STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~   作:明治アル蜜柑

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『あのぉ、先輩?ちょっと』

 

と、“紅莉栖”が突然、なんとも人間らしい動きでモニターの中から真帆に手招きした。

 

「ん?なぁに?」

 

『もうちょっとこっち。スピーカーに寄ってください』

 

首を傾げながら、真帆がスピーカーに耳を寄せる。なんだか妙な光景だ。そんなことを思っていると——。

 

「はぁっ⁉」

 

真帆がいきなり真っ赤になり、カメラに向かって噛みつきだした。

 

「そんなわけないでしょうっ。何を言ってるのあなたっ!」

 

『そんなに照れなくても…』

 

「照れてるわけじゃないわ。とにかく、おかしなことを言うのはやめて」

 

『そうですか?』

 

「そうです!」

 

「えっと……いったい何の話を?」

 

真帆は俺をチラリと見る。

 

「……………」

 

それからなぜか、顔をほてらせてそっぽを向いてしまった。

 

あ~、なるほどな。

 

「このスイーツ(笑)め……」

 

かつて紅莉栖に向けてよく使った言葉をつぶやくと、気持ちがすうっと楽になった。おおかた、真帆に対しても、お似合いじゃないですか、とか、先輩にもついに春が来ましたね、とか。そんなくだらないこと言ったに違いない。

 

男女が一緒にいて、少しでも親しげに話していれば、なんでもかんでも付き合っていると考えてしまう。スイーツ(笑)の道をまっしぐらに突き進んでいた紅莉栖そのものだった。

 

全く、なんてシステムだ。そんなところまで再現してしまうとは。もしかしてこいつは、真帆や教授に隠れて@ちゃんねるにアクセスしていたりするんだろうか。

 

『す、スイーツ(笑)?どどど、どうして急に甘いものの話が出て来るんですか?』

 

あ、こいつ。誤魔化したな。

 

「こんなくだらない話は終わりにしましょう。岡部さんだって、ここにこんな話をしに来たわけじゃないわ」

 

『そうやって誤魔化すところが、ますます怪しいですね』

 

「ウイルスをぶち込むわよ」

 

『嘘です。もう言いません』

 

“紅莉栖”が頭を下げた。おそらく、生前の紅莉栖と真帆もこんな感じのやりとりを毎日のように繰り広げていたのだろう。レスキネン教授は見ていて飽きなかっただろうな。

 

「お騒がせしてごめんなさい。岡部さん。彼女と何か話してみる?」

 

「あ、ああ…」

 

促されてPCの前の椅子に座る。

 

正面のモニターに紅莉栖の顔。目が合うと、かすかに微笑んできた。初対面なのに、ここまで愛想のいい奴だっただろうか。だが、そもそも俺との出会いが最悪だったわけで、あれほどツンケンしている方が異常だったのかもしれないな。

 

『どんなことでも訊いて下さい。可能な範囲でお答えしますから』

 

「そう、だな——」

 

何から話すべきか。悩んだ挙句、出てきたのは——。

 

「タイムマシンは、作れるだろうか?」

 

かつて、α世界線で初めて、紅莉栖と意見を戦わせたのがこのテーマだった。あのときは俺が、一方的に打ちのめされただけだったが。

 

『はい?』

 

「え?」

 

『タイムマシン…ですか?』

 

「何の話を始めるのかと思ったら、タイムマシン?」

 

いきなり過ぎたか…?

 

「た、ただのテストだよ。思考実験ができるのかっていう…」

 

「ふぅん…。で、どう?“紅莉栖”」

 

『そうですね。結論から言ってしまうと、タイムマシンは可能ではない——けれど、不可能とまでは言い切れない、といったところでしょうか』

 

「…………」

 

言っていることが違う。

 

かつてあいつはこう言った。

 

 

『最初に結論を言ってしまうと、タイムマシンなんていうのはバカらしい代物だということです』

 

 

その言葉をはっきりと覚えている。

 

「……俺はタイムマシンなんて、バカらしい代物だと思うけどな」

 

かつての討論を思い出しながら、紅莉栖自身が言った言葉をぶつけてみる。

 

『ふふ。そう決めつけるのは早計ですよ』

 

「そうかな。確かに世界中の科学者がタイムトラベル理論を提唱している。主な理論だけで11あるが…。どれも仮説の域を出ない。しかも、理論同士が矛盾し、否定し合っているものまである」

 

いくつかの理論を取り上げて、否定をしてみた。だが、彼女は動じなかった。

 

『それは、科学者がまだ重大な何かを発見できていないからでしょうね』

 

「それじゃあ君は、タイムマシンをいつか作れると思っているのか?」

 

『不可能とまでは言い切れない。そういいましたよ?』

 

「………」

 

やはり微妙に見解が異なっている。

 

「なあ、比屋定さん。彼女は、自分がオリジナルの記憶から派生した存在だという事を認識しているんだよな」

 

「もちろん」

 

「じゃあ、えっと……うまい例が思いつかないんだが。一卵性双生児みたいなことはあるのか?生まれた時は見分けがつかない。だが、育つにつれて差異が出てくる……とか、そういうこと」

 

「それについてはまだ検証中だけれど……蓄積されていく記憶が異なれば、当然、元の人間とは違うモノになっていくと思うわ。私と教授はそう考えている」

 

「そっか…」

 

パタン、というドアの音がパーテーションの外で聞こえた。

 

「ん?教授かしら?」

 

『あの大きな足音はそうじゃないでしょうか?』

 

確かに、室内を歩き回る派手な音が聞こえる。そして、ドンドンドンという大きなノックとともに、ブースの扉が豪快に開いた。

 

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