STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~   作:明治アル蜜柑

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「鈴羽っ!」

 

レイエスに飛び掛かった鈴羽の身体が、弾かれたようにして倒れる。

 

「そう来ると思ったわ。残念だったわね」

 

レイエスに読まれていた。……打つ手なしか!

 

「やめろっ!」

 

俺が制止するよりも早く、レイエスが——。

 

キーボードを叩いた。

 

「っ———」

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

なん、だ?

 

「…?」

 

レイエスも首を傾げている。

 

「ど、どういう事?どうして反応しないのっ⁉」

 

なぜ、何も起こらない?

 

「まさか、こいつっ!」

 

レイエスは呪詛を吐きながら、何度も何度も乱暴にキーボードを叩いている。システムにトラブルでも起きているのか?

 

「……オカリン……さん」

 

「かがりっ⁉」

 

さっきまで虚ろだったかがりの瞳に、僅かな光が灯っていた。

 

「Bullshit!!」

 

レイエスの気が完全に逸れている今がチャンスだ。

 

「かがり!来いっ‼」

 

「っ……オカリンさん!」

 

俺の呼びかけに覚醒したかがりは、頭の装置を振り払うと、そのまま立ち上がり、数歩走ったところで前のめりにつんのめった。

 

「かがりっ!」

 

駆け寄って来たその身体を受け止める。

 

「っ!」

 

とっさに銃を構えるレイエス。そして銃声。

 

撃たれたかと思ったが、そうではなかった。

 

レイエスの手から弾かれた銃が、床でカラカラと回っていた。

 

「それ以上動くな……!」

 

ゆらりと、鈴羽が立ち上がる。その手には、さっき床に置いた銃が握られている。

 

「鈴羽‼無事だったか!」

 

「なんとかね」

 

肩辺りが血に染まっていたが、致命傷ではないようだった。それでも、常人では到底立ち上がれないような、ましてやその状態で発砲するなど不可能な傷だ。よくあの至近距離からの発砲で無事だったものだ。

 

「形勢逆転だな」

 

銃を突き付けられ、万事休すのレイエス。だが、レイエスは笑みを見せた。

 

「ふふふ。参ったわね。まさか、あなたみたいな子にしてやられるなんて……」

 

レイエスは降参とばかりに肩を竦めた。

 

「でもね、ここで終わるわけにはいかないのよ」

 

「動くなと言っている!」

 

だが、鈴羽の制止の声に怯む事もなく、レイエスは、さっきまでかがりの頭に装着されていたヘッドセットに手を伸ばす。

 

銃を構える鈴羽の手に力がこもる。

 

「ちなみにワタシ。小型の爆弾をポケットの中に持っているの。奥歯をちょっと噛みしめれば、それで起爆するのよ。この至近距離なら、あなたたち3人も巻き込まれちゃうでしょうね」

 

「自爆する気か?」

 

「敵に情報が渡るくらいなら、死を選べと教育されているの。悲しい事にね」

 

「ハッタリだ!」

 

「そう思うのなら、撃てばいい」

 

鈴羽の指に力が加わる。

 

「待て、鈴羽!」

 

鈴羽の狙いは一切ブレない。

 

「今はダルを信じろ!」

 

「っ……!」

 

レイエスは鈴羽を一瞥し、ゆっくりとそのヘッドセットを自らの頭に装着した。

 

「お前……何をするつもりだ……?」

 

「クリス……あなたも彼女じゃなければいいんでしょう……?」

 

「まさかっ!」

 

「言ったでしょう?ここで終われないって」

 

 

眼鏡の奥の瞳には、狂気が宿っていた。

 

こいつは、自分の頭に紅莉栖の記憶を入れるつもりだ。

 

だが、紅莉栖の記憶をインストールしたとしても、すぐにタイムマシンが完成するわけではない。この場にはレイエス一人。その隙に無力化すれば、まだなんとかなるはず。

 

だが——。

 

 

 

(こいつが紅莉栖の記憶をインストールした瞬間に世界線が変わるのか?)

 

 

そうであった場合、記憶を挿入された瞬間に終わってしまう。やはり、それそのものを止めなければならない。

 

「そうよ。簡単な話だったんだわ。わざわざ他人を使わなくても、最初からこうすればよかったのよ。これでワタシはマキセ・クリスの記憶を手に入れられるの!タイムマシンの理論を得る事も出来るの!世界に革新をもたらす存在になれるのよ!」

 

「やめろ……そんな事……」

 

紅莉栖の記憶をそんな事に使うな!

 

もうダメかと思ったその時——。

 

 

 

『っしゃ、キタキタキタ!』

 

(ダル⁉)

 

「アハハハハハハ!今からワタシは時間をも支配できる存在になる!」

 

「ダル!早くファイルを!」

 

『ちょい待ち!今探してる!』

 

レイエスは、硝煙と血の匂いに中てられて、最早正気じゃない。

 

レイエスの手がキーボードに伸びる。

 

「やめろっ!」

 

「大丈夫、心配しなくても、あなたの大切な女の記憶は、ワタシがちゃんと役立ててあげる」

 

『あった!見つけたぞオカリン!』

 

「消せ、ダル!頼む!紅莉栖を——!」

 

間に合え!間に合ってくれ!

 

「あいつを解放してやってくれ!」

 

『オーキードーキー‼』

 

「Come into me, Kurisu」

 

レイエスの指がキーを叩く。

 

「っ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………?」

 

静寂。何も起きない。電話レンジ(仮)のように、光を発する事もなければ、巨大な音を立てるわけでもない。

 

 

 

当然だ。

 

 

 

全てはレイエスの頭の中で起きているのだから。

 

「どう……なったんだ?」

 

レイエスは——。

 

 

キーボードに触れた姿勢のまま、微動だにしていない。

 

記憶はダウンロードされてしまったのか?意を決して様子を見ようと、一歩踏み出したその時——。

 

 

 

パタン、とレイエスは虚脱したように、その場に膝をついた。

 

その顔に光が当たり、ようやく表情が見える。

 

 

そこにあったのは——無、だった。

 

光も闇も、何もない。瞳に浮かぶのは虚ろな空洞。

 

ただ、あの瞬間——キーボードを押すあの瞬間の恍惚とした表情だけが、頬に張り付いていた。

 

 

「オカリンさん……その人は」

 

「早かったんだ……ダルの方が。一瞬だけ……」

 

記憶をダウンロードするよりも僅かに早く、フォルダの中は空っぽになった。空の記憶をダウンロードしたレイエスの頭の中には、もう何も入っていない。これまでの記憶も、自らの歴史も、野望も。

 

あるのは抜け殻だけ。

 

ただ空っぽになった抜け殻だけが、神に祈りを捧げるかのように、そこに跪いていた。

 

『オカリン……?』

 

「ダル……よくやった。終わったよ。何もかも……」

 

俺がそう答えると、イヤホンの向こうからダルと真帆の歓声が聞こえてきた。

 

「行こう。おじさん。いつまでもここにいるのはよくない」

 

「……そうだな。かがり、歩けるか?」

 

「うん……」

 

そこにあるのは転がる屍と生ける躯。

 

『Amadeus』——電脳の匣の向こう側にいた彼女は、もういない。この世から消えてしまった。

 

大切な人の記憶と共に。今はもういない、その人に向かって、俺は小さく呟いた。

 

 

 

 

 

「また会おうな、紅莉栖……」

 

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