STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「かがりの話に戻るけどさ。シュタインズゲート到達を阻止したいかがりからすれば、そんなことはさせたくないよね。それに、まゆねえさんが帰って来れるかも分からないタイムトラベルをするなんて、かがりには許せないはず」
「だからかがりの行動が変わって、世界線が変動した…と」
フブキとの会話が続いてしまうことでかがりの行動が変化してしまうということだ。
「つまり、Dメールの内容は何でもよかった、ということか?」
俺の質問に鈴羽は頷いた。
「Dメールが送られてくるなんて、未来で何かがあったに違いないっておじさんは思うはず。そもそも顔色が悪かったって話だったけど、Dメールを見たおじさんは、見ていられないくらい慌てるんじゃない?」
「そうなればフブキと話をしているどころではなくなってしまう…」
「結果として誰が好きなのか、なんて質問に答えることもなくなる」
「さっきの話に沿って考えれば、俺が紅莉栖を助けたいと思っていることがまゆりに伝わらず、まゆりがタイムトラベルをしようと決意しない。もしくはそれを決意するタイミングが遅れることになる。そしてかがりがそれを阻止しようと動くこともなくなる」
「かがりの行動が変わらないから世界線が変動しない。………まぁ、何の根拠もない話なんだけどさ」
鈴羽はそう言ったが、十分に考える価値のある仮説だ。その前提に立てば、かがりの行動も予想できるようになるだろう。
「Dメールで送る内容も含め、皆で話し合ってみるべきだな」
ストラトフォーによるかがりの洗脳と過去のレスキネンへの接触。変動前の世界線ではかがりが自分の意志を持って行動していること。それらの仮説は全員の間で共有している。
本当にそうなのかを確かめる術はないが、用心するにこしたことはない、というのが全員の意見だった。
「それらを踏まえたうえで、Dメールンで送る内容をどうするべきだろうか」
電話レンジについてはもうほとんど完成している。さすがはダルと真帆だ。専門家が二人もいれば簡単に作れてしまった。俺は紅莉栖からの受け売りの知識を我が物顔で披露するくらいしかできることがなかった。…まぁそれで構わんが。
エシュロンに捕捉される問題については、ダルが奮闘してくれている。SERNに知られることなくDメールを送ることができるようになるのも時間の問題。残るは送る内容だ。
「目的はDメールを受け取ったオカリンを青ざめさせることなんっしょ?分かりやすくビビらせられるような内容が良いと思われ」
確かにそれはそうだ。フブキの質問に答えさせないことが目的だ。俺の行動を変えることではない。だから内容はなんでもいいと言えば何でもいいのだ。
「あたしたちで話し合った内容を、ムービーにして送るべきなんじゃない?かがりが洗脳されてしまうことやストラトフォーが敵であることとか」
それも一つの手ではある。2010年12月15日の俺はまだ何も知らない。こと細かく説明することで、敵を出し抜けるようになる可能性は高い。
『…でもそれって危険もあるんじゃないかしら』
発言したのは画面越しの真帆だ。真帆はまだアメリカにいる。レスキネン………ストラトフォーのことを調べてくれているのだ。
「危険、というと?」
『まだ何も知らないオカリンさんに、必要以上の情報を与えてしまうと、その後の行動が予想できなくなってしまうのではないかしら。かがりさんの状況やストラトフォーについては説明しておきたいけど、12月15日時点ではオカリンさんはまだかがりさんと出会っていないんでしょう?』
「なるほどな…」
あの頃の俺は、世界線をいたずらに変えることを嫌っていた。未来から詳細な情報が送られてくることで、必要以上にパニックに陥ってしまう可能性がある。
『パニックになるだけならまだしも、未来からの情報が第三者に漏れてしまった場合が最も危険だわ。その時は『Amadeus』のテスター報告会の日だったわけだし。レスキネンはともかく、“紅莉栖”にうっかり話してしまいかねない』
“紅莉栖”に話してしまう可能性はあるだろうな。
「じゃあほんとにオカリンを驚かせるだけで特に意味はない文面にしなきゃダメってことっすな。何がいいんかな…」
詳しいことは言えない。でも、俺を驚かせるだけの無意味なものにしてしまうのももったいない。この世界線の全てを託すことになるDメールなのだ。向こうの俺に何かは伝えたい。
あの時の俺は、全てを諦めてしまっていた。そんな俺を勇気づけられるような何か…。
「そう言えば、オカリンおじさんはこの世界線の2036年で目覚めたんだよね?」
鈴羽が思い出したように言う。
「そうだな。2011年の1月末にデータ化した俺の記憶を、拷問を受けて精神がボロボロになった俺の脳に書き戻すことで俺は復活した。まぁそこに入ったのはそのデータではなく、別の世界線の俺だったんだが」
それが何か関係あるのだろうか。
「それを聞いたとき、あたしすごいびっくりしたんだよね。2025年にはオカリンおじさんはもう亡くなってた。未来では父さんにもそれが収束だって聞かされてたし。でも、そんなに簡単に収束から逃れられるんだと思ってさ」
「………それだっ!」
急に叫んだ俺に皆がビクッと反応した。
「ちょっ…急になんだおオカリン。はぁ…びっくりしたぁ」
「オカリンおじさん?」
すっかり忘れていた。そう。2025年の死亡収束。かつて鈴羽に聞かされたそれ。未来のダルたちが言っているからと、疑うことさえしなかった。
絶対的だと考えていた死。覆すことのできないものだと考えていた死。
だが、世界は簡単に騙された。
死とは曖昧なものだった。心臓が鼓動を止めてしまえば、その死は絶対的なものになる。だが、誰にも絶対に見つからない場所で、何年にも渡って潜んでいれば?世間には俺が死んだように見せ続けていれば?
俺という存在は死んでいることに他ならない。だが本当は生きている。
たったそれだけのことで、世界を騙すことができる。
「俺は2025年に死んでいるはずだった。だが、2036年になっても俺は生きていた。まさに死の偽装。世界を騙したんだ!」
2025年時点の俺の言葉。
シュタインズゲート世界線への道は険しい。一度や二度、やり直したところで、辿りつける道ではないだろう。
けれど、まずはそこから始めることが、運命石の扉へとつながるんじゃないか。
いくつもの未来の先が、過去へと繋がっているんじゃないか。
世界は騙せる。
それを伝えることができれば、俺にとって勇気になる。希望になるはずだ。
すぐにシュタインズゲートに到達することはできずとも、可能性を繋ぐことができる。
「世界を騙せ、可能性を繋げ、世界は欺ける」
何のことかは分からないだろう。だが、向こうの俺が立ち上がり、鳳凰院凶真が復活したとき。この言葉が支えになってくれるはずだ。
「これでいこう。向こうの俺を奮い立たせてやろう!」