それでは本編をお楽しみください
午前の部が全て終了し、昼休憩を迎えた雄英体育祭。生徒たちが激混みが確定している食堂の席をいち早く確保しようと移動を開始する中、拳一は食事前に用を足すべくひとりトイレに向かっていた。
「ふースッキリしたっと…お。」
「あ"?」
顔を合わせただけでドスの効いた声を漏らすのは先程まで騎馬戦で争っていた爆豪だった。
「よう、お前も便所か?」
「気安く話しかけんな殺すぞ。」
「いいじゃん今は別に競技中でもないんだしさ。あ、今日昼飯何食う?おれ新しくなった日替わり中華定食気になっててさ。」
「なに当たり前のように一緒に飯食う気でいやがんだ!便所済んだならさっさと行けや!」
などとじゃれ合いながら(爆豪は本気でうざがっていそうだが)共に食堂へ向かっていると、ふと出入口の付近に人の気配を感じた。
「誰かいる…?」
「だからどうした、さっさと行きゃあ──」
「まぁ待て、ちょい待て。」
「がっ!?なにしやがる!」
咄嗟に爆豪を抑え込む拳一。確かに普通であれば気にせず通り過ぎればいいだけの話だ。
感じ取ったのがこうも物々しい気配でなければの話だが。
拳一は爆豪を抑えつつ、通路の陰から様子を伺うことにした。
*
昼休憩に入り食堂に向かおうとした時、突然轟君に呼び止められた。話があるとかで2人で人気のないところに来たわけなんだけど……
「……」
「えっと…」
轟君さっきから一言も話さない…。かっちゃんとは違う冷たい威圧感…いつも険しい顔してるから正直何考えてんのかもよく分からないし…一体なんの話なんだろ?
「は、話って何かな?早くしないと食堂すごく混みそうだし…」
「…思えば最初の戦闘訓練の時からだ。」
喋り始めた!それにしても最初の戦闘訓練?結構前のことだけどそれが一体なんの…
「デコピン一発で建物をぶち抜くパワー、あん時はまだ制御も効いてねぇみたいだったが、それもこの体育祭で克服してきた。強さは比べるべくもねぇだろうが、俺にはどうもお前とオールマイトが重なって見える。」
「…!?」
まさか、勘づかれた!?OFAのことはかっちゃんと猿渡君にしか話してない。でも轟君の洞察力なら、あるいは少ない情報から何かに気づく可能性だって…
「今の戦いぶりと言い、オールマイトに目をかけられてることと言い、もしかしてお前───」
まずい、ばれ───
「オールマイトの隠し子かなんかか?」
………へ?
カクシゴ…隠し子って言ったのか???
な、なるほどそうなるのか。確かにあんな風な目の掛けられ方をしてたらそういう可能性も考えられたりするのか。
「どうなんだ?」
「ち、違うよ!いや、本当に隠し子だとしたら否定するに決まってるし、納得はしないだろうけど。とにかくそんなんじゃなくて──」
「『そんなんじゃなくて』ってことは、少なくとも何かしら言えない繋がりがあるってことだな。」
「っ……」
しまった、自分から墓穴を掘ってしまった…何とか誤魔化さないと──
「俺の親父はエンデヴァー…知ってるだろ、万年No.2のヒーローだ。」
「それは知ってるけど…」
「お前がNo.1の何かを持ってるんだとしたら、尚更お前に勝たなくちゃいけねぇ。」
「どういう意味?」
もっと追求されるかと思ったけど、急にお父さんの話をしてどうしたんだろう。今の話になんの関係が…
しかしそこから語られた話は、僕にとって想像を絶する内容だった。
「親父は極めて上昇志向の強い男だ。若い頃からヒーローとして破竹の勢いで名を馳せたが、それだけに生ける伝説であるオールマイトが目障りで仕方なかったらしい。No.1を目指し続けたが、結局自分ではオールマイトを越えられねぇと悟った親父は次の策に出た。」
「一体何の話を…」
「『個性婚』知ってるよな。」
「!?」
個性婚、世代を重ねるごとに混ざり合い強力になっていく個性の性質を利用し、自身の個性をより強化し子供に引き継がせるために配偶者を選び、結婚を強いる行為だ。
人類の個性発現からの第2、第3世代間で起きた社会問題の1つであり、その倫理観の欠如した発想から現代では忌避される行為となっている。
「実績と金だけはある男だ。親父は母の親族を丸め込み、母の個性を手に入れた。俺をオールマイト以上のヒーローに育て上げることで自身の欲望を満たそうって魂胆らしい…鬱陶しい、そんなクズの道具にはならねぇ。」
エンデヴァーの上昇志向はこれまで数々のインタビューなどから耳にしていた。それが彼の強さの源なのだろうと思っていたが、まさか
「記憶の中の母はいつも泣いている。『お前の左側が醜い』と
「…っ!?」
顔の左側、火傷痕を手で抑える轟君。指の隙間から見えるその目はあまりも───
「ざっと話したが、俺がお前に突っかかんのは見返すためだ。クソ親父の個性なんざなくたって…いや、使わずに1番になることでやつを完全否定する!」
あまりにも父親に対する憎しみに満ちていた。
「…オールマイトとの繋がり、言えねぇんなら別にいい。お前がオールマイトのなんであろうと、俺は
これがコミックだったら主人公だ。それほどの背景を背負って轟君は独りでここまで強くなった。そんな彼にたくさんの人たちに助けられてきた僕が言えることなんて───
「言いたいことはそんだけだ。時間取らせたな。」
「……僕はっ!」
「?」
「僕は、ずっと助けられてきた。さっきの試合だってそうだ、僕は誰かに助けられてここにいる。」
───違うだろ。確かに僕が彼に言えることなんて無いかもしれない。
「笑って人を助ける最高のヒーロー、オールマイトのようになりたい。そのためには、1番になるくらい強くなきゃいけない。君に比べたら些細な理由かもしれない。でも…」
だからといって、それが彼に気圧されて道を譲っていい理由にはならないんだ!
