STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「ちょっと待って、父さん。話がまったく見えない。そもそも、どうしてオカリンおじさんが生きてるの?おじさんは2025年に死んだって言ってただろ?」
「死んだよ。事実上はね…」
「事実上……?」
「タイムマシン開発競争はその頃がピークだったんだ。各国のいろんな機関が、牧瀬紅莉栖が残した論文と彼女の記憶を欲していた。でも、その時点で、牧瀬紅莉栖の遺産は全部、ストラトフォーの手に渡ってたんだよね…」
ストラトフォー。かがりの記憶のバックアップデータを保管していた。あの日、かがりに扮した鈴羽を襲ったのも、ストラトフォーに雇われた連中だった。
「ただ、連中をもってしても、論文の中身を確かめる事はどうしても出来なかった。ロックを解除できなかったんでね。ちなみにそのロックを開発したのは、2010年のボク。そこでストラトフォーは、牧瀬紅莉栖をよく知る人物を捕まえて、情報を聞きだそうとしたんだ」
「それが、俺か……」
「連中は、オカリンの記憶から牧瀬紅莉栖についての情報を取り出すために、あらゆる手段を使ったらしい。ボクたちが助け出したときには、オカリンの精神はボロボロだった。まともに生きるための能力さえ失ってた。回復する見込みのない、死んだのとほぼ変わらない状態だったんだ」
「それじゃあ、肉体は生きてたってこと?」
「そういう事。そしてこれは、オカリン自身の入れ知恵でもあった。オカリンは自分が狙われてることに危機感を覚えてたからね」
「あたしにも、教えてくれればよかったのに…」
鈴羽は少ししょんぼりしている。父にこの事実を隠されていたことがショックだったのだろう。
「そんな顔するな鈴羽。これはワルキューレの中でもごく限られた一部の人間しか知らない」
『ワルキューレ』という名前には聞き覚えがある。鈴羽がよく口にしていた。ダルや鈴羽が所属するレジスタンス組織の名称だ。
「おじさんが死んだって聞いたあの日から、あたしがどんな気持ちで……」
先ほどまでは険しい目を俺に向けていた鈴羽が、悲しそうな目で俺を見た。生前——死んではいなかったが——の俺を慕ってくれていたのだろう。
「鈴羽はオカリンが大好きだったからな。鳳凰院凶真になるってずっと言ってたぐらいだし」
「ちょっ!父さん!」
「は、ははは…」
鳳凰院凶真になる、か。
あんな不格好なマッドサイエンティストに憧れてくれていたとはな。
「話を戻そう。オカリンは心を破壊されたことで、放っておけば肉体さえ死んでしまう状態だった。そこで、事実を知る一部の人間の手によって、こことは別の施設でずっと面倒を見てきたんだ」
2025年から2036年まで。誰にも知られないようにして、11年もの間、ずっと……か。
「もしかして、まゆり……が?」
「まゆ氏だけじゃない。フェイリスたんやるか氏、真帆たんもだ」
生きている。まゆりも、フェイリスも、ルカ子も、比屋定さんも。こんな恐ろしい世界になっても、あいつらは生きて、こんな俺を看てくれてた。ずっと。
「なぁ、ダル…。どうして俺は、今になって目を覚ましたんだろうか?」
記憶データを、もっと早く俺の脳にダウンロードしていれば…。
「それは単純な話さ。オカリンの記憶データはつい最近までどこにあるか分からなったんだよね。つーか、オカリンと牧瀬紅莉栖の記憶データは、ストラトフォーがずっと保管してたんだけど。見つけたのは半月前。どこにあったと思う?驚くぜ?」
「…どこだ?」
「灯台下暗し。大学だよ。ボクたちの」
「まさか……東京電機大学か⁉」
「その地下に、連中の支部があったんだよ。つっても、今はほとんど廃墟になってるけどな」
東京電機大学の地下に、ストラトフォーの支部が……。
「で、半月前にオカリンの記憶データをサルベージしたボクたちは、さっそく脳にデータをダウンロードした」
それでようやく、俺がこうして目覚めた、というわけだ。
「目が覚めたら25年が経っていた…。とんだ浦島太郎だな」
「気持ちの整理がつかないのも無理ないさ」
そのショックもある。だが、なによりも——。
「この記憶は、一度データになったものなんだな……」
俺の中にある記憶。それらは全て、一度0と1に変換されてしまったもの。それは人であると言えるのか。
「でも、それを言うなら、牧瀬氏のタイムリープマシンだって同じ技術じゃん。オカリンはアレ、何度も経験したはずっしょ?」
確かにそうだ。だが、頭では分かっていても、気持ちの整理がつかない。