STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~   作:明治アル蜜柑

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2011年1月15日(土)

 

 

硬質な乾いた足音が、夜の闇に木霊していた。秋葉原の静寂は早い。昼間はあれほどまでににぎわっている家電量販店も、黄色い声溢れるライブハウスも喫茶店も、夜になると鳴りを潜め、代わりに静寂が辺りを支配する。

 

そんな中、ひとつの足音だけが同じリズムを刻みながら、ゆっくりと進んでいた。

 

足音の主は女だ。

 

暗闇の中でその姿ははっきりとは見えない。ただ、その挙動は明らかに妙だった。

 

帽子を目深に被り、人目を避けるようにして歩いていた。

 

まるで何者かから身を隠すように。何者かに追われるように。

 

そして女の姿が曲がり角に差し掛かろうとしたその時。

 

不意に角から姿を現した者たちがいた。

 

女は驚いて立ち止まった。だが、その背後にも、いつの間にか男たちの影があった。

 

「椎名かがりだな……」

 

男のひとりがそう言った。流暢な日本語だったが、よく聞けば外国語訛りがあることに気付いたかもしれない。

女はただ立ち竦んだ。

 

「大人しくしていれば手荒な真似はしない」

 

その声を合図とするように、女を混む男たちの柵が次第に狭まっていく。女はただ怯えた様子で、抵抗する素振りも見せなかった。

 

楽勝だ、と笑みを浮かべた男が手を伸ばしたその瞬間——。

 

「オォォォォォォオオ‼」

 

空気を裂くような音が聞こえたかと思うと、男は伸ばしかけていた手をおさえ蹲った。地面には何やら加工肉のような物体が3つほど転がっている。

 

「ぐはっ!」

 

それが男の指だと理解するより早く、今度は別の男が、顔面へのハイキックを喰らい、もんどりを打って倒れた。

それまで余裕を見せていた男たちは猛り立った。

 

女めがけて一斉に飛び掛かる。

 

だが、そのどれもが次々と崩れ落ちていく。

 

「おいおい、静かにしな。あんまりうるさくすると、おめえらも困るんじゃねえのか?」

 

暗闇から現れた大男が、月を背にしたまま、冷たい声で言った。

 

 

 

 

 

「すごいな……」

 

天王寺が敵をなぎ倒していく様に、俺はそんな感想しか出てこなかった。強いとか、そんなレベルじゃない。

 

それともう一人。かがりに扮していた鈴羽だ。いつの間に変装を解いたのか、普段の格好に戻っている。鈴羽が俊敏な猫のように動くたびに、男たちはうずくまっていく。鈴羽が強いことは知っていたが、これほどまでとは思わなかった。

 

まるで瞬間移動のように、文字通り、一瞬視界から鈴羽の姿が消える。気づいたときには、敵が地面に転がっている。

 

「…………」

 

魔法か何かを使って身体能力を向上させているのか?本気でそんなことを考えてしまう。

 

「なかなかやるじゃねぇか、バイト。おめぇがあの橋田の妹とは、信じられねぇな」

 

「店長もね。悪くない動きだよ」

 

俺は数日前、ある作戦を発動させた。

 

真帆のオフィスとホテルに侵入した連中の次の狙いは間違いなくかがりだ。だから俺は萌郁に情報を流してもらったんだ。椎名かがりと思しき人物が、毎日このくらいの時間にこの道を通る、と。

 

そしてそれから数日たった今日、連中はまんまと俺たちが用意した餌に食いついた、というわけだ。

 

俺ひとり、こうして路地の角に身を隠して、鈴羽たちの闘いを見ているだけというのは情けない話だ。だが、俺が出ても役に立たないどころか、足手まといになるのは目に見えている。

 

『そっちはどう?』

 

片耳につけたイヤホンからダルの声が聞こえた。

 

『鈴羽は大丈夫?怪我してない?』

 

自ら囮役を申し出た鈴羽に、ダルは最後まで反対していた。やはり娘を危険に晒すのが心配だったのだろう。

 

「心配いらない。お前の娘は想像よりずっと凄いよ」

 

『そりゃあ、ボクの娘だからね。でも、傷物になんかされたら、オカリン。一生恨むからな』

 

たとえ銃や爆弾を持っていたって、鈴羽にかすり傷ひとつでも付けられないだろう。

 

闘いを見守っていると、男たちはひとりの指笛を合図に撤退を始めた。罠に掛けられたことに気付いたのだろう。

 

「おっと、そうは行くかよ」

 

天王寺の丸太の様な腕がひとりの男の手を掴んだ。だが——。

 

乾いた破裂音が聞こえた瞬間、捉えられた男の全身から力が抜けた。

 

「チッ……」

 

馬鹿な……。死んだ?自ら命を絶っただと?

 

「おじさん、そっち!」

 

突き刺さるような声に我に返る。

 

逃げ出した男のひとりが、俺のいる路地に向かっていた。

 

俺たちの目的は奴らを捕らえ、連中が何者なのかを吐かせること。このままでは、せっかく掴みかけた尻尾を逃してしまう。

 

「っ‼」

 

無我夢中でとこの前に身を躍らせる。

 

突如現れた俺の姿に、男は一瞬の躊躇を見せた。だが、そのまま速度を落とさずに突進してきた。

 

その腰のあたりに、光る何かが見えた。

 

「ぐっ!」

 

「はぁぁぁぁぁっ!」

 

俺の身体に男がぶつかると同時に、駆け寄った鈴羽の跳び蹴りが男を捕らえた。

 

「ぐはっ!」

 

吹き飛ばされる男を、その先で待ち構えていた天王寺が受け止めた。

 

天王寺は自殺をさせないように、流れるような動きで男の両腕を固めた。

 

「おじさん、怪我は?」

 

「っ…!」

 

「だ、大丈夫⁉」

 

「な、なんとも…ない」

 

『オカリン!どしたん⁉何があった?』

 

「心配……するな。こっちはみんな無事だ。それより鈴羽、奴は⁉」

 

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