STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「っ!」
目を向ける。
「あら、まだいたのね」
わざとらしく微笑む真帆が立っていた。
「比屋定さん…」
これは好都合だった。一度帰らせておいて、また呼び出すというのも気が引けたから。戻って来てくれてよかった。
「どうして戻って来たんだ?」
「…あなた、難しい顔してたから。私じゃ紅莉栖の代わりにはなれないけど。私でよかったら話してみて?」
タイムリープしてきた俺の表情を見て、何かを悟ったのだろう。
まるで紅莉栖だ。あいつも、俺の様子を見ただけで、何度も何度もタイムリープを繰り返していたことを見抜いた。やはりあいつの先輩だな。
「…………」
だが、やはりどう切り出すべきか迷う。タイムマシンやタイムリープなど、まるで雲を掴むような話だ。科学者である真帆を納得させられるとは到底思えない。
「かがりさんと奥で話していた時、この時代に来てから……と言っていたわよね?あれはどういう意味なの?」
悩んでいると、彼女の方からそう切り出してきた。
「え?」
「ごめんなさい。聞くつもりはなかったのだけど、聞こえてしまったのよ。それで、この時代…とはどういうことなのかしら?」
もうあれこれ考える必要はない。
「荒唐無稽な話に聞こえるかもしれないが、聞いてくれるか…?」
俺は全てを話した。
「まったく、あなた、なんて人なの……」
俺の話を聞いた真帆の第一声がそれだった。
すぐに信じてもらえる話ではなかった。それでも、俺の真剣な態度から感じ取るものがあったのか、根気よく話を聞いてくれた。タイムリープとタイムマシンについて、俺の知る限りの理論も説明した。さすがは専門家だ。俺の説明に捕捉までしてくれた。
「信じて、くれるのか?」
「信じないわけにはいかないでしょう?そんな顔して語られたら。それに……」
真帆は後ろを——。
「実際にこんなものを見せられたら…ね」
タイムマシンを指さして、そう言った。
「それに、これで納得がいったわ。前から不思議だったのよ。紅莉栖は秋葉原に来て、ほとんど日を置かないまま死んでいった。そんな彼女と、貴方がそれほどに仲良くなれたということが、特にあの子の性格でしょ?そんな期間に、それも男の人と親しくなるなんて、よっぽどのことがあったんじゃないかと思っていたのだけど……」
それがα世界線の話だった、というのは俺がずっと秘密にしてきたことだ。真帆も俺に聞いてこなかっただけで、思うところはあったんだな。
「それにね。どれほど荒唐無稽な話であったとしても、そこにあの子が………紅莉栖が関わっているのなら、私は信じるわ」
真帆は少しだけ、自嘲気味にそう言った。自分には無理でも、紅莉栖にならできる、と。そんな思いが込められているように感じた。
「…………」
俺は、かつて真帆が言った言葉を思い出した。
『あなたは天才で、所詮私はサリエリだったってことよ』
あれはかがりの中にある、紅莉栖の記憶に対する言葉だった。
だから今、ここではっきりと言うべきだ。
「比屋定さん。君はサリエリなんかじゃない」
サリエリはモーツァルトの才能に嫉妬し、人生を狂わせた。そのサリエリとて、才能がなかったわけではない。彼だって、後世で十分すぎるほどに評価されるほどの才能の持ち主だ。それは分かっている。だが、俺はあえてそう言った。
「え?」
「君は……君は立派なアマデウスだ」
一度、α世界線に飛ばされたときに、紅莉栖が言っていた。
『真帆先輩は天才よ。あの人なら、絶対にあんたの力になってくれる。だから、先輩には全てを打ち明けて、協力を仰ぎなさい』
俺は今の今まで、その踏ん切りがつかなかった。前の世界線でかがりから紅莉栖の記憶を消したときも、最後まで悩んでしまった。
だが、俺は紅莉栖の言葉を信じる。
「俺に力を貸してくれ。紅莉栖を救いたい。まゆりを、鈴羽を、かがりを……皆を、未来を救いたい。だから……」
救える。今の俺には、その確信がある。
2025年の死亡収束。どうせ俺は死ぬのだから、とこのβ世界線の凄惨な未来を受け入れてしまっていた。だが、2036年になっても俺は生きていた。たった数人の思惑で、誰もが騙されていた。世界が、騙されていた。
確定していると思っていた未来。だが、そこには違う形の未来が待っていた。
もっと広い視点で見れば、最後には収束するのかもしれない。だが、その過程は変えられる。この世界線だけでは無理だとしても、そこから別の世界線へと繋げばいい。
一度や二度ではたどり着けなくとも、無限に繰り返せば、いつかはたどり着けるはずだ。まゆりも紅莉栖も死ぬことのない、狭間の世界線。運命石の扉(シュタインズゲート)に!
「………そうね。条件が二つあるわ」
「じょ、条件…?」
そこはガシッと手を取り合うシーンじゃないのか?思わぬ返事に調子が狂う。
「ひとつは、このタイムマシンを調べさせてほしいって事」
「……もうひとつは?」
「あなたのこと、オカリンさんって呼ばせてもらう。あなたは私を、真帆って呼びなさい」
「…………」
「悪くない条件だと思うけど?」
そう言った真帆の顔には、今まで見たこともないほど無邪気な笑みが浮かんでいた。
「……わかった。真帆」
「よろしく。オカリンさん」
今度こそ、俺たちは手をガシッと取りあい、固く結んだ。