾とか互いの呼び方とかできる限り調べて書いてますが間違ってたら指摘していたただけると助かりますm(_ _)m
さぁ次回はいよいよ体育祭本番、じいちゃんの地獄の特訓を潜り抜けた2人の成長をお楽しみに!