STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
2011年2月1日
「俺だ……。これより、俺たちは新たなるオペレーションを実行に移す。未来の俺は言った。いくつもの未来のその先に、運命石の扉(シュタインズゲート)は待っていると。これから導く未来がたとえ茨の道だとしても、きっと無駄なものではないはずだ。わかっている。俺たちの目指す扉——そこに辿り着くには、途方もない時間がかかるだろう。いかなる機関が俺たちを阻止せんと立ちふさがるかもしれない。それでも俺は、何度だってやり直してやるさ。健闘を祈ってくれ……エル・プサイ・コングルゥ」
「…………」
全員が、俺のことを見つめている。感心している…わけではないな。これは理解できないやつを見るあの目だ。
そんな目で見ないでくれ。俺だって恥ずかしいんだ。
「何……それ?」
真帆が人でも殺せそうなほど冷たい目で俺を睨んでくる。
「これは……いわば、そう!儀式のようなものだ!」
「儀式……ねぇ…」
そう、儀式だ。ともすれば、再び臆病風に吹かれてしまいそうになる自分自身を奮い立たせるための儀式。
「まさかオカリンさん。あなた、紅莉栖相手にもそんな態度だったんじゃないでしょうね」
「う………お、岡部ではない。凶真だ!」
「ふざけているの?」
「真帆たん。あんま突っ込むのやめたげて。オカリンもまだ模索してる最中だから」
「はぁ……」
「そっかぁ、これが鳳凰院凶真さんなんだねぇ」
そんな中、かがりは俺に理解のある目を向けてくれた。
「そうだよ~。狂喜のまっどさいえんてぃすとさんなのです」
「古の錬金術師(アルケミスト)の生まれ変わりでもあるのニャ」
「清心斬魔流の師範でもあるんですよ」
「へー。すごーい!」
冷ややかな目を向けられるのも堪えるが、感心されるのもまた、恥ずかしい。普通に流してくれればいいのだ。普通に。
「ダメだ、父さん。あたし、ついていけない」
心が折れそうだ。
「それで、具体的にはどうするつもりなの?」
ひとしきり俺への感想を言い終えたところで、真帆が話題を切り替えてくれた。
「まず、最初に言っておくが、俺たちが最終的に目指すのは、第三次世界大戦が起こらない未来だ」
さっきも自分に言い聞かせたばかりだが、すぐに俺たちの求める世界線——シュタインズゲート世界線に行けるとは思っていない。
あの夏の日、一歩一歩積み重ねてこのβ世界線に辿り着いたように、そこに到達するまでには、数多の過去と、そして未来を辿って行かなければならないはずだ。
そのために今、俺がなすべき事。それはこの世界線の未来を正す事だ。
「このβ世界線においても、俺が何度か世界線の変動を経験してきた事は説明したな。まずはその原因を取り除かなければならない」
「その原因ってなんなのニャ?」
「牧瀬紅莉栖のノートPCとハードディスク。そして、『Amadeus』に残る“紅莉栖の記憶”」
タイムマシンに関する論文が残されたハードディスクと、それにまつわる記憶。これまでに起きた何度かの世界線変動。ストラトフォーをはじめ、おそらく複数にわたる組織や機関がそれらを奪い合ったことで、あれらの世界線変動は起きたと考えていいだろう。
ただひとつ、変動の理由が分からないのは、2010年12月15日に、フブキとカエデと話しているときに起きた世界線変動。あれだけは理由を見つけられていない。……これについては今話すべきではないだろう。
「故に、紅莉栖のノートPCとハードディスクの破棄、並びに紅莉栖の記憶のデータを消去すること。これが今回のオペレーションの最終目的となる」
「紅莉栖のデータを消去……!そんな……」
真帆が愕然とした表情を見せる。
「…本気なの?」
「ああ」
「でも……あの記憶は、紅莉栖が生きていた証なのよ?あの子がこの世界で、私たちと同じ時間を過ごしたっていう証拠なのよ?私は……消去なんて、してほしくない…」
真帆の気持ちは分かる。俺だってつい先日までならそう考えていただろう。
それに、真帆は『Amadeus』の研究者だ。これまで積み重ねてきたものを、全て消し去ると言っているのだ。反発する気持ちも分かる。
だが——。
「だったら、君は紅莉栖の記憶が悪用されてもいいというのか?」
「それは……」
「俺たちのいるこの世界線に至るまでの、いくつかの過去において、あいつの記憶は争いの種になってきた。それに多くの人間が巻き込まれている。そこにいるかがりだってそうだ」
「………オカリンさん」
今に至る失われた数年の間に、かがりの身に何があったのか——おそらく、そこに関しては、前の世界線と変わっていないのではないだろうか。であるならば、それもすべては紅莉栖の記憶というパンドラの箱があるからこそ起きた悲劇だ
「それに俺は、一度データの中の世界を経験して知った。あの世界の冷たさをな——」
そう、俺は知ってしまったんだ。暗く冷たい、あの闇の世界を。過去も今も未来もない、ただぴったりと閉じられた筐の中の世界を。
「それほどまでに暗く冷たい世界に、ずっと紅莉栖を閉じ込めておいて、君は平気なのか?」
「…………」
卑怯な言い方だとは分かっている。だが俺はマッドサイエンティスト。この程度、躊躇うはずもない。
「それに、あいつが生きていたという証は、俺たち自身のここにある」
俺は自分の頭を指さした。
「俺たちが覚えていること。そしてその上で、第三次世界大戦の起きない平穏な世界へと導くこと。それこそが、あいつが生きていた証拠になるんじゃないのか?」
黙り込んでしまった真帆に全員の視線が集まる。
「……陳腐な台詞ね。それこそ、紅莉栖が聞いていたら笑われるわよ」
「だろうな」
「だけど、陳腐だと思える事にほど、真実はあるのかもしれないわね」
真帆は険しく歪めていた表情を一転、微笑みに変えた。
「あなたに従うわ」
「……ありがとう」
「…私、大学をクビになってしまうかもしれないわね」