「うわぁ…!楽しそうな音がいっぱい!」
ついにやってきた日曜日。
そしてやってきました遊園地!
「それじゃいこっか」
「うん!」
人混みでにぎわうそこを俺たちははぐれないように手を繋ぎながら移動する。
「それじゃ何乗る?」
「う~ん…ジェットコースター!」
「ま、マジで…?」
「だってサキちゃんもリンちゃんもおすすめだって言ってたし…」
あの二人の入れ知恵か…
俺実はジェットコースター苦手なんだけど…
いや、ここで乗らないと兄としての威厳が…
それにもしカナデが泣いちゃったりしたらダメだし…
「よ、よ~し…乗ってやるよ…!」
言葉が震えているのが自分でもわかった。
「お兄ちゃんムリしてない?いいんだよ、無理に乗らなくて…」
「だ、大丈夫!ちょっと久しぶりでドキドキしてるだけだ!」
「そう…?ならいこっか」
そうして俺達はジェットコースターに乗ったのだが…
「う~ん!楽しかったぁ!あの風を切ってる感じ最高だよ!」
「お、おう…そうだな…」
カナデは満面の笑みに対して俺は…
「うえぇぇ…気分悪い…それに心臓のバクバクがとまんねぇ…」
相当にビビってしまっていた。
だって仕方ないだろ、地面すれすれを走ったり回転したりで…
こういう時目が見えないといいよなと思ってしまった。
「ねぇお兄ちゃん、なんかおいしそうなにおいがするよ?」
「う~ん…あぁ、ポップコーンか。食べるか?」
「うん!」
次にどのアトラクションに乗ろうか迷っていた時カナデがそう言いだした。
とりあえずいったん休憩だな。
「それじゃどの味にする?塩とキャラメルとカレーがあるんだって」
「キャラメル!」
「はいはい…じゃあキャラメル一つ下さい」
店員は愛想のいい笑みを浮かべてカナデにポップコーンを差し出す。
しかしいつまでも受け取らないカナデに不思議な顔をしていた。
(ヤバ…)
俺は急いで横からそれを受け取ってその場を離れる。
最後まで店員は不思議そうな顔をしていた。
(しまったなぁ…あの店員カナデを変な奴とか思っちゃったんじゃないかな…)
やっぱり兄として妹が変な目で見られてしまうのは嫌だった。
なので俺は細心の注意を払っているのだが…今のは気が緩んでしまっていたのかも…
「お兄ちゃん?大丈夫?なんだか焦ってるみたいだけど…」
「え?い、いや…大丈夫…」
妹に内心を見抜かれてしまった…
なんだかとても恥ずかしい気持ちになってしまった。
「そ、そうだ!これ、食べよう!え~と…ベンチがあるからそこまでいこうか」
俺は急いで彼女をそこまで連れていく。
なんだかこのままではカナデに変な気遣いをしていると思われてしまう。
そうなればカナデは俺に気を使い楽しんでくれないだろう。
俺の目的は今日一日カナデを自由に楽しませてやることだ。
なのでここでとん挫するわけにはいかないのだ。
「よし、ちょっとこれ持って待ってろよ」
俺はポップコーンを手渡して代わりにバッグからハンドタオルを取り出す。
さっと手でベンチに乗っている砂埃を払ってその上にハンドタオルをかける。
「さ、座っていいぞ…俺の手を持って…そう、ゆっくりでいいからな…」
「なんか下にフカフカが敷いてあるけど…」
「あぁ、俺が敷いた。こんなとこに直に座っちゃうとせっかくの服が汚れちゃうだろ?」
今日の彼女の服はこの日の為に新調したモノだ、なので汚すなんてもってのほか。
「やっぱりお兄ちゃんって優しいんだ…ありがと…それじゃお返しに…はい、あ~ん…」
カナデはポップコーンを一つつまんで空中に差し出した。
これは俺が食えってことか…
なんだか恥ずかしいな…
「ほら、あ~ん…」
仕方ないな…
俺は妹の手が差し出されているところまで移動してそれを食べた。
口の中にふんわりと甘い香りが広がっていく。
ほのかな甘さの中に少しのしょっぱさ…おいしいな、これ…
「えへへ…おいしい?」
「うん、旨い」
「じゃあ私も一つ…パクっ…うん!甘くておいしい!」
彼女はふにゃりとした顔を浮かべてうれしそうにそれを頬張っている。
無意識に俺は携帯を取り出して嬉しそうなカナデの表情を撮っていたのだった…
「さて…次はどこに行こうか?」
今はだいたい5時ごろ。
空はだんだんオレンジ色に変わりだんだんと冷たい空気を送り込んでくる時間。
しかしこんな時間だがどんどん人は増えていく。
なにせこの遊園地の一番の見世物、夜のパレードがあるからだ。
それはテレビでも紹介されるほど有名でぜひ一目見たいと全国から人が集まるほどなのだ。
それは今日も例外ではなく人混みはどんどんと増えていっていたのだ。
「お兄ちゃん!私観覧車に乗りたい!」
「いいのか?だって…」
それは景色を楽しむモノだぞ、そう言いかけて止めた。
俺のこの一言、それを言ってしまえば今まで楽しんでいたカナデはどう思うだろう?