「僕だって負けられない。僕を助けてくれた人たちに応えるためにも。」
もう一度覚悟を決めろ緑谷出久。僕の夢を叶えるために。
「さっき受けた宣戦布告、改めて僕からも…僕も君に勝つ!!」
「……」
僕の答えを聞いた轟君は、無言のままその場を後にした。お互いこれ以上語るべきことは無いだろう。遠ざかっていく轟君の背を見送りながら、僕は決意を新たにするのだった。
*
「……なんか、雄英に来てから盗み聞きの機会が増えた気がする。」
「ハッ、いい趣味してんじゃねーか。」
「わざとやってるんじゃないからな。」
結局出久の宣戦布告返しまでばっちり聞いてしまった俺たちだか…戦闘訓練の時に感じた憎しみの正体がまさかここまでのものだったとは思いもしなかったな。
「なぁ爆豪、お前轟の話聞いてどう思った?」
「あ?どうもこうもあるか、他人の家庭事情なんか知ったこっちゃねぇわ。」
「まぁお前はそういうタイプだよなぁ…」
「そういうテメェはどうなんだよ。まさか今ので半分野郎とは本気で戦えません、なんて言う気じゃねぇだろうな。」
「そんなわけあるかよ…って言い切りたいところだが、正直な話お前に比べりゃ思うところはあるよ。」
もちろんいざ轟と戦うとなれば全力で勝ちに行く。だがあのエンデヴァーの話…『同じ父親でもこうも違うものか』というもやもやとした感情がどうしても拭えずにいた。
「んだそりゃ、ふざけてんのかテメェ。」
「爆豪?」
「そんな中途半端な状態で俺の前に立つんならマジでぶっ殺すからな。」
「………心配してくれてんのか?」
「何をどう聞いたらそうなんだ!耳腐ってんのか!いいか、俺が求めてんのは完膚無きまでの1位だ。その通過点に今のテメェみてぇな腑抜けがいたんじゃその価値が下がんだよ!」
「………」
思わず呆気に取られてしまった。まさかこの男から励ましの言葉(理由はとんでもなく利己的だが)をかけられるとは。
自覚してなかったが、今の自分らそれほどに轟の話に影響を受けたように見えていたらしい。
「…ぷっ、ははは!」
「何笑ってやがんだコラァ!」
「す、すまん、まさかお前にそんなこと言われるとは思わんかったからよ…悪かったな、おかげで目が覚めたよ。」
「…そうかよ。」
轟のことに関しては今の俺がどうこうできる問題じゃない。俺にできることは、目の前の戦いに全力で挑むことだけだ。
「よし、そんじゃ改めて飯行くか!」
「だからなんで当たり前のように一緒に食う気でいやがんだ!」
再びキレた爆豪だがなんだかんだで飯は一緒に食ってくれた。食堂ではいつもはありえない俺たちの組み合わせにヒーロー科(特にA組)から『マジかこいつ』みたいな目で見られたり、爆豪のあまりの辛党っぷりに目を剥いたりしながら昼休憩は過ぎていったのだった。
*
『さぁ!昼休憩も終わっていよいよ最終種目発表…とその前に、予選落ちのみんなに朗報だ!あくまでこれは体育祭、ちゃんと全員参加のレクリエーション種目も用意してんのさ!』
午後の部が始まり、競技場に再び全生徒が集合した。最終種目までいくつかのレクリエーション競技挟むため、暫くは箸休めの時間といったところだろう。
『本場アメリカからチアリーダーも呼んでいっそう盛り上げて──ありゃ?』
『ん?』
怪訝な声を上げる実況解説の2人、その視線の先には
『どうしたA組!どんなサービスだそりゃ!』
『何やってんだアイツら…』
何故かチアリーダーの人たちと同じ衣装に身を包んだA組女子の姿があった。
