STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「まずいよ、おじさん」
窓から外の様子を覗いていた鈴羽がつぶやいた。
「何人か集まって来てる……ストラトフォーだ!」
「ダル!」
「よし、来い、来い、来い!」
じりじりと焦りだけが募る。
まだなのか?
「っしゃあ!っしゃ、っしゃっしゃ、キタキタキター!ビンゴ!」
治療の道具を持って駆け寄って来たルカ子を制し、PCのモニタを覗き込む。ダルを挟んで逆側から、真帆も覗き込む。
「重要そうなファイルの中から、サイズの大きなものを選んで!」
「待ってよ……大きなのっつーと……えーっと、ん?もしかして、これかな?でも、ファイルネームに『Jhon』って……」
「モーツァルトの洗礼名はヨハネ!きっとそれだわ!」
「なんかよくわからんけど、おk。てか、中にもファイルがいっぱいあるんですけど……」
「見せて!」
フォルダの中には、番号でネーミングされたファイルがいくつかあった。
「ファイルが増えてる……私たちの研究段階じゃ、こんなに多くなかった……」
つまり、『Amadeus』の凍結後、何らかの形でその成果がストラトフォーの手に渡り、さらに実証実験が重ねられていたということか。
「この中のどれかが、かがりさんの記憶データのはずだけど……」
俺は数字の並びを見て、ある番号を思い出した。
「K6205だ…」
「え?」
ライダースーツの女が言っていた番号。カエデが言っていたケッヘル番号。620番、魔笛。
「K6205がかがりの記憶だ!ダル!」
「K62……あった、これだ!」
「あとの手筈は、事前に話した通りに頼む!」
やり方は、紅莉栖のタイムリープマシンに比べれば、至ってシンプルだ。既に記憶データは存在しているため、VRヘッドセットは不要。電話レンジ(仮)も必要ない。単純にかがりの記憶データに出コードプログラムを仕込んで、SERNのLHCを借りて圧縮。圧縮されたデータを転送し、さらにスマホに飛ばせば——。
「早く‼完全に囲まれた!」
「ダル、準備はいいか?」
「オールオッケー!」
「よし、行くぞ!」
スマホを手に取って、かがり方へ足を踏み出した瞬間。
「待って!」
真帆が鉄のような表情で画面を見つめていた。
「…どうした、比屋定さん?」
「……本当にうまくいくのかしら?もし失敗したらかがりさんは——」
言い切る前に、俺は真帆の肩にしっかりと手を乗せた。
「大丈夫だ。俺が……いや、紅莉栖が保証する」
「紅莉栖…?」
「君はあいつが認めた天才だ。紅莉栖に出来たことなら、君にも絶対できる!」
俺は真帆から手を離すと、ソファに沈み込むかがりの前でしゃがみこんだ。
「岡部……さん?」
「…いいな?」
さようなら。
「うん…」
紅莉栖——。
「おじさん、来た!」
「ダル!」
「了解!」
階段を上がって来る足音。
そして、携帯の着信音。
「あのね、岡部さん……私、たぶん、岡部さんのこと……」
画面に表示される、応答と拒否のボタン。
「あなたのこと…」
それが紅莉栖の言葉だったのか、かがりの言葉だったのか——。
分からないまま、続きはドアの音や怒号に掻き消され。
俺は——。
応答のボタンを押した。
そしてかがりの頬に押し当てられたスマホは鳴動を止めた瞬間、世界は、その姿を歪に変えた。