STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「ダル。過去へ跳ぶ前に聞いておきたいことがある」
過去へと戻る前に、俺はダルに聞いておくべきことがあった。
「なんでもどぞ」
まず俺はダルにこれまで経験してきたことを全て説明した。
2010年12月23日。全ての記憶を失った状態のかがりと出会った事。2011年1月1日に何者かがラボを襲撃し、かがりを連れ去ろうとした事。その際にフォネティックコードと呼ばれる西側の軍隊用語を使っていた事。K6205という番号。
翌日、俺は天王寺にラウンダーであることを突きつけ、タイムマシンや世界線のことを全て話した事。
その後、『Amadeus』からの着信があり、出るとα世界線に飛ばされた事。
『Amadeus』を凍結させるようなDメールによってβ世界線に戻ってきた事。
その世界線ではかがりは未来の記憶を覚えていて、紅莉栖の記憶を入れられていた事。
それを入れたのがストラトフォーで、1月15日に上書きする形でかがりから紅莉栖の記憶を消した事。
ここまでの一連の流れを、ダルは真剣な顔つきで聞いてくれた。
「俺はかがりの中から紅莉栖の記憶を消したことで、α世界線に行く前…『Amadeus』が凍結されておらず、かがりが全ての記憶を失っている状態の世界線に戻るものだと考えていた。だが…」
「気づけばこの世界線の2036年にいた…と。なるほどね」
ダルの話では、俺は1月30日に真帆に記憶のデータ化を依頼したらしい。そこから先に何かがあったのだろうか。
世界線の変動で、思った通りに望む世界線へ移動出来たためしはないが、これはあまりにも突飛だ。変動前後でもう少し連続性があるはずなのだ。
「ボクはオカリンみたいにリーディングシュタイナーを持ってないから、聞いた話になるんだけどさ…」
「聞いた?誰に?」
「この世界線のオカリンに、さ」
この世界線の俺。本来俺が上書きするはずだった俺。俺がこの世界線で拷問されるのは2025年のこと。少なくとも、俺は2025年まではこの世界線には移動してきていなかったということなのだろうか?
「この世界線にオカリンは2011年1月2日に移動してきたんだ。まさに今言っていた、『Amadeus』からの着信に出なかったことでね」
「『Amadeus』からの着信に出なかった?」
「それに出ると、α世界線に飛ばされるって事を知っていたらしいんだ。ややこしい話になるんだけどさ…」
ダルは説明してくれた。
ダルの話では、俺がかがりから紅莉栖の記憶を消した世界線から、もう一つ別の世界線をまたいで、この世界線がアクティブになったらしい。
2011年1月15日、かがりから記憶を消したことで俺は世界線を移動した。
俺の予想通り、その世界線ではかがりは全ての記憶を失っており、『Amadeus』も凍結されていなかったらしい。そして1月16日。かがりが全ての記憶を思い出したらしい。
きっかけはまゆりのばあさんの墓参りだった。その帰り道、雨に打たれたことでかがりは施設に監禁されていた時のことを思い出したらしい。監禁していたのはやはりストラトフォー。
その後はまゆりとともに穏やかな時間を過ごしたようだ。
そして、2011年7月7日。鈴羽とかがりがタイムトラベルをした。
向かう先は7月28日ではなく8月21日。あの日死んでしまった鳳凰院凶真を蘇らせるためだ。
だが、二人では鳳凰院凶真を復活させることはできなかったようだ。それで終わったのかと言えば、そうではない。
そこから1月2日まで隠れて過ごしたようだ。
二人は俺から1月2日に『Amadeus』からの着信に出ることでα世界線に飛ばされたことを聞いていた。俺が天王寺に全てを話した事で、SERNが『Amadeus』を支配しようと介入してくることになる。だから天王寺に全て話した上で、電話に出ないように二人は俺を誘導したようだ。
その時点の俺は、まだ何も知らない状態だったが、鈴羽とかがりから説明されてα世界線やかがりから紅莉栖の記憶を消すまでの流れについても説明されたらしい。
「だが、それだと俺がその世界線のことを知らないのはおかしくないか?本来ならかがりから紅莉栖の記憶を消した時点で、俺がその世界線へと移動するはずだったんじゃないのか?」
だが俺が目覚めたのは2036年だった。
「それなんだけどさ、混線したんじゃないかって思ってるんだよね」
「…混線?」
「オカリンは本来、この世界線じゃなくて、一つ前の世界線に移動するはずだったわけっしょ?それも2011年の1月15日に。でも、それよりも先に別のオカリンがその世界線に移動してきて、鈴羽とかがりちゃんのおかげで一年をやり直したことで、移動してくるよりも前にさらに世界線が変わってしまった」
「この世界線へと移動したのは1月2日…」
「そうなると、本来移動してくるはずだった世界線がなくなったことになる。それで移動先を失ったオカリンは、アクティブになったこの世界線へと移動しようとした。でも、そこには先に移動してきている別のオカリンがいた」
「移動先が満員になってしまっていた、ということか」
「入れる場所がない。だから真帆たんがデータ化したオカリンの記憶の中に移動してきたって感じなんじゃないかな」
「なるほど…」
無理に岡部倫太郎の脳内に移動してくるのではなく、データの中に移動してきた。
そう言えば、この世界線で目覚める寸前、夢を見ていたような気がする。
とても寒い。色あせていて、何も感情のない世界。今思えば、あれがデータの中の世界だったのかもしれない。
「ありがとう。ダル。これで俺がこの世界線へと移動してきた経緯は分かった」