それに俺への信頼も失われてしまうかもしれない。
カナデは俺に目のことを言われていい気がするはずがない。
なので俺は力強く
「よし!観覧車いくか!」
と、そう言ったのだ。
俺が一歩を踏み出した瞬間だった。
ドン、と前を歩いていた人にぶつかってしまったのだ。
その拍子に握っていた手が離れてしまう。
「あ、す、すいません…」
その人はなんともないと言ってそのままどこかに行ってしまった。
よかった…怖い人じゃなくて…
「それじゃいこうか、カナデ…あれ?カナデ?」
後ろを振り向くがそこにいたはずのカナデがいない。
さっき手を離した瞬間に人の波にのまれてしまったのか…
「くそっ…!」
俺はぎゅっと空いた左手を握った。
自分はどれだけ無力なんだ…ちゃんと妹の手を握っていれば…!
いや、今はそんなことを考えている暇はないか…
早く探さないと…!
「お兄ちゃぁん…お兄ちゃぁん…どこぉ…ふえぇぇん…」
「カナデ!」
カナデの声が人混みの中から聞こえる。
俺はその声を目指して人の波をかき分ける。
カナデ…カナデ…!
とにかく早く、俺はカナデを探すべくどんどん人を押し分けていった。
「カナデ!」
人混みがそこだけ開け放たれていた。
歪にできた円、その中心にいたのは紛れもないカナデだった。
「ふえぇぇん…お兄ちゃんどこいったの…怖いよぉ…早く…早く来てよぉ…」
彼女は手を空中に彷徨わせ必死に俺という存在を掴もうとしている。
しかしそれは虚しく何もない中空を握るだけだった。
「うぇぇん…お兄ちゃぁん…どこなのぉ…」
「カナデ…」
俺が一歩進もうとしたその時だった。
不意に周りの声が耳に響いた。
「おい…アイツ見てみろよ…何もないところで手をぶんぶん振って…気でも触れたか?」
「なにアイツ…変なの…とりあえず写真とっとこ」
そんな悪意のある声が辺りから聞こえる。
そしてようやくこの歪な形の円が出来ていることに気が付いた。
こいつらはカナデを何かの見世物としてみている…!
「お兄ちゃぁん…」
何も見えていないカナデはまだ手を宙で彷徨わせている。
何故周りのやつは誰も助けてやらない…!
一言大丈夫というのが何故言えない…!
周りにいる奴らに明らかな殺意をおぼえる。
だが今はそんな虚しい感情にのまれている暇はない。
このクズ共の好奇の目にさらされている妹を助けなければ…!
