STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~   作:明治アル蜜柑

157 / 303
(3)

部屋に戻ると、かすかにまゆりの声が聞こえてきた。

 

「さ~が~し~もの ひとつ~」

「ほ~し~の~わらうこえ~」

「か~ぜ~に~またたいて~」

「てをのば~せ~ば つかめるよ~」

 

まゆりは戻って来た俺たちに気付かず、テーブルに広げていた教科書などをバッグにしまいこんでいた。それをしながら、歌らしきものを口ずさんでいる。

 

というか、まゆり、歌がうまくなっていないか?

 

昔からこいつはめちゃくちゃ歌が下手だった。おばさんも矯正しようと歌の練習をさせていたが、すぐに無理だと分かって断念したはずだ。

 

「お前、歌うまくなったな」

 

「え?」

 

声をかけると、まゆりがようやく俺たちに気付いた。

 

「あ、おかえり~」

 

「まゆ氏の美声には癒されますなぁ」

 

ダルが調子よくそんなことを言う。

 

「えへへ~。昔、お母さんとオカリンに特訓してもらったんだ~。まゆしぃ、お歌へただったから」

 

やはり練習したのか。世界線が変わったことで、歌がうまくなった?去年の夏にβ世界線に戻ってきてからも、なんどかこいつの歌は聞いたが、下手だった記憶がある。

 

「ところで、それ、なんの歌だ?」

 

「えっと…」

 

考え込むと、まゆりは再び歌い出した。

 

聴いたことのある歌、のような気がする。どこで聴いたか、いつ聴いたかは覚えていないが。すると、玄関の方で何かが落ちる音がした。

 

「……⁉」

 

いつの間にか、かがりが玄関に立っていた。驚いた表情で、口をパクパクさせている。足元には彼女のバッグが転がっている。部屋に入るなり、何かに驚いて落としたようだ。

 

「あ、かがりさん。トゥットゥルー♪」

 

「そ、そ……!」

 

「そ?」

 

「その歌……私、知ってる!」

 

「ええっ⁉」

 

「そうなのか⁉」

 

「そ、その歌は……?」

 

かがりは震えながらまゆりを指さそうとして——。

 

「その……歌…」

 

糸の切れた操り人形のように、床に倒れた。

 

「かがりさん!」

 

「かがり!」

 

 

 

 

俺は台所でタオルを濡らしてくると、ソファに横たわっているかがりの額に乗せた。少しだけ表情が安らかになった気がする。ただ、まだ意識は戻って来ない。

 

「大丈夫かな…?」

 

「どう、だろうな」

 

ここにやって来るなり、いきなり倒れたのが5分ほど前

 

「つーかさ、濡れたタオルを額に置くのって、高熱で倒れた人の場合の処置じゃね?かがりたん、熱はないっぽいじゃん。これって気絶した人にも効果あるんかな?」

 

「し、仕方ないだろう。他に何をしていいのか分からないんだから」

 

俺もダルも、何をしていいのか分からずあたふたとしてしまっていた。とはいえ、かがりを病院に連れて行くのはまずい。身分証明が何もできないのだ。

 

「……ママ」

 

ぽつりと、かがりが呟いた。

 

「今、ママって聞こえたお!」

 

かがりの口元に耳を近づける。

 

「イヤ……ママ……行かないでっ!」

 

突然、かがりがガバッと跳ね起きた。

 

ものすごい勢いでかがりの頭が俺に迫る。

 

ゴツッ、と鈍い音が響いた。

 

「うぉっ!」

 

「痛っっ!」

 

ダルは躱したが、俺はかがりに盛大な頭突きを喰らってしまった。

 

「か、かがりたん!大丈夫?」

 

頭突きの勢いそのままに、後ろに倒れこんだ俺には目もくれず、ダルはかがりの方を心配する。

 

「……あれ?岡部さん?」

 

かがりが頭を押さえながら、倒れている俺を見る。

 

「岡部さん、どうして倒れているんですか?ってあれ?私、どうしてソファで……」

 

「っ………」

 

あまりの痛みに俺は立ち上がれないでいる。たんこぶになってしまうかもしれない。だが、かがりは痛がる様子もない。

 

「かがりたん、頭は大丈夫なん?オカリンに超ヘッドバットかましてたけど…」

 

「へ、へっどばっと?」

 

何を言われているのか理解できていない様子だったが、かがりはなんとなく自分の頭を押さえた。

 

「も、もしかして、頭突き…しちゃいました?私、石頭だから……」

 

「ってボクのバカ!これはかがりたんとのラッキースケベのチャンスを逃したんだお!」

 

ひとりでテンションを上げるダルに、若干引き気味のかがり。

 

「…かがり。大丈夫か?」

 

ようやく痛みが引いてきた俺は、かがりの前にしゃがみ込む。

 

「えっと、私……寝てたんですか?」

 

「覚えてないのか?」

 

「ラボに来て、まゆ氏を見た途端、気を失ったんだお」

 

「まゆりさんを…?」

 

ここで俺はかがりの口調の変化に気付いた。変化、というよりも以前の口調に戻った、というべきか。未来の記憶がないから、こうよそよそしくなってしまうのだろう。

 

「君は、まゆりが口ずさんでいた歌を知っているようだった」

 

「歌……」

 

まゆりが歌っていた歌。俺もあの歌を知っている気がする。

 

「あっ!そうです。あの歌!私あの歌知ってるんです!どこかで聞いたことあって……ずっとずっと昔、子供の頃に!」

 

「おお、ktkr!これ、マジで記憶回復フラグなんじゃね⁉」

 

「まゆりさんは?まゆりさんはどこに⁉あの歌のこと、教えてもらわなきゃ!」

 

かがりは焦ったようにラボの中を見渡した。

 

「まゆりはメイクイーンのバイトがあて、君と入れ違いに出て行ったよ」

 

「かがりたんのこと、すごく心配してた」

 

「そう、ですか……」

 

目に見えてしょんぼりしている。歌の事もそうだが、まゆりがいない、ということに落ち込んでいるようにも見えた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。