STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
変動前後で、かがりの状況があまりにも変わっている。というよりも、俺がα世界線に飛ばされる以前に戻った、という感じだ。
だが、全く同じというわけではないだろう。α世界線と、一つ前の世界線を経由してきたことで、多少は変わっているはずだ。
「そういえば、1月1日はどうだったんだ?」
α世界線に行く前、その日にラボは襲撃を受けた。おそらくレイエスによる仕業だと考えているが、答えは出ていない。ストラトフォーがバックにいる、ということまでは確定しているが。
「んあ?その日は良く分からない奴らにラボが襲撃されたんだ。目的はかがりたん、って感じだった」
「っ!」
やはり襲撃はあった。ということは、以前の世界線に戻っている、ということか?
「その後はどうなったんだ?」
前の世界線では、その翌日に、俺は萌郁と接触して、左腕の怪我の有無を確かめた。ライダースーツの女が萌郁である可能性を否定できなかったからだ。
だが、萌郁ではなかったため、次に天王寺に話をしにいったんだ。ラウンダーであることを突き付け、タイムマシンのことを全て話してしまった。それがきっかけでα世界線に飛ばされたわけだが。
「真帆たんが『Amadeus』が乗っ取られたって言ってたんだよね。そんで次の日、ブラウン管工房の店長さんから、昨日の襲撃は何だったんだって問い詰められてたけど、オカリンは分からないって言って答えなかった。さすがにブラウン氏も諦めたみたいで、帰ってったけど…」
『Amadeus』の乗っ取りがあったのも変わっていない。そして俺は天王寺に何も話さなかった。だからα世界線に飛ばされることもなかったのだろう。だが、それでは、SERNが『Amadeus』に目を付けるきっかけがなくなってしまう。
(『Amadeus』を乗っ取ったのは、SERNじゃない、のか?)
そこまで考えて、俺はあることに気付いた。
ポケットからスマホを取り出し、ロックを解除する。
ホーム画面を呼び出す。
「…ないっ!」
「え?何が?」
スマホから、『Amadeus』のアイコンがなくなっている。以前の世界線に戻ったのなら、『Amadeus』は復活しているはずだ。
かがりの記憶の有無について、『Amadeus』が関係しているのは間違いない。
最初、かがりに全ての記憶がなかったのは、かがりから全ての記憶を消した上で、紅莉栖の記憶をいれようとしたからであるはずだ。だが、記憶を消去したところで、かがりには逃げられてしまった。
そして、次の世界線では、『Amadeus』が凍結されてしまった事により、かがりの記憶の消去を完全には行えなかった。記憶の移植が前倒しになったことで、かがりと紅莉栖。ふたりの記憶が混在する形になった。
かがりから紅莉栖の記憶を取り除いたことでアクティブになったこの世界線では、『Amadeus』が存在していないとおかしい。そうでなければ、かがりの中に紅莉栖の記憶があることになってしまうはずだ。
「すまん。ちょっと待ってくれ」
俺はそのまま真帆に電話した。
いくつかのコールの後、真帆が電話に出た。
『岡部さん……どうしたの?』
機嫌が悪いのを隠そうともしていない、寝起きだと分かる掠れた声だった。
「比屋定さん。寝ていたところ悪いが、『Amadeus』はどうなった?」
いきなり、『Amadeus』は存在しているのか、と聞くのも憚られた。怪しまれてしまいそうだからだ。
『えっと…『Amadeus』?この間話したでしょう?お正月に何者かに乗っ取られたって。一応問題は解決したけど、まだ復旧の目途が立っていないの。だから岡部さんにも、一度アプリをアンインストールしてもらったじゃない…』
やはり乗っ取りはあった。だが、『Amadeus』は凍結されていなかった。メンテナンスのために、俺のスマホから一時的になくなっていただけだったのだ。
「忙しいのにすまなかった。大変だと思うが復旧、頑張ってくれ」
『ええ……。そう言えば、かがりさんの記憶はどうなの?今日、話し合いをするって言っていたけど…』
「それについては今からだ。また何か進展があったら報告するよ」
それだけ言って俺は通話を終えた。
『Amadeus』はある。
つまり、かがりの中に紅莉栖の記憶はない。それが確認できて、俺は安心した。
「悪いなダル」
「それはいいけど、大丈夫だったん?」
「ああ。知りたかったことはだいたい確認できた」
だが、まだ疑問は残っている。
俺は天王寺に何も話していないのに、『Amadeus』は乗っ取られた。それはつまり、乗っ取った犯人が、SERNではないということだ。残されているのは、ストラトフォー。奴らが『Amadeus』に手を出した、ということだ。
だが、真帆たちは『Amadeus』を取り返した。かがりに紅莉栖の記憶を移植するためには『Amadeus』は絶対に必要だ。連中が『Amadeus』を手に入れられなかったということは、かがりに紅莉栖の記憶が植え付けられる心配もなくなった、ということだろう。
少し楽観的過ぎるかもしれないが、ひとまずは安心していいはずだ。
「それとダル。最後に聞いておきたいんだが」
「なんでもどぞ」
「1月1日のラボ襲撃以来、かがりが何者かに狙われる、ということは無かったか?」
「え、うん。それはなかったお。その代わりに、真帆たんのオフィスとホテルが狙われたんだけど」
「……紅莉栖のノートPCとハードディスクが目的か?」
「うん。真帆たんもそう言ってた。『Amadeus』の軍事転用を狙う産業スパイの仕業じゃないかって」
この世界線では真帆にはこちらの事情を打ち明けていない。紅莉栖の遺産を狙う理由をそういう風に誤解するのも当然だ。
「それは今どこにある?」
「パスワードの解析をしてほしいって言われてボクが預かってるお」
「…その中身は間違いなく、タイムマシン論文が入ってる」
「え、マジなん?」
「前の世界線でも狙われたんだ。ロックこそ解除できていないが、それが入っていることは間違いない」
タイムマシン論文についても、俺たちで確保できている。いつしかけてくるのか、油断はできないが、かがりの安全もある程度は確保できていると考えていいだろう。
「そろそろかがりが来るな。すまん。中に戻ろう」