STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
(1)
「岡部……さん?」
「…いいな?」
さようなら。
「うん…」
紅莉栖——。
「おじさん、来た!」
「ダル!」
「了解!」
階段を上がって来る足音。
そして、携帯の着信音。
「あのね、岡部さん……私、たぶん、岡部さんのこと……」
画面に表示される、応答と拒否のボタン。
「あなたのこと…」
それが紅莉栖の言葉だったのか、かがりの言葉だったのか——。
分からないまま、続きはドアの音や怒号に掻き消され。
俺は——。
迷ってしまった。
それに、応答する事に躊躇し、あまつさえ、拒否する方のボタンをタップしようとした。だが、そこでかがりの指が俺の指を遮り。
代わりにかがりの指が——あるいは紅莉栖の意志が——応答のボタンをタップした。
そしてかがりの頬に押し当てられたスマホは、鳴動を止めた。
世界線変動率
1.053649 → 1.064756
β世界線
2011年1月15日(土)
世界線が変動した。変動後も俺はラボに居た。俺以外には誰も居らず、俺は疲れのあまり眠ってしまった。
そして夜が明けて、昼過ぎ。まゆりに起こされた。
ラボに居たのは俺とまゆりとダル。そしてもうすぐかがりがやって来るのだと言われた。
かがりを呼び出したのは俺だそうで、かがりの記憶をいかにして取り戻させるか、会議をする予定だったのだという。
この世界線では、かがりは全ての記憶を失っていた。未来のことは覚えていたのに、記憶を上書きしたことで、それさえも忘れてしまったのだ。俺はダルを外に連れ出し、問いただした。
「今のかがりは記憶がないのか?」
「そうだよ。つか、何度も言ってるっしょ、それ」
「……俺は昨日の晩——0時を超えていたから今日だが——世界線を移動してきたんだ」
「…マジ?」
「前の世界線では、かがりは10歳までの記憶——未来のことは覚えていたんだ。だが、今のかがりにはその記憶もないんだな?」
「な、ないよ…覚えてるのは最近のことだけ。未来のことも覚えてないから、まゆ氏にもかがりたんの正体を教えてない」
「……かがりの中に紅莉栖の記憶がある、ということもないんだな?」
「なにそれ?そのSF設定こわい」
「前の世界線では、かがりの中に紅莉栖の記憶が植え付けられていたんだ。それが原因で、かがりは人格崩壊を起こしかけていた」
「…………」
「だから俺たちは比屋定さんとともに、記憶の上書き装置を作ったんだ。タイムリープマシンの応用という形で」
「真帆たんにも打ち明けたん?」
「ああ。記憶の書き戻しをするのに、彼女の協力がないと無理だったからな…」
「少なくとも、かがりたんの中に牧瀬氏の記憶があるなんて話は聞いてないし、そんなことをした記憶もないお。真帆たんにも何も打ち明けてないし」
「そうか……」