STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「あれ、スズさんの自転車がないね」
「おかしいな。出る時にはあったんだが…」
ブラウン管工房の中を覗こうとしたら、タイミング良く天王寺が出て来た。
「おう。嬢ちゃんたちか。何か用か?」
正直なところ、天王寺に顔を合わせるのは気まずい。
この世界線では、ラボ襲撃について俺は説明していないことになっている。それを理由に俺たちを疑って、何かを仕掛けて来るかもしれない。警戒したところで、この人の身体能力には手も足も出ないだろうが。
「店長さん。スズさんはいませんか?さっきまでお店にいてたと思うんですけど」
俺が天王寺に苦手意識を持っているのを知っているまゆりは、俺の代わりにそう聞いてくれた。
「ああ。あいつなら、今日は上がったぜ。午後から用事があるとかでな、いつになく真面目な顔して出かけて行った」
「用事かぁ。スズさん、何しに行ったのかなぁ」
「何の用事かは聞いてねえな。バイトのプライベートまで詮索するつもりもねえしよ」
「店長さん。ありがとうございました」
「おう。嬢ちゃん。また綯と遊んでやってくれるとありがてぇ。なんか俺に内緒で買い物に行きたいみてえなんだ」
「店長さんに内緒で?」
「反抗期ってやつなのかねぇ…」
こんなゴツイ男が父親だと、綯も苦労しているはずだ。そこらのヤクザの方が可愛く見える。
「何が欲しいのか聞いても教えてくれねえしよ。嬢ちゃん。金はいくらでも渡すから、綯が欲しがってるものを一緒に買ってきてやってくれねえか?」
「りょーかいなのです!でも、綯ちゃん、何が欲しいんだろう?」
落ち込んだ顔を見せて、天王寺は店に戻って行った。
裏の顔はあるが、子煩悩なのは間違いない。
「スズさん、どこ行ったのかなぁ」
「用事って、なんでしょうね」
何か深刻なものでなければいいんだが。
ひとまず、俺はラインで鈴羽に連絡を取ってみる事にした。
「………ゴーゴーカレー?」
「オカリン?カレーがどうしたの?お腹減った?」
昼のピークも少し過ぎている。遅めの昼食でも食べているんだろうか。それが大事な用事、なのか?
「とにかく行ってみよう」
「いやぁ、おみごとです。ゴーゴーカレー秋葉原店、今月の大食い大会覇者は——」
店内に足を踏み入れると、店員が小さなマイクを手に、何かを話していた。
「お店史上初の3連覇!『静かなる殺戮者』さんです!」
拍手と歓声が沸き上がる。
どうやらカレーの大食い大会が開かれているらしい。鈴羽もこれに参加していたのだろうか。
遠目から、人ごみの中心に目を向ける。するとそこには——。
「…………」
気まずそうな顔の鈴羽が立っていた。
「あれ、鈴羽さん……ですよね?」
「そのよう…だな」
ゴーゴーカレーと言えば、デカ盛りメニューで有名なカレーチェーン店だ。大食いに命を懸けた連中が集うことで有名だが。
「優勝した『静かなる殺戮者』さん、おめでとうございます!」
それに、静かなる殺戮者ってなんだ?こいつ、もしかして厨二病か?
「スズさんすごいね~」
鈴羽が言っていた用事とは、このことだったのだろうか。3連覇と言っていたし、この店の常連なのだろう。
鈴羽は観衆の中をかき分けて出口の方へ歩いてきた。そこで俺たちを見つけて、驚いた顔を見せた。
「あれ?3人ともどうしたの?」
「ごめん。さっきは大会の直前だったから、そっけない返事しちゃった」
「すごいね~。あんな大皿のカレーをぺろりと食べちゃうなんて」
「食べられるものは食べられるときに食べる。戦場で生き残るために必要な素養だよ」
「せ、戦場?」
かがりが目を丸くしている。
「鈴羽さん、今戦場って言いませんでしたか?」
「…気にしない方がいいと思う」
「おじさん、それで、かがりの記憶の手がかりって?」
俺はこれまでの経緯を説明した。
「ええ?あたしの歌?聞こえてたの?もう、言ってよまゆねえさん」
「スズさんが歌ってるの、すごくかわいかったから。教えたらやめちゃうかなと思って黙ってましたー」
「いじわるだな……」
「それで、その歌はどこで知ったんだ?」
「母さんだよ。母さんが歌ってたんだ」
「由季さんが?」
言った瞬間に、しまったと思った。
「え、由季さん?」
やはりかがりが驚いた顔をしている。
「鈴羽さんのお母様も、由季さんとおっしゃるんですか?」
「あ!」
まゆりと鈴羽が揃って目を見開いた。
これはまずい。ふたりが何かを言う前に、なんとかしなければ。
「あ、いや、あだ名が『母さん』なんだ。ほら、あの人、世話好きって言うか、母親みたいな存在だからな」
「う、うん、あたしも由季さんにはよく世話になってるからさ。ついあだ名で呼んじゃうんだよね」
「ほえ~。うん。優しそうな方ですよね」
「あ、はは……由季さんも喜ぶよ」
鈴羽が誤魔化しつつ笑うと、俺の腕を掴んでまゆりとかがりから少し距離を取った。