STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
腹部がひどく痛む。だが、それを何とか堪えてラボまで辿りついた。
中にはまゆりをはじめ、フェイリスやルカ子など、全員が揃っていた。そしてかがりも。
「はぁ……はぁ……」
かがりはぐったりとした様子で、ソファにもたれかかっていた。
息が荒い。顔色も良くない。いつどうなってもおかしくない状況だ。
「ダル、どうだ?」
「前にハッキングかけた時のルートがあるから、今探ってる!」
「前にって……お前、そんな危険なことしてたのか⁉」
「ちょっとね、友達と賭けでね。どっちが早くハックできるか勝負したんだ。ゴーゴーカレー1年分!」
こいつ、危険な真似を……。
今回のかがり奪還作戦が失敗に終わったことで、ストラトフォーがさらなる強硬手段に出てくる可能性は高い。ここでもたもたしている時間はなかった。
それに——。
「っ!」
「オカリン?顔色、悪いよ?」
「いや、なんでもない…」
「なんでもないことないニャ!見せるニャ!」
フェイリスが半ば無理矢理に俺のコートを剥ぎ取った。
「っ……ひどい怪我してるニャ!」
「岡部さん……血が……っ!」
「オカリン!」
自分でも見ないようにしていたが、思った以上の量の血がシャツをどす黒く染めていた。さっきの男を止めた時に、深くやられたらしい。
「……問題ない」
「問題ないわけないニャ!るかニャン、応急手当の用意を!」
「はいっ!」
「っ……俺は大丈夫だ!」
おそらく、これからすることによって世界線が変わる。ここが襲われようと、俺が瀕死の重傷を負っていようと関係ない。世界線が変われば全てがなかったことになる。
「まゆり、それよりも、かがりは……?」
「っ……あぁ……っ!」
まゆりは俺の傷を見て震えていたが、かがりのうめき声を聞いてそちらに目を移した。何度か俺を振り返るが、俺は首を横に振った。
「かがりちゃん!しっかり!」
ぐったりとソファにもたれかかったまま、小刻みな浅い息を繰り返している。かがりはここ数日ですっかり衰弱してしまっている。
その手が宙を泳ぐ。
「ママ……ママ、どこにいるの?」
「ママはここだよ。ちゃんと傍にいるよ」
まゆりがその手をしっかり握ってやると、ようやく笑みを浮かべる。
「ねぇ……ママ……私、このまま……消えちゃうの、かな…?」
「大丈夫だよ!きっとオカリンとダルくんがなんとかしてくれるから!」
「オカリン……さん?」
「そうだよ。オカリン。分かるよね?」
「オカリン……さん……」
その目が俺を見た。
「心配しなくていい。もう少し……もう少しで元通りになる」
かがりは小さく頷く。
「岡部……さん?」
呼び方が、岡部に変わった。
「私を……消して……」
「かがり……?」
いや、違う。
「彼女の中から……私を、消して……このままじゃ、彼女が…」
これは、紅莉栖の言葉だった。
人格と記憶は違う。紅莉栖の記憶があるからといって、かがりの中に紅莉栖の人格が備わっているわけじゃない。
けれど——。
「お願い……岡部さん」
かがりと、紅莉栖が重なって見える。
「私を……消して……」
いつだってそうだ。
こいつは自分の身を犠牲にする選択ばかり。本当は死にたくないくせに、消えたくないくせに、忘れられたくないくせに。誰かの幸せを願って、身を引くんだ。
そんなの。間違ってる。
紅莉栖が幸せになっていいんだ。お前は生きていていいんだ。
お前が生きていてくれないと……俺は。
「ごめんね……岡部」
紅莉栖!