STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~   作:明治アル蜜柑

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それは鈴羽が言い出したことだった。

 

「そう言えばおじさん。ひとつ謝っておかなきゃいけないことがあるんだ」

 

とても言い出しにくそうに鈴羽が切り出した。

 

「…どうしたんだ?」

 

「これまでに言ってなかったことがあるんだよね…」

 

「言ってなかったこと?」

 

「IBN5100のこと、なんだけどさ…」

 

これまた予想していなかったワードだった。

 

「1975年に行って確保した、というやつだな。確か2000年問題を解決するために必要だったという話だったか」

 

α世界線ではSERNが集めたIBN5100を使って解決していたそうだが、このβ世界線ではジョン・タイターこと阿万音鈴羽が解決していたのだ。歴史の偉人を目の当たりにしているような感覚。これって実はすごいことではないのか?

 

「鈴羽が2000年問題を解決したのち、ラボに届けてくれたんだろ?α世界線から戻って来たばかりだったから、俺は知らないんだが、俺が柳林神社に奉納されていたIBN5100を譲り受けたと、ダルが言っていたぞ」

 

このβ世界線においても、俺たちはIBN5100を使ってSERNにクラッキングを仕掛けている。それは歴史のつじつまあわせ、というやつだ。

 

α世界線で2010年8月17日にSERNのサーバーにクラッキングを仕掛け、最初のDメールを削除した。それによって俺はβ世界線へと戻って来た。ならば、β世界線ではDメールを送らなかったのか、エシュロンによって捕捉されなかったのかと言えば、それは否だ。β世界線でも俺はダルにDメールを送っている。

 

そしてエシュロンに捕捉されている。だが、SERNが最初のDメールを発見するよりも前に、俺たちがクラッキングをして削除したのだ。αでDメールを削除した以上、β世界線がアクティブになることは確定している。

 

Dメールを送ったにもかかわらず、α世界線へと移動しないのはそれが理由だ。

 

「それで、そのIBN5100がどうしたんだ?」

 

「えっとさ……実は2000年問題って、解決できてないんだよね…」

 

「………なに!?」

 

言葉の意味が理解できなかった。

 

「1998年にかがりが“神様の声”を聞いて、いなくなっちゃったって言ったと思うけどさ。実はそのときにかがりに邪魔されて修正プログラムをネットワーク上に流出させられなかったんだ」

 

「そ、そうだったのか……」

 

だが、ここで一つ疑問が生まれた。

 

「鈴羽はIBN5100をタイムマシンの中に隠し持っているんだよな?」

 

「うん。そうだよ」

 

この世界線の話ではないが、かがりの中から紅莉栖の記憶を消した際、SERNにハッキングをするために鈴羽が持っていたIBN5100を使った。あのときはかがりのことで精一杯で、疑問に思う余裕もなかったが、今思えばおかしい。

 

「お前はそれを柳林神社に奉納した、という記憶はあるか?」

 

「柳林神社?それってるかにいさんのところでしょ?あたしは奉納なんてしてないよ」

 

「む……」

 

俺は2010年8月17日にβ世界線にやって来て、三日が経った頃に電話レンジ(仮)と共にラボにあったIBN5100を破棄した。鈴羽がこの時代にやって来たのは2010年8月21日。

 

「おじさん?どうかしたの?」

 

「いや、お前が柳林神社にIBN5100を奉納していないのならば、俺は何故IBN5100を手に入れることができたんだ?」

 

俺はてっきり、鈴羽が幸高さん——フェイリスの父親に託して、柳林神社に奉納されたのだと思っていたのだが。

 

「それはたぶん、α世界線からのつじつまあわせだと思う。IBN5100を使ってSERNにクラッキングをしたことでβ世界線がアクティブになったのなら、β世界線でも同じことが起きていないと因果が矛盾してしまうはず。だからラボにはIBN5100があったんだと思う」

 

「……どういう経緯でラボに届いたんだ?俺は柳林神社で入手したらしいが」

 

「おじさんが入手する経路は変わってないんじゃないかな。ルミねえさんの父親がIBN5100を入手して、柳林神社に奉納した。それをおじさんが譲り受けたって流れだと思う」

 

考えてみれば、β世界線のタイムマシンは未来方向にも跳ぶことができる。α世界線の鈴羽は1975年から孤独な生活を余儀なくされ、その中で大学教授として幸高さんと知り合った。だが、β世界線の鈴羽は大学教授にもなっていなければ、幸高さんと出会うこともなかった。彼に頼んで神社に奉納させる、というのは無意味だ。タイムマシンに載せて直接持ってくればいいだけの話なんだから。

 

「それならどうして幸高さんは柳林神社にIBN5100を奉納するんだ?神社に奉納する理由がないはずだ」

 

「おそらく、SERNが原因じゃないかな」

 

「SERN…」

 

「このβ世界線では、SERNはタイムマシンを完成させられていない。でも、タイムマシンの開発自体はしている。IBN5100の独自言語で疑似的なスタンドアロンサーバーを構築していることからも、それは確かだ」

 

「秘密が漏れないように、IBN5100を集めているというのはβでも同様、ということか…」

 

「α世界線では未来から指示を出して、1975年時点からIBN5100を徹底的に回収させていたらしいけど、β世界線ではそこまではできない。容易に過去に干渉できないからね。でも……」

 

「幸高さんはSERNに標的にされてしまった。だから目を誤魔化すために、柳林神社に奉納した…と」

 

β世界線においても、幸高さんは亡くなっている。間違いなく、SERNによって消されてしまったのだ。それが俺たちにIBN5100を託すためだと考えると、胸が締め付けられる思いだ。

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