STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「あたしは、やっぱり納得いかない…」
「そう言うなって鈴羽」
「父さんはいい。そうやって、世界中を騙していたんだから」
「だから、仕方なかったんだってば」
………騙していた、か。
騙されていたのは俺だって同じだ。俺は2025年に死んでしまう運命だと教えられていた。それはこのβ世界線にいる限り、変わらないのだと。
だが、形はどうあれ、俺はこうして生きている。時間を超えた過去の俺すら、未来に騙されていた。
俺だけじゃない。鈴羽も他のヤツも皆、世界中が騙されていた。
「世界が……騙される……?」
死。人の死。それは、曖昧なもの。収束を超えて生きていた。
その言葉に、何かが見えそうな気がした。
その時——。
コンコンコン、と音が鳴った。誰かがやって来たらしい。
「君に萌え萌え」
鈴羽がドアに近づき、また緊張感のない合言葉をささやく。
「バッキュンきゅん」
鈴羽はドアのロックを開いた。入ってきたのはまだ幼い少女だった。
「ダルおじちゃん、鈴羽おねーちゃん。とぅっとぅるー」
まゆりが普段使っている、意味の分からないあいさつ。
「かがり、ここには用がある時以外は来るなと言っているだろう」
かがり…。この子が子供の頃のかがりなのか⁉
「ごめんなさい。でも、ママたちみんな出かけて帰ってこないんだもん」
「まぁまぁ、そう目くじら立てる事もないだろ」
「また父さんはそうやって甘やかす。こういうことはきちんとしておかなきゃ駄目なんだ」
25年前とそう変わらない父娘のやりとりを尻目に、俺はかがりを見た。
と、かがりも俺の存在に気付いたようだ。
「こんにちは」
警戒心のない、純粋な声であいさつをしてくれた。
「ああ。こんにちは」
「おじさんは誰?」
「俺か?俺は……」
ここで名乗るべきかどうか、俺は迷った。鈴羽さえも俺が生きていたことを知らなかったのだ。この先、2人は過去へと跳ぶはずだ。鈴羽はともかく、かがりまで俺が生きていたことを知ったら、なにか影響が出るかもしれない。
「………?」
「そうだな……君のママの友達だ」
少し悩んでから、俺はそう答えた。
「まゆりママの?」
「ああ、そうだ」
「へえ……」
「ママは、優しいか?」
「うん!」
「ママのこと、好きか?」
「うん!だーいすき‼」
「そうか…」
かがりのその表情からは、好きという気持ちがいっぱいに溢れていた。きっとまゆりが大切に育ててきたのだろう。これまで、まゆりの愛情をたっぷり受けて。
けれど——。
過去の世界でひとり。やつらに捕まり、被検体にされてしまう。
ダルたちは、そのことを知っているのだろうか?いや、知らないはずがない。だが、かがりの身に起こることは変わっていない。それはつまり、そうなることが収束であるということなのだろう。
「そういえば、父さん。まゆねえさんには伝えたのか?おじさんが目覚めたこと」
「あ、いかん!すっかり忘れてた!早く教えてやらんと!」
ダルは小型の無線機のようなものを取り出した。
「こちら、バレル・タイター。応答せよ。こちらバレル・タイター」
少し間があって——。
『こちらスターダスト・シェイクハンドです。どうぞ』
スピーカーから聞こえてきた声は、まさしくまゆりの声だった。
あの頃に比べると、ほんの少し落ち着いているようにも思えるが、それでもまゆりには違いない。というか、スターダスト・シェイクハンドってお前……。
「ママ―!」
『あ、かがりちゃん。ダルおじさんのところにいるの?』
「うん!」
『おじさんは大事なお仕事があるから、あんまり邪魔しちゃダメだよ?』
「はーい!」
まゆりの声を聞いて、かがりは嬉しそうだ。
「そんなことよりまゆ氏。スペシャルなニュースだ!」
『スペシャルなニュース?』
「ああ、心して聞いてくれ。オカリンが……目覚めた!」
『………っ!ほんと、に?ほんとに……オカリンが……?』
『どうしたのマユシィ?』
フェイリスの声も聞こえた。その声は大人びている。
『オカリンが、オカリンが……』
『もしかして岡部さん……目を覚ましたんですか⁉』
ルカ子もいる。少し声が低くなり、精悍な感じだ。
『ホント⁉凶真、起きたのニャ⁉』
その声から、俺の目覚めを喜んでくれていることが分かる。
「そういうわけで3人とも、すぐに戻って来た方が良い」
『……………!』
「まゆ氏?どうした、まゆ氏⁉」
『ダメ。マユシィは嬉しさのあまり、涙ぐんで声も出ないみたい』
「ま、無理もないよな。オカリンの復活を一番望んでたのは、まゆ氏なんだからさ」
まゆり……。