「カナデ!こっちだ!」
「お兄ちゃん!」
俺はカナデを抱え上げてその場を急いで離れる。
「邪魔だ!」
目の前にいる奴らをかき分けていく。
そいつらがバランスを崩して倒れるところを見ても俺には罪悪感の一つもわかなかった。
そうなって当然、むしろそれだけでおさまったことを感謝しろ。
俺の中にたまった負の感情を発散するように人混みの中俺は走った。
「うぅ…お兄ちゃん…怖かったよぉ…何にも見えないしお兄ちゃんの声も聞こえないし…それに変な視線も感じたし…」
「ゴメンな…兄ちゃんがちゃんと手を握ってやれてれば…」
俺達はいったん観覧車へ避難することに。
一周するのに10分以上する観覧車、ほとぼりをさますにはそのぐらいの時間は必要だろう。
「お兄ちゃんのせいじゃないよ…私の目が見えてたら…」
その言葉に俺の胸は串刺しにされるような痛みをおぼえた。
そこから俺たちは言葉を話せなくなってしまった…
何分ぐらい沈黙していただろう。
密室の沈黙がだんだん耳に痛くなってきたころだ。
突然カナデが声を出した。
「ねぇお兄ちゃん…起きてる?」
「あ、あぁ起きてるぞ」
どうやらカナデはこの沈黙を俺が寝ていると思っていたらしい。
恐る恐るそう聞いてきたのだ。
「あのね…私お兄ちゃんに話したいことがあるの…」
「ん?なんだ?」
突然改まった態度になるカナデ。
夕焼けの光のせいかカナデの頬は赤くなっていた。
「あのね…私、お兄ちゃんが――…」
「え?なんていった?お兄ちゃんがどうした?」
最後のほうはごにょごにょと消え入りそうな声だったのでもう一回聴いてみることに。
「だ、だからね…私、お兄ちゃんが好き、なの…」
「うん、俺も好きだぜ?」
「え、えぇ!?…って絶対お兄ちゃん勘違いしてるでしょ?」
むぅと妹は頬を膨らませて俺を睨んできた。
勘違い?何がだ?
「だからね…私お兄ちゃんが男の人として大好きなの…」
オレンジの光の中、カナデは絞り出すような声でそう言った。
「ちょ、ちょっと待て!え?え?えぇ!?」
あまりのことに頭がショートしてしまう。
い、今のは告白…!?
「なんで!?だって俺たち兄妹だぜ!?」
「お兄ちゃんは妹じゃダメかな…?やっぱり普通の女の子の方がいいのかな…?」
いや、カナデは可愛らしいし、女の子として好きか嫌いかって言ったら好きな部類に入るけど…
「と、とりあえず理由をきこうか…」
俺は努めて冷静な声を作り出してそう言った。
「目が見えない私のことをちゃんとお世話してくれるし…それにやさしくてかっこよくていい匂いで…え~と…ちょっと詩的になっちゃうけど…お兄ちゃんは私にとっての光、みたいなものなの。お兄ちゃんがいれば私の世界は輝いてるの。さっきはぐれちゃったときは真っ暗闇の世界だったのにお兄ちゃんが来てくれた瞬間ぱぁって世界が晴れたの…もう私お兄ちゃんしか見えないの…お兄ちゃんとず~っと一緒にいなきゃダメなの…!」
カナデがそんなことを思ってくれてたなんて…
そんなに真剣な思いをぶちまけてこられたら俺だって隠してきた思いが溢れてきちまうじゃねぇか…
さっきからどくどくと溢れてくるこの思い、今にも爆発してしまいそうだ。
俺は勢いに任せてその思いをぶちまけた。
「お、俺も…好きだ!お前のことが大好きだ!妹とかそんなの関係ない!俺の中でお前はすべてなんだ…お前が欠けたら俺はつぶれちまう…ゴメンな…妹を好きだって言っちまうダメな兄ちゃんで…ホントにいい兄ちゃんならここでダメっていうのに…」
「いいよ…ダメなお兄ちゃんで…世間ではお兄ちゃんの事をダメって言っても私の中じゃとっても優しくていいお兄ちゃんだもん!」
「カナデ…」
その言葉に涙があふれてきてしまう。
こんなにもカナデが愛おしいと思ったことは初めてだ。
カナデも頬を真っ赤に染めて涙を流している。
その顔はとてもうれしそうで…俺が今まで一度も見たことのない顔だった。
「カナデ…」
「お兄ちゃん…」
夕暮れに染まる密室の中、俺達は初めての口づけを交わした。
キスをした瞬間カナデの嬉しいって思いが俺の中に流れ込んできた。
多分カナデも同じなのだろう…
俺の想いを受け止めてくれているに違いない…
どれだけ繋がっていただろうか、どちらかが苦しくなり唇を離した。
目の前には嬉しそうな妹の顔。
「ありがとお兄ちゃん…大好き…!」
「俺も…大好きだ…!もう二度と離さない…!」
観覧車が止まるまで俺はカナデをぎゅっと抱きしめ続けたのだった…