STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「オカリンさん……」
ふわりと優しい感触が頭に触れた。
「かがり…」
ががりが俺の頭を撫でてくれている。
「私が怖がってると、ママがよくこうしてくれたの」
「どう…して…?」
「だって、オカリンさん。すごく辛そうで……今にも泣きだしそうなんだもん」
子供をあやす要領で、かがりは俺の頭を何度も何度も撫でた。
「あいつと……紅莉栖と初めて会ったのはここだった」
「ここって……この踊り場?」
「ああ……。最初の印象は最悪。初めて会ったっていうのに、上から目線だわ睨みつけてくるわで、可愛さの欠片もなかった。もっとも、向こうだってそう思っていただろうけどな」
なにしろ、あの時の俺は、機関だのエージェントだのと、痛々しいことばかりを口走っていたからな。
「でも……それでも、紅莉栖さんはオカリンさんにとって大切な人になった」
「……ああ」
そうなったのは、α世界線の紅莉栖だ。ここで出会った紅莉栖は、直後に……。
「私の顔って、紅莉栖さんによく似てるんだよね?」
「……どうしてそれを?」
「せんぱ……真帆さんから聞いたの。それでネットで調べてみたんだけど、自分でもビックリするくらい似てた。そんな人の記憶が私の中にあるなんて、それも運命なのかなーって」
運命——。
いつだってそうだ。
運命が俺たちをあざ笑う。
翻弄する。
「ねえ、もしも——」
かがりの髪の先から落ちた雫が、床に撥ねた。
「もしもね、椎名かがりの記憶が失くなって、完全に紅莉栖さんの記憶に入れ替わるとしたら……そしたら、私は牧瀬紅莉栖になっちゃうのかな?」
「……そう簡単に行くものじゃないよ」
「でも、もしもだよ?もしも、そうなるなら……オカリンさんは、嬉しい?私が紅莉栖さんになったら、オカリンさんは嬉しい?」
それは何度も否定した悪魔の囁き。
「俺は——」
そんなこと。望んでないと言えるのか?
「でも、私はやっぱり嫌だな…」
雫が床にぽつりと落ちる。かがりの目から、だ。
「このまま、自分がどうやって生きてきたのかもわからないまま……誰からも必要とされないまま消えちゃうなんて……」
「かがり…」
「私……どうなっちゃうのかな……私は……私は……」
かがりは小さく震えていた。
それは決して寒さのせいだけではなかった。
「ごめん、ね……」
なぜ、かがりが俺に謝るんだ。この子は、何も悪い事なんてしてないんだぞ?
またこうやって、世界は俺たちに残酷な運命を叩きつけるのか?
神様とやらがいるとして、どこかで俺たちをあざ笑っているのだろうか。手のひらの上で転がして、にやにやと笑っているのだろうか。
「クソっ……!」
そんな運命は願い下げだ。
紅莉栖をこの手に掛けてしまった俺になら、どれだけ罰を与えても構わない。因果応報。迂闊だった俺のやってきたことへの報いというのなら、俺はそれを受け入れる。
だが——。
「かがり。お前の記憶は俺が必ず取り戻してみせる」
「………え?」
「それにお前は、誰からも必要とされていない、なんてことは絶対にない。俺がいる。まゆりもいる。ダルもいる。鈴羽もいる。ルカ子も、フェイリスも、比屋定さんだっている」
「でも、ママだって……私のことを重荷に感じてるかも……」
「そんなこと、あるはずがないだろう!」
「っ…!」
「確かにあいつは、君が知っている2036年のまゆりじゃない。君よりも年下だし、まだ、母親としての自覚なんて持てていないかもしれない。でも!それでもあいつは……苦しむお前を見て、どうにかしてやりたいって思ってるんだ。その気持ちに嘘はない。絶対にだ!」
かがりは幸せにならなければいけないんだ。
「俺たちを信じろ、かがり!」
俺はかがりの肩を掴み、真正面から向き合った。
「お前は俺たちが絶対に救ってみせる!」
その涙の溢れる瞳をじっと見つめる。
「………うん」
かがりは涙を拭い、小さく頷いた。