STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「おじさん。別に母さんのことって隠さなくてもいいんじゃない?」
「記憶が戻らない可能性もあるんだから、言わない方が賢明だと思うぞ?」
「そ、そうか……。でも、あたしとしては、それは避けたい結末ではあるけど」
なんとなくだが、そうはならないのではないかと俺は思っている。
確証があるわけではないが、かがりは記憶を取り戻す。そんな気がしている。
「それで、その歌を由季さんから教わったっていうのは、未来での話なんだよな?」
「もちろん。母さんが料理を作りながらよく歌ってて、自然に覚えたんだ」
混乱してきた。つまり、どういうことになるんだ?
「子供の頃のかがりは、鈴羽か由季さんからその歌を教わったということか?」
「それはないよ。かがりがまゆねえさんの養子になったのは、母さんが死んだ後のことだから」
かがりは6歳の頃——2032年に養子になったらしいから、由季さんが亡くなるのはその年までのことのようだ。俺が死ぬとされているのが2025年。俺の死から数年の間に、ということになるのか。
「あたしも、人前で歌った事なんてないんだ。かがりに聞かせた事もない。あの頃は生きるのに精いっぱいで、そんな心の余裕なんてなかったからね。無意識に口ずさんでいるなんて、自分でも知らなかったくらいなんだ。かがりがこの歌を子供の頃に覚えたんだったら、それはまゆねえさんから教わったんだと思うよ」
「そうか……」
であれば、かがりはまゆりから教わり、まゆりは鈴羽が口ずさんでいたのを覚え、鈴羽は母である由季さんから教わったことになる。
「なら、次は由季さんに当たってみるか。なんだか伝言ゲームみたいになってきたな」
それでも根気よく調べていけばいずれは真相に辿り着くだろう。
「悪いけど、あたしはこれから用事があるか、付き合えそうにないな」
「用事?カレーの大食い大会じゃなかったのか?」
「そ、それは毎月開催されているから出ているだけなんだ。今日は別の用事があったから、大会に出るのも見送ろうかと思っていたんだけど…」
鈴羽は少し恥ずかしそうに頬を赤らめた。
「よっぽどカレーが好きなんだな。なんだったら今度、連れて行ってやろうか?」
鈴羽がこの時代に来てから、こんなことを話したことは一度もない。俺がタイムマシンに乗る事を拒否し続けているのだから、当然と言えば当然だが。今はそういうことは抜きにして、純粋に鈴羽が好きなら連れて行ってやりたいと思ったのだ。
「え、いいよ。父さんからお小遣いはもらってるし」
「遠慮しなくていいぞ。カレーくらいならお安い御用だ」
「……うん。ありがとう」
結局、別の用事とは何なのか、聞きそびれてしまった。
鈴羽が嬉しそうな顔をしていたから、それはそれで良しとしよう。
「と、いうわけなんだ」
俺はふたりのところに戻ると、鈴羽から聞いたことを話した。
もちろん、未来の話は出来ないから適当に誤魔化したが。
「そっか~。じゃあ次は由季さんだね」
「まゆり、連絡を取ってもらっていいか?」
「うん。わかった~」
まゆりはスマホを取り出すと、由季さんにかけた。
「……出ないなぁ」
結局、由季さんは電話に出ず、まゆりはラインを送っておくことにした。
「これでOKだよ~」
「なんだか、大事になってしまってすいません」
「気にしなくていいよぉ~。それにね、まゆしぃはこうしてかがりさんとお散歩できて楽しいのです」
「…ありがとう。私もまゆりさんとお話ししながら歩いていると、なんだかゆったりした気分になれるんです」
「あ、それ。まゆしぃも一緒だ~!」
「私たち、気が合うのかもしれませんね」
「えっへへ~。嬉しいなぁ」
ダルがいれば、百合展開ktkr!とおおはしゃぎしそうだ。
そういえば、ダルはやたらとめかしこんで出て行ったが、どうしているんだろうか。いかがわしい用事…にしては着飾っていたような気がする。あの冬でもシャツ1枚に、サンダルを履いているダルが、だ。
「あ、由季さんから返事来たよ。今用事があって出てるみたい。あとでラボに来てくれるって」
「そうなのか。じゃあ一旦ラボに戻るか。由季さんが来るのを待とう」