STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「それでリンタロ。交換条件は提示したはずだけど。ちゃんと持ってきてくれたの?」
「…………」
「あらあら、いけない子ね。持ってきていないなら、こちらとしてはシイナ・カガリは渡せないわ」
かがりは眠っていると言っていたが、よくみると瞼は閉じ切っていない。僅かに開いた瞼の奥に見える瞳は虚ろで、理性の光が灯っていないように見える。
「かがりに何をした?」
「残念だけど、まだ何もしていないわ。彼らが使っていた子守唄をちょっと聴かせてあげただけ。でも、あなたが交換条件に応じる気がないみたいだから、これから始めてしまおうかしら」
忽然とした表情を浮かべたまま、銃身でかがりの頬を撫でる。
「紅莉栖のノートPCとハードディスクは特別な場所に隠してある。かがりを渡さないなら、こっちも教えるつもりはない。先にかがりを解放しろ」
「交渉は無駄よ。リンタロ。そっちが渡す気がないなら、こっちはこっちのやり方をさせてもらうわ」
特に凄むでも脅すでもなく、レイエスは日常の会話を繰り広げるように言った。血の色と匂いに包まれた中で。それが余計に気味の悪さを助長している。
「これは、あなたがやったのか?」
倒れている人間を指さしながらそう言うと——。
「ええ、彼らも余計な真似をしなければ、もう少し長生き出来たのに。残念ね」
「どうして、こんなことを…」
「簡単な事よ。ワタシの正体に気付いたから」
「正体……?」
「そこの彼女が言ってたでしょ?」
「軍、か…」
「同時に研究者でもある。DURPA……って言っても、どうせ分からないでしょうけど」
その言葉に、ブルートゥースの小型イヤホン越しに真帆が反応した。
『DURPA……アメリカ国防高度研究計画局?そんな……レイエス教授が……?』
『オカリン……もう少しだけ時間を稼いでくれ』
この状況で時間を稼いでくれ、か。無茶を言ってくれる。だが、これまで散々ダルには無茶を頼んできたんだ。今度は俺があいつの無茶に応えるべきだろう。
「そ、その軍の人間が、どうして……?」
「元々、ワタシの所属するチームは、洗脳(ブレイン・ウォッシング)の研究をしていたのよ」
「洗脳……それじゃあ、かがりは……」
「言っておくけど彼女をこうしたのはワタシじゃない。彼らよ」
レイエスは倒れているストラトフォーの面々を見遣る。
「どうだか。そもそも、なぜ軍の人間が洗脳の研究なんてする必要がある?」
それは聞くまでもない事。だが、ダルがハッキングを完了するまで時間を稼がなければならない。
「決まってるでしょう?思い通りに動く戦士を作るためよ。文句を言う事もなく、死を恐れる事もない。国のために身を捧げる、最強の戦士を作るため……」
「くっ……」
「別に珍しい事じゃないわ。そんなの、100年以上も前から世界中で行われているもの。でもね、洗脳なんて面倒な事をしなくても、最強の戦士を作り上げられると、ワタシたちは気づいたの。それが、AI戦士よ」
「AI戦士…」
言葉だけ聞くと安っぽい響きに聞こえるが、それだけに不気味だ。
「なるほどな……。人工知能を、兵士の頭の中に植え付けるというわけか。そうすれば、一様に高度な頭脳と思考を持つ戦士を大量に生み出すことが出来る」
「へぇ…」
「それに、特殊技能についての記憶を兵士全員にインストールすれば、全員がどんなミッションもこなせる兵士にだってなれる」
「その通り!リンタロ、理解が早いわね。しかも、ゆくゆくは共意識化する事で、より綿密で高度な連携を図れるようにもなる。どう、凄いでしょう?」
レイエスはこの上なく嬉しそうに語る。
「そんなの、許されるわけがない……」
「陳腐な台詞ね」
もしかしたら、煽られて殴りかかるんじゃないかと冷や冷やしたが、鈴羽は冷静だった。
「いい?ワタシたちは世界の治安を守っているの。我が軍があるからこそ、世界の平和は保たれてるのよ。そのための戦士になれるのなら、彼らだって本望のはず……」
勝手な理屈だ。とても納得できるようなものではない。だが——。
「ククククク。面白い。レイエス教授……いや、レイエス。貴様、なかなか面白いじゃないか」
「っ!」
鈴羽が一瞬だけチラリと俺を見た。非難するような視線だったが、何かを言ってくる事はなかった。
「リンタロ…?」
「倫太郎ではない!」
今の俺の役目——それはダルがロックを解除するまでの時間稼ぎ。ならば今は演じよう。精一杯の道化を。
「我が名は、鳳凰院凶真!世界の支配構造を覆し、混沌に陥れる男!」
「…いったいなんの冗談?」
「ククク…この狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真が認めてやろう。貴様、なかなかにマッドだ!」
「ホーオー…なに?」
「鳳凰院凶真だ!岡部倫太郎とは世を欺くための仮の姿!その正体こそこの俺!不死鳥の如く蘇る、マッドサイエンティストだっ!」