STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
次は鳳凰院凶真について、だ。
β世界線は紅莉栖を救えなかったことから始まっていると言っても過言ではない。
2010年8月21日、紅莉栖の救出に失敗した俺は、紅莉栖を救うこと…シュタインズゲートを目指すことを諦めた。その日、鳳凰院凶真は死んでしまった。
鳳凰院凶真がいかなる存在か、という疑問が湧くだろう。これは断じて俺の第二人格、重度の厨二病患者の話をしているのではない。そうだな、絶対に紅莉栖を救おうとする意志、とでも言い換えようか。
2011年の2月時点で、俺は復活した。絶対に紅莉栖を救ってやるという強い意志を持っている。だが、それではまだ足りないのだ。
2010年7月28日。紅莉栖が殺された…いや、俺が殺してしまったあの日。その少し前に俺はムービーメールを受信していた。
それは2025年の俺からのDメール。鈴羽によればそこには紅莉栖を救うための方法が記されていたらしい。そのメールは今でも俺のケータイに残っているが、ノイズまみれで見ることができない。
それと鳳凰院凶真に何が関係あるのかと思うだろう。だが、俺は密接な関係があると考えている。
β世界線において、どの世界線でも2025年にこのムービーメールを送ることは確定しているはずだ。技術的な問題で見れないとは考えられないから、これを見れないのには理由があるはず。その理由こそが、鳳凰院凶真の生死、というわけだ。
もちろん、中鉢論文以外の紅莉栖の遺産を処分できているということが前提となる。だが、それで言えばこの世界線では紅莉栖の遺産問題は解決済みだ。レイエスとやり合った後も世界線が変わらないことを鑑みると、この世界線では紅莉栖の遺産問題が解決されることは確定していると言える。
それなのに、俺はムービーメールを見ることができないでいる。
それはなぜか?この世界線では鳳凰院凶真が一度死んでしまうことが確定しているからだ。
鳳凰院凶真が生きていることが二度目の紅莉栖救出に繋がる鍵であるなら、鳳凰院凶真が死んでしまうこの世界線では二度目の救出は発生しないということになる。紅莉栖を救うことを諦めた以上、ムービーメールは見れなくなってしまうというわけだ。
「でもおじさんは…鳳凰院凶真は復活したよ?」
確かにそうだ。だが、それは関係がない。
「確かに俺は蘇った。だが、それはこの世界線の確定事項ではなく、偶然起こった出来事だとも言える。いや、そうではないな。一度でも鳳凰院凶真が死んでしまうことが問題なんだ」
「では、鳳凰院凶真が一度も死ぬことのない世界線に移動しなければならないということね?」
「その通りだ。それについては今から話す」
俺がβ世界線に戻ってきてから、最初に世界線変動を経験したのは2010年12月15日のことだった。その日は『Amadeus』のテスターの報告会があった。それがうまく行くように、俺は柳林神社で願掛けをしていたんだ。そして“紅莉栖”と話していた。
「何を話していたの?」
恥ずかしい話だが、俺が紅莉栖のことをクリスティーナと呼ぶ理由についてだった。色々と話したところで、俺は“紅莉栖”と話していることが怖くなったんだ。紅莉栖は既にこの世にいない。目の前にいるのはそれを模したAIなのに、俺は紅莉栖本人と話していると錯覚してしまっていたんだ。それが怖くなって、俺は途中で通話を切り、スマホの電源を切った。
その後、俺は報告会に行くために移動していたんだ。陸橋の上で少し休憩していたときに、前からフブキとカエデがやってきた。
二人は俺の顔色が悪いのを気にかけてくれていた。そこでフブキに聞かれたんだ。『オカリンさんの好きな人って、誰ですか?』とな。
その瞬間に世界線が変動した。
「…世界線が変動する理由が見えないわね」
「変動前後で何か変化はあったん?」
状況はほとんど一緒だった。フブキとカエデも目の前にいたし、気分が悪いのも変わっていなかった。ただ、一つ変わっていたのが、オフにしたはずのスマホの電源がオンになっていたことだった。
「スマホの電源が…ニャ?」
「オカリンが入れ直しただけと違うん?」
いや、俺は断じて電源を入れていない。
「……………」
俺は状況を確かめるために“紅莉栖”と通話したんだ。さっき突然電話を切ったことで怒ってはいないかと確認したところ、少し前に俺が謝罪をしたと“紅莉栖”は言った。もちろん俺はそんなことをしていない。だが、世界はそんな風に変化した。
「オフにしていたはずのスマホがオンになっている……『Amadeus』の牧瀬紅莉栖との会話内容も変わった…」
鈴羽が顎に手を当てて考えこむ。
「それってさ、そのタイミングで本来はDメールを受信するはずだったんじゃないかな?」
「え、鈴羽。それってどういうことなん?」
「そのタイミングでDメールを受信することが確定していた。それなのにおじさんが電源を切ったことで、受信するはずだったDメールを受信できなくなってしまった。本来起こるはずだった事象が起こらなくなったことで世界線が変動した…とか」
流石は鈴羽だ。俺が考えていたことと同じ結論に至っている。
「ちょっと待って。それっておかしくないかしら?Dメールの送信は本来あるはずのない、過去を変える因果律に反した行動でしょう?それを受信することが確定するなんてことがあり得るのかしら?」
「それはありえる。真帆が言っているのはDメールを送信する側の視点だ。だが、Dメールを受信する側の視点に立った場合、見え方が変わってくる」
「受信側の視点…」
「真帆が一週間前の自分にDメールを送ったとする。送った側の真帆からすれば、Dメールを送ったことで過去の真帆の行動が変わり、送った瞬間に世界線が変動することになる。もちろんDメールを送るなんていう行動は、その世界線では規定されていない行動だ。だが、Dメールが送られた瞬間、それを受信する側の世界線がアクティブになる。つまり、受信する側の視点に立てば、そのタイミングでDメールを受信することが決まっていたということになるはずだ」
俺の説明を聞いて、真帆は首を傾げた後に頷いた。どうやら理解してもらえたらしい。
「今の話が正しいとして、やはりどうして世界線が変動したのかが分からないわ。Dメールを受信しなかったことで、誰の行動がどう変わったのか……いえ、どう変わらなかったのか」
「それについては俺も答えが出ていない。だが、そのDメールにこそシュタインズゲート到達の鍵があると見た」
「そのDメールを受信した世界線に行ければ、凶真が死んでしまうことがなくなるってことニャ?」
「でも、鳳凰院凶真が死んでしまうのは2010年の8月21日。そのDメールを受信するのは12月15日。受信して、その場で鳳凰院凶真が復活したとしても、既に一度死んでしまっていることには変わりないわ」
「真帆の言う通りだ。だが、可能性があるのなら試してみるべきだ。少なくともこの世界線は本来の流れから派生してしまった世界線だ。ならば元に戻してみるのも一つの手だと俺は思う」
元の世界線に戻ることが正しい選択かどうかは分からない。だが、もし間違いだったとしても、もう一度やり直せばいいだけの話だ。偶然かもしれないが、俺はこうして再び鳳凰院凶真の魂をこの身に宿すことができたのだ。ならば別の世界線の俺だって、やり遂げられるはずだ。
「俺はこういう方針で準備を進めたいと考えている。何か意見があれば言ってくれ」
それから俺たちはいろいろと話し合った。
その中で出たいくつかの会話を記しておこうと思う。