STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
2011年1月7日(金)
「そういえば、比屋定さんは休暇をとれたんだな」
「ええ。レスキネン教授に言ったら意外とあっさり休ませてもらえたわ。ここに泊まり込みになるだろうから、こうして荷物も持ってきたのよ」
「真帆たんがラボに寝泊まり……うは」
「………母さんにいいつけるよ?」
「サーセン」
鈴羽に冷たい目を向けられて慌てて口を閉じるダル。真帆はコイツが本当に役に立つのかと疑いの目を向けている。
「橋田さんって、本当に凄腕のハッカーなのかしら?この件とは別に依頼したいことがあったのだけれど、頼んで大丈夫なのかしら…」
「依頼?」
「ええ。前に紅莉栖のノートPCとハードディスクを持っていると言っていたでしょう?形見分けとして紅莉栖のお母さんからもらったんだけれど」
「ああ。そう言えば言っていたな。ロックがかかっていて中を見れていないんだったな」
テスターの報告会の日に、俺にパスワードに心当たりがないかを聞いてきた。中を覗くのは紅莉栖に悪いと思って俺は何も答えなかった。年末にも同じようなことを聞かれたが、やはり俺は答えなかった。
「あの時は、『Amadeus』の研究に役立つなら、と思っていたのだけれど、貴方たちの秘密を知って考えが変わったわ」
「…考え?」
それは決してロックを解除しない、という意味ではないだろう。
「っ!」
そこで、俺はある可能性に思い至った。
「比屋定さん。まさか、そのPCの中には……っ」
「…………」
「紅莉栖の書き上げた、タイムマシン論文が入っている……?」
俺が感じていた言い知れぬ不安。それこそが、その正体だったのだ。
プライバシーの問題だけではない。論文として紙に出力されたのなら、その元となったデータがパソコンの中に残っているはずだ。
「なっ!オカリン……マジで⁉」
「そうなんだな。比屋定さん?」
そのまさかだ。
真帆はしっかりと頷いた。
「中身は見れていないから、確証はないのだけれど。昨日ここを出た後、オフィスに戻ったのよ。そうしたら、オフィスが何者かに荒らされていたの」
「オフィスって、和光市の…だよな?」
「ええ。レスキネン教授とレイエス教授もいたの。でも、何かが取られた形跡はなかった。海外から来ている身だし、産業スパイの可能性も否定しきれないからということで、警察沙汰にはしなかったの」
「産業スパイ…」
その可能性もあるが、需要なのはそこじゃない。
「あのオフィスのことを知っている人間はどのくらいいるんだ?」
真帆は首を横に振る。
「ほとんど知られていないはずよ。それに、『Amadeus』を狙うのなら、大学の方を直接狙った方が合理的だわ」
「つまり、荒らした連中の目的は……」
「紅莉栖のノートPCとハードディスク、ということになるわね…」
敵の魔の手は、すぐそこまで伸びてきている。
紅莉栖がタイムマシンの理論を作り上げたことを知っているのだ。そしてその連中が、かがりを監禁して紅莉栖の記憶を植え付けた連中と同一犯であることは間違いないはず。もう、この段階まで来て甘い考えは捨てなければならない。
「PCは無事だったのか?…それ以上に、比屋定さんもよく無事だったな」
わざわざオフィスを狙ったという事は、真帆に疑いを持たれることも厭わない、という事だ。おそらく内部犯…。連中は真帆の身近にいる人間、ということになる。
「PCとハードディスクはホテルに置いていたから大丈夫よ。橋田さんに解析してもらおうと思って持ってきているもの」
そう言って真帆はカバンからノートPCとハードディスクを取り出す。
「それに私なら大丈夫よ。こうして無事なわけだ——」
「比屋定さん。それは考えが甘すぎる!」
遮るように言い放った俺の言葉に、真帆が目を丸くする。
「え、えっと…」
「オフィスを狙った連中は、ほぼ間違いなくかがりを監禁していた奴らと繋がっているはずだ。第三次世界大戦勃発のきっかけになるほど、そのノートPCとハードディスクは重要な代物なんだ」
「そ、それはそうだけど…」
「真帆たん。よくハイエースされなかったな」
「ハイエース…?」
「誘拐、という意味だよ」
それを聞いて、真帆の顔が青ざめた。自分の持っているものが、どれほどのものなのかようやく理解できたのだろう。
「ごめんなさい。迂闊だったわ…」
「いや、謝らなくていい。君が無事でよかった…」
やはり、レスキネン教授とレイエス教授は信用すべきではない。彼らを疑うのは心苦しいが、全く関与していないとは考えられない。
「ダル。それについてはお前が預かってくれ。差し当たってはかがりの記憶を優先するが、それが終わり次第、解析を始めてくれ」
「おk。簡単には見つからないところに隠しとく。こっちには鈴羽もいるし、真帆たんが持ってるよりは安全だお」
詳しくは知らないが、ダルはどこかにそういう伝手があるようだ。ハッカー仲間とか、そういう繋がりだろう。それに鈴羽がいれば心強い。
「比屋定さん。君は当分ホテルにも戻らない方が良い。ラボも安全とは言い切れないが、ホテルに一人でいるよりは安全だ」
「警護なら任せて」
鈴羽もこう言ってくれている。
「…ありがとう」
真帆はそれなりの日数、休暇を取れたようだし、安全確認をしながら開発を進めるしかない。