STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「悪いがここで、少し待っていてくれるか?」
まゆりとルカ子を待たせて、俺はアキバブリッジの中央へと向かった。大型の中継モニターにはFESが映っている。
『Amadeus』と接触すれば位置がバレてしまう。そのために、ここを選んだ。
かつて、どうにもならないと悲嘆に暮れていた俺が、初めて紅莉栖に弱音を吐いたあの場所だ。
「…………」
大音量で派手な車体に似つかわしくない軽快なオペラ調の音楽を振りまいている街宣車が通り過ぎるのを待って、俺は『Amadeus』のアイコンをタップした。
『随分と久しぶりね』
彼女はすぐに姿を現した。
「そうだな…」
『私の事なんて忘れたんだと思ってたわ』
忘れるわけがない。忘れられるわけがない。
「いろいろあってな…」
いったい何度目の別れになるのだろう。紅莉栖とは何度も別れを繰り返してきた。それでも決して慣れる事はない。
『それで、今日はどうしたの?』
「君に、訊きたい事があったんだ……」
『なに?またタイムマシンは作れるか、って話?』
「…………」
『冗談。続けて』
「もしも、だ。もしも自分の命と引き換えに、友達の命を救えるとしたら、君ならどうする?」
『………えっと、質問の意図がよくわからないんだが』
「答えてほしい」
俺の言葉や表情から真面目な話だという事が分かったのか、彼女は真剣な表情を見せた。
『………その友達は、大切な人なのよね?』
「ああ……」
『私にはまだやりたい事が沢山あるわ。やらなければならない事もある。でも……それでも、もしもその友人や周りの人が幸せになるというのなら、甘んじて受け入れる………かもしれない』
紅莉栖……。
『ごめんなさい。実際にそんな目に遭った事ないし、想像でしかないから、確実なことは言えないけど……。それでも、ひとりでも私の事を覚えていてくれる人がいるなら……忘れないでいてくれる人がいるなら……』
「っ………!」
こいつは……。
「忘れるものか……」
忘れろと言った。それが自分の望みだから、と。そして、それができないなら、シュタインズゲートを目指せと言った。
『え?』
「俺は決して、忘れない……」
これは誓い。これから幾多の時間を乗り越えていくための誓い。
『岡部……?』
「つまらない事を訊いて、悪かった」
『ううん。それは構わないけど……何かあったの?』
「いや、なんでもないんだ……なんでも」
『……………』
「それじゃあ、また…な」
『待って!』
「え?」
『あ、ううん。なんだか、二度と会えなくなりそうな、そんな気がして……』
「…そんなことはないさ」
『そ、そうよね。私ったら、なんで急にそんな風に思ったんだろう……』
「…会えるさ。必ず」
『うん』
そう、これは永遠の別れじゃない。また……。
だから、さよならは言わない。いつか君に巡り合えるその時まで——。
「また……」
『うん。また、ね……』
紅莉栖。次に会えるのはいつになるか。けれどもきっと…いや、必ず俺はお前に辿り着く。
必ず、シュタインズゲートに辿り着いてやる——。
俺はまゆりとルカ子のところに戻り、スマホを託した。
「……お別れはすんだ?」
「ああ……」
そう答えると、まゆりは満足そうに頷いた。
「それじゃあ頼んだぞ」
「うん」
まゆり達の背中が、駅に向かう人ごみに消えていくのを見守って、俺はラボに向かった。
さっきの街宣車が相変わらず軽快な音楽を流しながら大通りをまた走っていた。