STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「んーごほん。では話を戻すぞ」
そこでかがりが手を挙げた。
「あの……私はどうすればいいのかな?」
「君は連中に顔を知られている。ここから動かない方が良い」
紅莉栖の記憶データもそうだが、記憶移植実験の適正値が高いかがりも、奴らの狙いだ。
「でも、私だって何か役に立ちたいよ。ママやみんなが頑張ってる中で、ひとり何も出来ないでいるなんて、そんなの嫌だよ」
困ったな…。
「お願い、オカリンさん。私にも手伝わせて…」
かがりの気持ちは分かる。それでもやはり、危険な目に遭わせるわけにはいかない。
「かがり、これはお前を護るためのミッションだ。お前の身柄が連中の手に渡らないことこそ、お前が達成すべき目的なんだ」
「鈴羽おねーちゃん…」
「かがりちゃん。まゆしぃがかがりちゃんの分まで頑張るよ。だから、オカリンとスズさんの言うとおりにして、ね?」
「ママ……」
まゆりが優しくかがりの頭を撫でる。
「わかった。ママがそう言うなら……」
納得は出来ていない。だが、かがりは仕方なく引き下がってくれた。
さすがはまゆりだ。ダルもそうだが、ふたりとも未来から来た娘を受け入れ、親として接している。覚悟が揺らぎまくりの俺なんかとは違う。
「おじさん。かがりには全てが終わるまでどこかに隠れさせておくべきじゃないか?」
「そうだな。だが、どこかいい場所があるのか?」
隠れるとすればルカ子の家かフェイリスの家か……。
「なんならボクの隠れ家にでも行く?」
ダルがPCからこちらに体を向けた。
「隠れ家?お前、そんなもの持ってるのか?」
「バイト用にいくつかあるんだよ。そこでよければどぞ」
「よし、決まりだ。かがりもそれでいいか?」
「うん。………わかった」
問題は、かがりをひとりにするわけにはいかないことだ。
「あの、私にも何かやらせてもらえませんか?」
「え……?」
玄関からの突然の声に振り返ると、いつの間に来ていたのか、由季さんが立っていた。
「かあ……由季、さん」
鈴羽が危うく母さんと呼びそうになって堪えた。
「橋田さんからここの鍵…預かっていたので……」
申し訳なさそうに手の中の鍵を見せる。
「その……昨夜、橋田さんに連絡したら、なんだか大変そうだったから、差し入れをと思って持ってきたんだけど……」
由季さんは鍵をしまうと、今度は手に提げていたケーキの紙袋を軽く持ち上げて見せた。
「事情はよく分かりませんが、何かできることがあるならと思って……」
「でもさ、阿万音氏を巻き込むわけには……」
20年の先、由季さんは鈴羽を庇って死んでしまう。俺はその未来を知っている。いずれは巻き込むことになる。だからといって今から巻き込んでしまっていいのか、という思いはある。
「…兄さん。大丈夫だよ」
巻き込むことを心配するダルを、鈴羽が諭す。
「鈴羽……」
鈴羽は由季さんを見て頷く。母なら大丈夫、と。
「ああ。かがりと一緒にいてもらうだけだ。問題ないだろう」
かつて、ラボを襲撃したのが由季さんではないかと疑っていた。由季さんというより、扮する別の誰か、という意味でだったが。だがその心配ももうない。ストラトフォーか米軍の誰かであったはずだ。
「じゃあ由季さんはかがりと一緒にいてくれ。全てが終わるまで、ダルの隠れ家に身を潜めてもらうことになるが、構わないか?」
「あ、はい!大丈夫です」
「助かるよ。場所はダルに聞いてくれ。事情は……落ち着いたら、教える」
「わかりました」
由季さんはしっかりと頷いてくれた。
これで全ては整った。
俺はもう一度、ラボにいる全員を見回す。
「じゃあ、みんな。あとは手筈通りに——」
「待ってオカリン!」
そこでまゆりのストップがかかった。
「お別れ……言わなくていいの?“紅莉栖”さんに」
お別れ。
相手は『Amadeus』——人工知能だ。人の手によって造り出された存在であり、あれは紅莉栖本人ではない。
「ちゃんと、お別れして?後悔しないように……」
まゆりが、さっき渡したばかりのスマホを俺に返してきた。
「………そう、だな」