「「うひょー!」」
「峰田さん、上鳴さん騙しましたね!!」
*
昼休み 食堂にて
「なぁ八百万。」
「峰田さん、どうかされましたか?」
「クラス委員だから知ってるかもしれないけど、午後は女子たちでチアの格好して応援合戦しなきゃいけないんだって。」
「そんな話聞いていませんが…」
「信じねぇのは勝手だけどよ、『忘れてるかもしれないから一応教えといてやれ』って相澤先生から言伝受けてんだ。」
「相澤先生が…わ、わかりました。」
「ああ、確かに伝えたぜ(ニヤァ)。」
*
「なぜこうも峰田さんの策略にハマってしまうの私…衣装まで創造で創って…」
膝から崩れ落ちて己に落胆する八百万それを慰める麗日。
「アホだろコイツら!」
「まぁまぁ、本戦まで時間あるし、張り詰めてても仕方ないしさ。いいじゃんやったろ!」
「透ちゃん、好きね。」
恥ずかしさから支給されたボンボンを投げ捨てる耳郎、意外にもノリノリな葉隠、いつも通り冷静な梅雨ちゃん。
それぞれ違う反応を見せているが観客や男子生徒からは割と好評のようだった。
「やったな上鳴!」
「最高だぜ峰田!」
「う、麗日さんのチア姿…」
「みんなよく似合ってんなぁ。」
「俺たちに感謝しろよお前ら!…ところで、誰が1番好みだ?」
「エッ!?」
「好みも何もみんな可愛いだろ。」
「んなクソありきたりな答え言ってんじゃねぇよ猿渡ィ!男同士の友情があんなら性癖の一つや二つ晒してみろってんだ!」
「つっても緑谷は麗日で猿渡は葉隠推しだろ?」
「へっ!?いや、ボクハソンナ!」
「待てや、なんでそうなる。」
「普段から仲良い女子のいつもとは違った姿!これにそそられねぇなんて男じゃねぇ!何普段から女子と仲良くしてんだチクショウ!」
「キレ方はともかく峰田の言う通りだ!さぁどうなんだお前ら!」
「……ノーコメントで。」
「確かに普段とは違う麗日さんも素敵だけど素敵だけど決してやましい気持ちとかはなくてでもあの衣装いつもより露出が多くてそれがまたいや何考えてんだ僕は!ブツブツブツブツ」
片や気恥しさから誤魔化す者、片や誤魔化そうとするあまり思考を垂れ流す者。最高のヒーローを目指す志高き少年たちも、異性に対して年相応の興味というものは尽きないのであった。
『さぁさぁ楽しんでけよレクリエーション!それが終われば最終種目、騎馬戦を勝ち残った16名によるトーナメント、1対1のガチバトルだァ!』
プレゼント・マイクが告げる最終種目。己の実力を示す絶好の機会。
最高のヒーローにまた一歩近づくための戦いに備え、勝ち残ったものたちは束の間のレクリエーションを楽しむのであった。
*
決勝トーナメントに参加するメンバーはレクリエーション競技に関しては自由参加となっているため、拳一も本番に備えて観客として楽しんでいたのだが事前に便所て用を足しておこうと1人競技場の屋内を歩いていた。
「さて、もうちょい時間あるしまた競技を見に行くか。」
トーナメントまではまだ時間があるため観客席に戻ろうと便所を出た拳一。
しかし、ここで思わぬ人物と出会うことになった。
「ん、君は…ちょうどいい所で出会えた。」
「あっ。」
曲がり角から現れた人物、口髭や顔周りを猛々しい炎で染め上げた男…現No.2ヒーローエンデヴァーその人であった。
(エンデヴァー!?生で初めて見た!ってそうじゃない、轟の話盗み聞いた後でタイミングが最悪すぎるぞこれ!?)
