STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「……………」
無残な瓦礫の山だった。
「なんだ……これ……」
破壊され廃墟と化したビル群。剥き出しになり捻じ曲がった鉄筋。最初こそ映画のセットか何かかと思った。しかしそれにしては、目の前の光景はあまりにも現実的(リアル)だった。壁や窓、天井、あらゆるところが破壊され、飛び散った破片が地面をびっしりと埋め尽くしている。路上のアスファルトも、ひび割れ穴を穿たれ、まともに歩く事さえままならない状況だ。
目の前だけじゃない。360度ぐるりと見渡して見ても、同じような光景が続いている。
オイルの臭いがした。何かが燻されているような臭いがした。空を見上げてみる。やけに薄暗い。曇っているのかとも思ったが、そういうわけではないらしい。空一面を覆っている黒い幕の向こうに、ぼんやりと太陽らしき光が見えた。
「っ……ゲホッ、ゲホッ……」
激しい喉の痛みに咳き込んだ。慌てて衣服の袖で口元を押さえる。目にも染みるような痛みが走る。
もう一度冷静に、何が起きたのかを思い出そうと試みたが、やはり答えは何も出てこない。
あの時、紅莉栖の記憶をかがりの中から消した事で、世界線が動いただろう事は間違いない。『Amadeus』の“紅莉栖”が持つ記憶。そして、かがりの中に植え付けられた記憶。
その記憶の所有者によって……つまり、紅莉栖のタイムマシン理論を誰が持つかによって、世界線が変動しているのかもしれない。
そしてここもまた、変動した世界線のひとつ。となるとこの光景は……。
「……………」
視界の隅の方で、何か黒ずんだ棒のようなものが突き出しているのが見えた。ゆっくりと近づいて目を凝らす。瓦礫の中から突き出たそれは、先の方で5つに枝分かれしていた。
「ひっ………!」
手だった。真っ黒に焦げて炭化した人の手だ。
「っっ………ぐっ……う、おえっ……」
強烈な不快感が胃をを突き上げてくる。
それを認識した瞬間、辺りにはそれが山のようにあることに気付いた。
死。死。死。死。人の死。
身の回りにこれほど死がありふれている状況など、経験したことがなかった。あるはずがない。戦争とは程遠い世界で生きてきたのだ。
まともな場所を探して歩きまわる。もつれそうになる足に鞭を打って、少しでも死から遠ざかるように歩き続ける。
そして俺はそこに辿りついた。
捻じれて地面に突き刺さった高架橋。数本の鉄と朽ちた枕木。
知っている。俺はこの場所を知っている。変わり果ててはいるが、間違いない。
ここは、秋葉原の街だ。ということは————。
「ラボは……どうなった……?」
皆はどうしている?それを確かめようと、ラボへの道へ向かいかけたその時——。
背後から音がした。足音。それも複数の足音。次第にそれは大きくなり、倒壊しかけたビルの間から、武装した男たちが現れた。計3人。それぞれが手に自動小銃を構えていた。
全員が俺の姿を認めると、一斉に銃口を向けた。
「あ………」
逃げなければ。そう思ったときには、足元に穴が穿たれていた。鋭い銃撃音が、少し遅れて耳に響く。
躊躇など、なかった。目の前の男たちは、人に向けて容赦なく銃弾を放ったのだ。
少しでも前に踏み出していれば当たっていた。その事実が俺の心を挫く。
逃げろと警鐘を鳴らし続ける頭とは裏腹に、身体は竦んで動かない。
その間にも男たちの銃口は俺に迫る。
そして——。