STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~   作:明治アル蜜柑

112 / 303
(33)

腹部がひどく痛む。だが、それを何とか堪えてラボまで辿りついた。

 

中にはまゆりをはじめ、フェイリスやルカ子など、全員が揃っていた。そしてかがりも。

 

「はぁ……はぁ……」

 

かがりはぐったりとした様子で、ソファにもたれかかっていた。

 

息が荒い。顔色も良くない。いつどうなってもおかしくない状況だ。

 

「ダル、どうだ?」

 

「前にハッキングかけた時のルートがあるから、今探ってる!」

 

「前にって……お前、そんな危険なことしてたのか⁉」

 

「ちょっとね、友達と賭けでね。どっちが早くハックできるか勝負したんだ。ゴーゴーカレー1年分!」

 

こいつ、危険な真似を……。

 

今回のかがり奪還作戦が失敗に終わったことで、ストラトフォーがさらなる強硬手段に出てくる可能性は高い。ここでもたもたしている時間はなかった。

 

それに——。

 

 

「っ!」

 

「オカリン?顔色、悪いよ?」

 

「いや、なんでもない…」

 

「なんでもないことないニャ!見せるニャ!」

 

フェイリスが半ば無理矢理に俺のコートを剥ぎ取った。

 

「っ……ひどい怪我してるニャ!」

 

「岡部さん……血が……っ!」

 

「オカリン!」

 

自分でも見ないようにしていたが、思った以上の量の血がシャツをどす黒く染めていた。さっきの男を止めた時に、深くやられたらしい。

 

「……問題ない」

 

「問題ないわけないニャ!るかニャン、応急手当の用意を!」

 

「はいっ!」

 

「っ……俺は大丈夫だ!」

 

おそらく、これからすることによって世界線が変わる。ここが襲われようと、俺が瀕死の重傷を負っていようと関係ない。世界線が変われば全てがなかったことになる。

 

「まゆり、それよりも、かがりは……?」

 

「っ……あぁ……っ!」

 

まゆりは俺の傷を見て震えていたが、かがりのうめき声を聞いてそちらに目を移した。何度か俺を振り返るが、俺は首を横に振った。

 

「かがりちゃん!しっかり!」

 

ぐったりとソファにもたれかかったまま、小刻みな浅い息を繰り返している。かがりはここ数日ですっかり衰弱してしまっている。

 

その手が宙を泳ぐ。

 

「ママ……ママ、どこにいるの?」

 

「ママはここだよ。ちゃんと傍にいるよ」

 

まゆりがその手をしっかり握ってやると、ようやく笑みを浮かべる。

 

「ねぇ……ママ……私、このまま……消えちゃうの、かな…?」

 

「大丈夫だよ!きっとオカリンとダルくんがなんとかしてくれるから!」

 

「オカリン……さん?」

 

「そうだよ。オカリン。分かるよね?」

 

「オカリン……さん……」

 

その目が俺を見た。

 

「心配しなくていい。もう少し……もう少しで元通りになる」

 

かがりは小さく頷く。

 

「岡部……さん?」

 

呼び方が、岡部に変わった。

 

「私を……消して……」

 

「かがり……?」

 

いや、違う。

 

「彼女の中から……私を、消して……このままじゃ、彼女が…」

 

これは、紅莉栖の言葉だった。

 

人格と記憶は違う。紅莉栖の記憶があるからといって、かがりの中に紅莉栖の人格が備わっているわけじゃない。

けれど——。

 

「お願い……岡部さん」

 

かがりと、紅莉栖が重なって見える。

 

「私を……消して……」

 

いつだってそうだ。

 

こいつは自分の身を犠牲にする選択ばかり。本当は死にたくないくせに、消えたくないくせに、忘れられたくないくせに。誰かの幸せを願って、身を引くんだ。

 

そんなの。間違ってる。

 

紅莉栖が幸せになっていいんだ。お前は生きていていいんだ。

 

お前が生きていてくれないと……俺は。

 

「ごめんね……岡部」

 

紅莉栖!

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。