STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「うん。他に聞いとくことはない?」
「…そうだな」
俺が今から3000回ものタイムリープをして戻るのは2011年1月31日。戻ってから俺に何ができるだろうか。
「じゃあこの世界線での流れを教えてくれないか?そうだな、2011年の最初くらいから…」
1月1日にかがりを狙ってラボの襲撃はあったのだろうか。まずはそこだ。
「お安い御用だお。まずは1月1日だけど、さっきオカリンが言ってたような襲撃はなかったんだ」
「そうなのか?」
それは意外だった。『Amadeus』からの着信に出ないことでこの世界線に移動してきたというのに、それがなかったことになっている。連中がかがりを狙うのをやめた、ということか?
「だからもちろん1月2日に店長さんに全てを話すことも、『Amadeus』から着信が来ることもなかった。SERNがうまく介入できなかった代わりに、ストラトフォーの勢力が強まったんだと考えてる」
「ストラトフォーが『Amadeus』を支配しているのか?」
「理由は分からないんだけどさ……。でも、襲撃がなかった代わりに、真帆たんのオフィスとホテルが狙われたんだ」
「…比屋定さんの?」
「真帆たんは牧瀬氏の遺産…ノートPCとハードディスクを持っていたからね」
「そうか…それにはもちろんタイムマシン論文が入っている…」
「かがりちゃんよりもそっちを狙ったのは、人の脳に別の人間の記憶をぶち込むよりも確実なデータが欲しかったからだろうね。でもその時は運よく盗られなかったんだ」
盗られなかったというのに、ダルの顔は浮かない。何かがあったのだろうか?
「その時点ではまだ、真帆たんには何も教えてなかった。ボクも真帆たんが牧瀬氏の遺産を持ってることも知らなくてさ。真帆たんは二月にはアメリカに帰ったんだけど、その時にごたごたに巻き込まれて奪われたんだよね」
「ストラトフォーが紅莉栖の遺産を全て独占していたというのはそういうことだったのか…」
「今更悔やんだって仕方ないんだけどさ。真帆たんにもっと早く話していれば状況も変わっていたかもしれない」
おそらく俺がストラトフォーによって拷問されたことを言っているのだろう。俺としてはこうして生きているだけでも充分だ。感謝してもしきれない。
「そういえば、かがりの記憶はどうなったんだ?」
「おっと。そうそう。かがりちゃんは最初、何も覚えていなかったんだ。未来のことも、タイムトラベルしてからのことも。でも、1月16日には未来の記憶は思い出したんだ。監禁されていたときのことは思い出せなかったんだけど」
「やはり1月16日か…」
一つ前の————俺が経験していない————世界線と同じ日だ。
「それがこの世界線の収束、というわけか」
かがりから紅莉栖の記憶を消すことで、一つ前の世界線へと移動した。さらにそこから派生したこの世界線でも、かがりはその状態になる。だが、一つ前の世界線で記憶が蘇った。そのつじつま合わせとして、この世界線でも未来のことを思い出した。
もちろんこの世界線でも『Amadeus』は凍結されていない。
俺が辿ってきた流れでは、『Amadeus』が存在している場合、かがりは全ての記憶を失う。
逆に『Amadeus』が凍結された場合、かがりは未来の記憶が残っている。その代わり、紅莉栖の記憶も挿入されてしまう。そうなっていた。
だが、さらに二つの世界線を経ることで、『Amadeus』は存在していて、かがりは全ての記憶を失っているが、未来のことは後に思い出す、という形で再構成された。
紅莉栖の記憶が入れられなかったという点では、世界線を経るごとにかがりの状態は良くなって来ていると言えるだろうか。
「かがりちゃんが記憶を取り戻して、一旦は平穏を取り戻した。でも、オカリンは何かを警戒してた。そこでボクとオカリンはタイムリープマシンを作ることになった」
そのタイミングで、よく俺がタイムリープマシンを作ろうと思えたものだ。今の俺ならともかく、その時の俺はシュタインズゲートを目指そうとは思えていなかった。
かがりの状況を見て、このままではいけないと思ったのだろうか。
「真帆たんにも協力してもらって作ったんだ。真帆たんには全部打ち明けてさ。オカリンの記憶をデータ化した時に真帆たんが作ってくれた記憶の読み取り装置があったから、なんとか形になったんだ」
そう言えば1月末に俺は比屋定さんに記憶のデータ化を頼んだらしい。
「真帆たんは一旦アメリカに帰ったけど、それから一年もしないうちにボクらに合流したんだ。それからのことはさっき説明した通りだ。2025年にオカリンはストラトフォーの手で拷問されてしまった。そして今に至るってわけだね」
大体の流れは分かった。これで、俺が2011年に戻ってから、するべきことは決まった。
真帆がまだ日本にいる内に、紅莉栖のノートPCとHDDを確保すること。狙われる確率は低いが、かがりを守り通すこと。そして『Amadeus』…。
データの中の世界。紅莉栖はその中に閉じ込められ続けている。
比屋定さんの願いでもある。
紅莉栖を暗い世界から解放してやること。
それが俺の為すべきことだ。
「ダル。ありがとう」
今まで、こんなにもまっすぐに感謝の言葉をダルに伝えたことはなかった。
「おう」
だがダルも茶化すことなくきっちりと受け止めてくれた。
『岡部さん』
そこで、準備を終えたらしい真帆が話しかけてきた。
「ん?」
『もしも、次に紅莉栖に会えたら言ってやって。未来の私は、あなたの7倍もの時間跳躍を可能にしたわよって』
「……わかった。必ず伝えるよ」
——紅莉栖に会えたら。
「オカリン」
「……?」
「……必ずシュタインズゲートにたどり着こうな」
どちらから差し出すでもなく、俺たちはお互いの手を握りしめた。
「任せておけ!」
2036年3月7日17:13。
画面に表示された時間を見た。…ここから、25年もの時間を遡るのだ。途方もない旅になるな。だが、俺はやり遂げてやるさ。こんなクソッタレな未来を粉砕するために!