STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~   作:明治アル蜜柑

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「まゆ氏は?」

 

「…ルミねえさんと、かがりと…食料の仕分けに行ったよ。少しだけだけど、手には入ったみたいだから」

 

あれから数刻。俺はまゆりの胸の中で泣き続けた。まゆりは自分が辛いのも構わず、ずっと俺の傍にいてくれた。

 

こんな世界にしてしまったのは、俺が諦めてしまったからに他ならない。それなのに、俺を責めることも言わず、ただ、抱きしめてくれていた。

 

「るかにいさん……っ!」

 

ルカ子が、死んだ。

 

その死が、まゆりと重なる。

 

みんなみんな死んでしまう。まゆりも、ルカ子も、紅莉栖も……。

 

「あの戦争をきっかけに、たくさんの人間が死んだ。小学校の友達も、中学高校の友達も、大学の友達も。親戚も先生も知り合いも、大人も子供も、それから………大切な人も」

 

「……っ!」

 

2人の表情が曇る。ここに来てから一度も姿を見ていない、由季さんのことだろう。あの人も、もうすでに亡くなっているんだな。

 

「たくさんの、本当にたくさんの人間が死んだんだ」

 

分かっていた。分かっているつもりだった。

 

シュタインズゲートに辿りつかなければ。β世界線のままでは、いずれ世界中を大きな戦火が包む。さんざん聞かされて来たことだ。それがどんな未来か、俺はわかっていたつもりだった。

 

でも、それは所詮、遠い未来の話でしかなかったんだ。

 

そこには一切のリアルはない。あるのはただのイメージだ。リアリティのない漠然としたイメージだけがそこにあった。

 

かつて俺が経験した何百何千もの悪夢。あれ以上の地獄はないと思っていた。

 

けれど、そんなものはただの幻想だった。

 

まゆりだけは救ったつもりだった。紅莉栖を見殺しにして、現実から目を背けて、それでもまゆりたちだけは救えたつもりでいた。けれど、結局俺は何も救えていなかった。

 

救ったのだとしたら、それは己だけだ。自分ただひとりを救っただけだ。他には何一つ救ってなどいない。

 

「“紅莉栖”を『Amadeus』の呪縛から解放してやってくれ」

 

「え?」

 

「伝言。2025年のオカリンから……」

 

「俺の……伝言」

 

「シュタインズゲート世界線への道は険しい。一度や二度、やり直したところで、辿りつける道ではないだろう。けれど、まずはそこから始めることが、運命石の扉へとつながるんじゃないか。いくつもの未来の先が、過去へと繋がっているんじゃないか。11年前のオカリンはそう言ってた」

 

「“紅莉栖”を解放……」

 

「だからさ、ボクたちがいるこの世界も無駄じゃない。きっと必要な世界なんだ。少なくとも今のボクはそう思ってる。もちろん、だからってこのままでいいってわけじゃない」

 

「ダル……」

 

「だからさ、オカリン。もう一度、戻って考えてみてもいいんじゃね?オカリンの記憶の途切れたその時間に、さ」

 

「2011年に、か?でも、そんなこと……」

 

ガラスに老いた自分の姿が映る。

 

「第一、 この姿のまま戻ったところで、俺に何ができる?」

 

『出来るわ』

 

無線から聞き覚えのある声が聞こえた。

 

『久しぶりね、岡部さん。11年ぶりかしら』

 

「比屋定さんか……?」

 

『部屋の奥を見なさい』

 

その言葉に応えるように、いつの間にかダルが部屋の奥、照明の当たらない薄暗い一角に立っていた。突然明るくなったその一角に鎮座しているのは——。

 

 

 

「電話レンジ(仮)……」

 

『私たちで作ったのよ。もちろん、あなたも一緒にね』

 

見ればレンジにVRヘッドも付属されている。

 

「こんなこともあろうかと、リフターも用意してある」

 

ダルはさらに、この11年間、俺が意識がない状態でもタイムリープの受信が可能な環境を維持してきたのだと説明してくれた。目覚めたときに俺が被っていたヘッドギアのようなものがそれだったのだ。

 

『改良を重ねた結果、跳躍可能時間は336時間』

 

「二週間、か……」

 

『ただし、それも途中までよ。マシンを改良してそれが可能になったのは10年ほど前だから、それ以前は48時間しか跳躍出来ない』

 

つまり、単純計算で3000回近いタイムリープが必要になるということだ。

 

『途轍もなく辛い旅になるわ。それでも戻る気があるのなら……』

 

そんな大それたことが、今の俺に出来るのか?

 

「しんどくなったら、途中で休めばいい」

 

「ダル……」

 

『大丈夫よ。どの時間に辿りついても、必ず私たちがいるから』

 

「比屋定さん…」

 

『私ね、後悔してるの。『Amadeus』のせいで、あの子は死んでもなお、多くの邪な人に利用されようとしていた……。何年も、何十年も。だから、私からもお願い。あの子を……“紅莉栖”を醜い欲望の渦から解放してあげて。紅莉栖を…救ってあげて。それが出来るのは、岡部さん……あなただけよ』

 

今の俺にできるかは分からない。そこから始まる道が、本当に運命石の扉(シュタインズゲート)に続いているという保証もない。

それでも——。

 

 

 

「もう一度、考える、か——」

 

俺に何ができるのか。何をすべきなのか。

 

「二人とも、頼む!」

 

「オーキードーキー!」

 




ここから、どうして『相互再帰のマザーグース』を飛ばして、『盟誓のリナシメント』に分岐したのか、その理由の解説回になります。

ややこしい説明になりますが、お付き合いください。
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