STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
神田にあるその建物には、まだ明かりが灯っていた。
「まさか父さんたちの大学が連中のアジトだとは……」
中に入るのは容易だった。大学とはそういうところだ。簡単に中に入れる。
俺たちは11号館にやってきた。もう一つ、地下がある15号館もあるのだが、11号館が最も新しく、設備も整っている。それに17階まであるため、人の出入りも多い。隠れ家にするにはうってつけだろう。
ストラトフォーの連中も、俺たちを捜しに出ていて手薄になっているはずだ。
地下二階までやって来た。
「おじさん、こっち」
そこで鈴羽が案内をかって出た。
「知っているのか?」
「思い出した。ここなら昔、潜入したことがある。あたしが知ってる建物はもう崩れかけで、外観も変わっていたから分からなかったけど、間違いない」
鈴羽は迷うことなく奥まで歩いていく。小銃を手に足音も立てずしっかりと腰を落として走るその姿は、まさに猫のようだった。素人丸出しの俺がいることが、とても場違いに思えた。
鈴羽はある部屋の前で立ち止まると、俺に頷いて見せた。
この向こうは確か大部屋で、電気室として使われていたはずだ。
「あたしはかがりを救出する。おじさん、自分の身は自分で守る事」
「あ、ああ……」
ベルトの背中に挿してあったグロックを取り出す。ズシリと重い。一応の使い方は教えてもらったが、発砲経験すらない俺に扱えるかは甚だ疑問だった。
「いくよ。3、2、1——」
銃声とともにドアノブが破壊された。それとほぼ同時にドアを蹴破り、部屋へと突入を果たした。流れるような動きだった。その後を追って部屋に駆け込んだ俺は、すぐに異変に気付いた。噎せ返るような鉄の匂い。
血だ。部屋の床にたくさんの血だまりが出来ていた。人間が倒れている。ざっと見て4、5人。もちろん鈴羽がやったんじゃない。俺たちが来る前に既にこうなっていた。
(……どういうことだ?)
じりじりと先を行く鈴羽に従い、俺も部屋の奥へと進む。倒れている人間には日本人もいれば、明らかに外国人と思しき者もいる。部屋にはさらに奥があった。
半開きになった扉の向こうに、大きな体格の男がうつ伏せに倒れていた。
「っ‼」
思わず声を出しそうになったのを、鈴羽が手で押さえた。口を塞いでくれなければ、叫んでいたところだった。
(レスキネン……教授…っ!)
そこに倒れていたのは、レスキネン教授だった。
なぜこんなところにいるのか。裏の顔があったのか。など、様々なことが頭を巡るが、それよりも、知っている人が死んでいるという事実が頭を圧迫する。
「落ち着いて。今は考えるな。それよりも、奥へ進む。いいな?」
その声に俺は頷く。そう、考えるのは後だ。ここは敵の本拠地。悩んでいる暇はない。
半開きの扉から中を確認しつつ、鈴羽は勢いよくドアを完全に開き、構えていた銃を構えた。
「あら。思ったよりも早かったわね、リンタロ」
「……馬鹿なっ!」
俺の名を呼ぶ、その艶のある声。そして外国語の訛り。
「レイエス………教授っ!」
真帆の所属する脳科学研究所の隣。精神生理学研究所に所属する、レイエス教授がそこにいた。
「元気そうでなによりだわ」
「……どうして」
「ちょっと、探し物を返してもらおうかと思って」
レイエス教授はまるでダンスのステップでも踏むかのように、軽やかに身を翻した。その奥。
「かがりっ!」
かがりが、座らされていた。
「どうしたかがり!聞こえないのか⁉」
俺が何度か呼びかけるが、かがりから反応はない。その頭には機械のような妙な器具が被せられている。
「あら、せっかく気持ちよく眠ってるんだから、起こしてあげたら可哀想よ」
レイエスは、初めて会った時のあの陽気な笑みからは想像もつかない、鋭利な笑顔でそう言った。
「気をつけろ!そいつ、軍人だ!」
鈴羽は先ほどから、ずっとレイエスに銃を突き付けている。かがりが機械に繋がれていることにも全く動じていない。だが、一方で、レイエスもそれを気にする様子もなかった。
「軍人?」
天王寺の言葉を思い出す。
かがりを捜していた西側の軍関係。
鈴羽扮するかがりを襲撃した際に、ストラトフォーのような民間の組織。金で雇われた者が簡単に自殺していたこと。あれはストラトフォーではなく、こいつらの仕業だったのか!
「かがりを、返せ!」
鈴羽が静かにそう言った。
「いい顔ね。日本にも、そういう顔を出来る人間がいるなんて、知らなかった。とりあえず銃をこちらに。でないと、シイナ・カガリは死ぬわよ?」
「かがりを殺した瞬間に、あたしがお前を殺す」
「あらそう。ワタシは組織で動いている。ワタシひとりを殺したところで状況は変わらないわよ?」
「…………」
鈴羽はしぶしぶといった様子で銃を足元においた。
「いい子ね。ついでに、そこで両手を頭の後ろに置いて立ってなさい」
鈴羽を従わせると、レイエスは俺に向き直った。