STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「とにかく、みんな早く戻った方が良い」
『わかった。食料を受け取ったらすぐに戻るわ』
喜びの声が上がる中、ふと見ると、鈴羽だけが表情を曇らせていた。
「…………どうした、鈴羽?」
「………なんでまゆねえさんたち、食料調達に出てる?今日は予定になかったはずだ」
「え?」
『そんなはずない。確かに今日だって、昨日の夜遅くに連絡が……』
「……マズい!それは罠だ!みんな、すぐに戻って——」
その瞬間、ダダダダダダダッ!と銃声が聞こえた。
「どうした⁉何があった⁉」
『襲撃です!敵襲が!』
「クソっ‼」
『まゆりちゃん、フェイリスさん、逃げて!ここは僕がっ!』
ルカ子が二人を庇ったらしい。
「父さん!」
「おうっ!」
いち早く駆け出した鈴羽をダルが追う。
「待ってくれ、ダル!俺も行く!」
「でも、オカリン、その身体じゃ…」
「………行かせてくれ。頼む!」
ダルはほんのわずかの間逡巡していたが、すぐにうなずき肩を貸してくれた。
ダルに支えられながらしばらく行くと、いくつかの人影が見えた。
おそらくそこでは激しい戦闘が行われているのだろう——そう覚悟していたが、辺りはひっそりと静まり返っていた。向こうの方に兵士らしき人間が何人も倒れている。手前には立ち尽くす鈴羽。すぐ傍にしゃがみ込む二人の女。
そしてその足元に——。
「っ……!」
一目でわかった。
「ルカ…子…っ!」
そこに横たわっているのがルカ子だと。
「オカ……リン?」
倒れたルカ子を覗き込んでいたふたりが顔を上げた。
「凶真…ルカニャンが……ルカニャンが………っ!」
まゆりもフェイリスも、刻まれた時の中で随分とやつれて見えた。
「あ……あぁ………あ」
俺はルカ子の身体に手を回す。
「岡部………さん?」
精悍になったものの、その柔和で女性のような顔は変わっていなかった。ルカ子は焦点の合わない目で俺を見つめた。
「ほんとうに、岡部さん……なんですか?」
「ああ……ルカ子、俺だ……」
「ふふ…その呼び方………本物の岡部さん………ゴフっ!」
咳き込んだルカ子の口の端から真っ赤な筋がひとしずく、流れ落ちた。ルカ子の右胸あたりから流れた血は衣服を紅く染め、地面にまで広がっていた。一見して致命傷だとわかった。
「よかった………さっきのはなし……嘘じゃなかった、んですね……」
「ああ…お前たちのおかげで、こうして目覚めることが出来た……ありがとう」
ルカ子の手が何かを求めるように宙をさまよった。既にその瞳には、俺の姿は映っていないのかもしれない。握りしめたその手は、驚くほどに冷たかった。
「岡…部さん……」
「…どうした?」
「僕、やりました…」
「ああ…」
「凶真さんに…おしえてもらった……清心斬魔流の心得の、おかげ、で……今まで、まゆりちゃんや、みんなを………まもってこられ、まし………た」
「ぁあ……」
「僕……仲間に……なれました、よね……?みなさんの、ほんとうの……なかまに、なれ……ました、よね…?」
「馬鹿、お前は……最初から、ずっと……俺たちの仲間だ……」
ルカ子は冷たい手を伸ばして、俺の頬に触れ——。
そして眩しいばかりの笑みを浮かべ。
「………えへへ……うれしい、な……」
それだけ言って、ふと、頬の感触が消えた。
「ルカ子!ルカ子⁉」
「るか…くん?」
冷たい手はそのまま瓦礫に塗れた地面に落ちた。
「ルカニャン‼」
そのまま二度と、動くことはなかった。
「あ……あぁ……。なんて、なんて事だ………」
こんな結末……。
「……よかった。るかくんは、オカリンとずっと会いたがっていたから。最後に会えたのは、本当によかった……」
よかった?
よかったって……?
こんな終わり方が……?
「っ!」
まゆりのその言葉が、この25年間がどれほど残酷で、地獄のような時間だったかを、俺に思い知らせた。
「漆原るか……。あなたは、とても立派に戦いました。私たちは、あなたに救われました。………どうか、安らかに」
まゆりがルカ子に向かって十字を切った。
「くっ……こんな、こんなの、あんまりだろ………っ」
俺が諦め、受け入れてしまった未来に、こんな結末が待っているなんて。
「う、あぁぁぁぁああああああああ…………!」