色々と考えた末に拳一はエンデヴァーに対して『ヒーローとしての実績は尊敬している。ただしそれ以外はカス以下』という評価を下している。
とはいえいくらそう考えていたとしても本人を目の前にわざわざそれを口に出したりはしないだけの分別はあるので反応に困るのは確かだった。
「は、初めまして。ヒーロー科1年A組の猿渡拳一です。」
「ああ知っている。予選での戦いは見事だった。」
「あ、ありがとうございます。あーすいません、トーナメントの準備をしたいので失礼します…」
予想外の反応に面食らう拳一、だが変に話が長引いても面倒なので早々に立ち去ることを決めた。しかし──
「君には期待している。焦凍にとって君との戦いはいい経験になりそうなのでね。」
「……どういう意味ですか?」
息子の勝利を疑わないだけでなく、もっと別の感情が込められたセリフに、拳一は思わず足を止めた。
「うちの焦凍にはオールマイトを超える義務がある。その過程である今、君との戦いは非常に有益なテストベッドとなりそうなのでね。」
「……」
「君と騎馬戦で組んでいた緑髪の少年にも少しばかり期待しているが…やはりガープ氏の孫でもある君との戦いが最も期待できる。焦凍と対戦することになったら、不甲斐ない戦いはしないでくれたまえ。」
「……そうですか。」
拳一は改めて認識した。この男は轟から伝え聞いた通りの父親なのだと。
「言いたいことはそれだけだ。呼び止めてしまっ悪かったね。」
「いいえ、こちらも大変有意義でした……まさか現No.2ヒーローがここまでみっともない男だったのかと知れましたから。」
「…なんだと?」
エンデヴァーの声音に僅かに怒りが混じる。だが目の前の
「自分じゃオールマイトを越えられないから、その野望を息子に全部押し付けるとか…ヒーロー以前に親として、人として情けないっすよ!」
「学生風情に何が分かる!!」
「分かってねぇのはテメェだろうが!いいか!轟焦凍は決してあんたの欲望を満たすための道具じゃねぇ!そしてあんたがそうやって轟を縛り続ける限り、あいつがオールマイトを超えることは絶対にねぇよ!」
「貴様ァ!」
エンデヴァーの炎が強く燃え盛り腕を振り上げる。大ぶりの一撃、拳一も迎撃をするべく覇気を纏う。
もはや一触即発、その瞬間であった。
「そこまでだお前たち。」
「こんなとこで何やってんだい、そこら中に声が響いてたよ。」
すんでのところで2人の人物が割って入る。それは予選の間拳一のことを応援してくれたセンゴクとつるであった。
「離せよおっちゃん!一発ぶん殴らねぇと気がすまねぇ!」
「落ち着け拳一。今ここでエンデヴァーとやり合ったところで何も解決しない。」
「解決云々の問題だけで収められるかよ!」
「おやめ拳一、そしてお前もだよ炎司。いい子だから腕を下ろしな。」
「……失礼、少しばかり頭に血が上った。ご無沙汰しております、お二方。」
「全くだ。止めにに入らなければヒーローとしての立場を失うところだったぞ。」
「…軽率な行動でした。彼には後日改めて正式な謝罪をさせていただきます。それでは。」
「謝罪なんかいらねぇよクソが!いいか、これだけは言っとくぞ!あんたの息子は俺が倒す!それであんたのやり方が全部間違いだったってことを証明してやる!覚えとけ!」
「…失礼する。」
簡素な謝辞を述べエンデヴァーは立ち去った。彼の背中が遠ざかって行くのを見て拳一も少しずつ落ち着きを取り戻していく。
「2人は轟家のことについては…」
「ああ、聞き伝ではあるが知っている。」
「あれもどうしようもない男さね。もっとも私たちも諌めるために動いたわけじゃないけどね。」
「…絶てぇ勝つ、あんな男のやり方が正しいなんてあってたまるか。」
元々狙うは優勝のみ。そこに譲れない理由がひとつ増えただけだ。一層気を引き締めて拳一は観客席へと戻った。
*
オマケ
「なんじゃ2人とも、随分長い便所じゃったな。」
「便所どころじゃなかったんだよ。はぁ…拳一も頼もしくなったが、いざと言う時の血の気の多さはお前そっくりだよ。」
「ん、なんかあったのか?」
「拳一のやつがエンデヴァーと出会ってね。あと少しでやり合うところまで行った上に啖呵まで切ったんだよ。」
「…ほう。」
「幸い俺たちが割って入ったから事なきを得たがな。もう少しで──何をする気だガープ!つるちゃん、こいつを抑えろ!」
「じじバカ発揮すんのも大概にしな!なんだいその殺気は!」
「…2人ともそのままワシを抑えてろ。じゃなきゃワシは炎司を殺してしまう!」
「何ともなかったと言っているだろう落ち着け!」
「本当にどうしようもないところでそっくりだね、このじじ孫は…」
次回決勝トーナメント開始
拳一は原作のトーナメント表の発目さんの枠に入ります
更新頻度はもう少し上げます…