STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~   作:明治アル蜜柑

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ルカ子の家を出る頃には、雨もやんでいた。あの後、しばらく様子を見てみたが、かがりは目を覚ましそうになかった。眠っているその姿は穏やかで、ひとまずその場はまゆり達に任せて、俺はラボに戻る事にした。

 

こういうときに男の俺がいてもしてやれることはない。……ルカ子も男だが、まぁ。

 

まゆりやルカ子によると、かがりはこれまでも何度か、混乱を来すことはあったらしい。

 

しかし、今回みたいなことは初めてだったようだ。俺たちは少し軽く考え過ぎていたのかもしれない。おそらくかがりの脳には既に、かなりの負担がかかっている。

 

一刻も早く対策を打たねばならない。

 

 

 

 

 

「キターーーー!」

「出来たわ‼」

 

ラボの扉を開けるなり、ダルと真帆、ふたりの声が室内に響いた。

 

「ほ、本当か⁉」

 

靴を脱ぐのももどかしく、乱暴に飛ばしながら上がり込む。

 

「お?オカリン、なんつーグッドタイミング!」

 

「岡部さん、びしょ濡れじゃない!」

 

「そんなことはどうでもいい!それよりも……やったのか⁉」

 

「むふっ」

 

ダルはビシッとサムアップをして見せた。

 

「でかした、ダル!」

 

「スーパーハッカ―なのだぜ。これくらい当然だっつーの!」

 

事もなげに言ってはいるが、SERNをハッキングするのに、どれほどの能力と労力が必要かを、俺は充分に知っている。そこらのハッカーに出来ることじゃない。スーパーハッカ―の呼び名も伊達じゃない。さすがは頼れる右腕(マイ・フェイバリット・ライトアーム)だ。

 

「比屋定さんは⁉比屋定さんの方も完成したのか⁉」

 

「私だって、これくらいどうってことなかったわ」

 

真帆もダルと同様、親指を立てて見せた。

 

「さすがだな……」

 

「ま、これも全部、あなたやかがりさんから情報を得られたからなんだけど。そういう意味では、かがりさんの中に紅莉栖の記憶が残っていて助かったわね」

 

「いや、それでも完成させたのは比屋定さんの力だ」

 

「ありがとう。その言葉、素直に受け取っておくわ。あとは実際にきちんと機能するかどうかが問題だけど……こればっかりは試してみるわけにもいかないのよね」

 

「そうだな…」

 

「ボクはキッチンジロー3回な」

 

「10回でも20回でも奢ってやるさ」

 

ともかく、これでお膳立ては整った。

 

あとは、連中が何者なのかを突き止めるだけ。

 

「ふぅ。それじゃあちょっと私は眠らせてもらうわ。さすがに疲れ——」

 

真帆の言葉を遮るように、スマホの着信音が響いた。

 

「もう、誰よ。人がこれから寝ようって時に……」

 

真帆は文句を言いながらも、スマホを片手に開発室の奥へ向かう。

 

「はい、もしもし……」

 

ダルが俺の方を向く。

 

「で、かがりたんはどうなん?」

 

「それ、なんだが……」

 

言いかけたと同時に、今度は俺にラインが届いた。

 

ルカ子からだった。かがりが目を覚まして、今は落ち着いている、とのことだった。

 

「実は、あまり良くない。今日なんて、まゆりのことすら分からなくなった」

 

「マジで?まゆ氏のことまで……」

 

「それだけじゃない。その後、ひどい頭痛を訴えて意識を失った。

 

「それ、マズくね?」

 

「まずいな。何とかしないと……」

 

肝心の相手が分からなければどうしようもない。

 

 

 

「ええ⁉本当ですか⁉」

 

突然、開発室の奥から上がった声に、ダルと顔を見合わす。

 

「真帆たん、どしたん?」

 

「何かあったのか⁉」

 

「荒らされたって……私の借りてた、ホテルの部屋……」

 

電話はホテルからのものだった。現在、真帆は和光氏のビジネスホテルに滞在している。ここ数日、ホテルに戻らない間に、その部屋が何者かによって荒らされていたというのだ。

 

「連中も、いよいよ余裕がなくなってきた、ということだな」

 

「え?」

 

「この前はオフィスの方を荒らした。ほとんど誰にも知られていないオフィスを、だ。それに今度は比屋定さんのホテルをピンポイントで狙った。なりふり構っていられないってことだ」

 

「確かに……」

 

「やっぱり目的は、牧瀬氏のノートPCとハードディスクなんかな?」

 

「間違いないだろうな。こちらで預かっておいてよかった」

 

それに、真帆がホテルに留まっていれば、危害を加えられていただろう。

 

「ダル。あれは誰にも見つからない場所に隠してあるんだよな?」

 

「うん。鈴羽に頼んでタイムマシンの中に隠してある。タイムマシンは鈴羽かボクしか開けられないから、絶対に大丈夫だ」

 

タイムマシンのハッチには、生体認証のロックがかかっているんだったな。

 

「次の狙いは間違いない。かがり本人だ」

 

「っ……!」

 

「かがりに紅莉栖の記憶を入れるところまでやっておいて、直前で逃げられた。頼みの綱の紅莉栖のノートPCとハードディスクも、バレる危険を冒してまでオフィスとホテルに侵入したが失敗。残っているのはかがり本人だけだ」

 

「…………」

 

この世界線では、かがりの居場所はバレていないはずだ。

 

やはり、1月1日にラボへの襲撃がなったのは、かがりの位置を特定できなかったからだろう。

 

そして俺は、レイエス教授こそがあのライダースーツの女だったのではないかと考えている。というのも、前の世界線でかがりの居場所が特定されてしまったのは、俺が“紅莉栖”にかがりの事を話してしまったことと、柳林神社に初詣に行き、そこでかがりを見られてしまったことが原因ではないだろうか。

 

この世界線では、正月にラボでパーティをやったが、初詣はしなかったらしい。初詣の時、神社で俺たちはレスキネン教授とレイエス教授に会った。おそらく、あの時にレイエス教授にかがりの居場所と俺たちとの関係がバレたのだ。

 

だが、この世界線ではバレていない。ならば、それを利用して奴らを炙り出してやればいい。

 

「ひとつ、作戦がある」

 

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