STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
かがりが手を握っていてくれたせいか、中に入っても思ったよりも落ち着いていられた。とはいえ、さすがにあの出来事があった階段を上がっていく気にはなれない。
俺たちはエレベーターに乗り、屋上へ向かった。屋上はフェイリスによって定まった人間以外は入れないよう、厳重に封じられている。俺も鍵を預かっていたが、今日が初めて使う機会となった。
久々にラジ館の屋上に出て、まず最初に目に入ったのは、いびつな形をした乗り物——タイムマシンだった。
「わぁ、懐かしい!これこれ!私、これに乗って来たんだよ!」
かがりは嬉しそうにタイムマシンに駆け寄った。彼女の記憶が存在しないのは、鈴羽と別れて以降の事。未来から1975年のこの場所に跳んできたことは、覚えているらしい。
「初めてこのビルの上に降りたときにね、お空がすっごくキレイでビックリしたの」
見上げる空はあいにくの空模様だ。それでもまるで、そこに青い空が広がっているかのように、かがりは語った。
「私、ママと別れるのが嫌で、ずっとこのマシンの中で泣いてた。ママに会いたいよって。そんなことじゃダメだ。いつまでも泣くんじゃないって、鈴羽おねーちゃんに言われて。それでも哀しくて……。そんなときに、開いたハッチの外に見えたのが、青い空だったの」
「2036年の空は、青くないのか?」
「うん。戦争の影響でね。ずっと黒くて暗い空。それに、外にもなかなか出してもらえないし」
1970年代半ばといえば、やっと高度成長期が終わった頃で、今ほどエコという概念も広まっていない時代だ。大気汚染などが問題になっていた時期でもある。もしかしたら、今よりも空気は悪かったかもしれない。それでもなお。美しく思えたというなら、未来の大気は余程汚れているのだろう。
「オカリンさんは、ここで紅莉栖さんと初めて会ったの?」
「いや、ここじゃない。ここは…」
「ぁ…」
ぽつりと鼻先に冷たい雫が落ちた。
「降ってきちゃった…」
「ああ。そうだな…」
そうだ。
*****
「…岡部か」
「生きてたか」
「そっか、ここだとあんたと会っちゃう可能性があること、忘れてた」
「何をしていたんだ?」
「……考え事」
「そうか……」
*****
あの時も、雨が降って来たんだった。自分とまゆりのどちらかが死んでしまう運命にある。それを知った紅莉栖はあの日、ここでこうして同じように空を見上げていたんだ。
「う、うわっ!すごい降ってきたよ~!オカリンさん、中に——」
「…………」
「オカリンさん?」
あの時、あいつは何を思っていたんだろう。自分の運命を他人の——俺の決断に委ねたあいつは。
「オカリンさんったら!このままじゃ風邪引いちゃうよ!早くこっちに!」
かがりに腕を引かれ、雨の喧騒から逃れるようにビルの中に滑り込んだ。そのまま引きずられるように連れられ、我に返ると、そこに座っていた。
建て替え計画の影響なのか、既に営業している店はなく、照明も消されている。おかげでずいぶんと薄暗い。
「はぁ~ビックリ」
あの日、あの雨のあと、俺と紅莉栖はまさにこの場所でふたり寄り添い話をしたんだ。
そして同時にここは——。
「ここだよ」
「…え?」
「ここが、俺と紅莉栖が初めて会った場所だ」
厳密に言えば、β世界線の紅莉栖と初めて会った場所。半年前のあの時——。
*****
「さっき、私に何を言おうとしたんですか?」
「さっきとはいつのことだ?」
「ほんの15分くらい前。会見が始まる前に。私に何か言おうとしましたよね?すごく悲しそうな顔をして。まるで、今にも泣きだしそうで、それにすごく辛そうでした。……どうして?私、前にあなたと会ったことありますか?」
*****
思えばあれが全ての始まりだった。
出会わなければよかったんだ。こんなことになるくらいなら。最初から出会ったりしなければ、こんな気持ちにも……。