STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「ほらほら、橋田さん。口の端にトマトついてますよ。拭いてあげますね」
「いいいいやいやいやいや。大丈夫大丈夫、じじじじじ自分で拭くから」
「でも、いつもハンカチ持ってないじゃないですか。ほら、こっちに顔向けてください」
「ぼぼぼぼぼボクの体液がついたら、阿万音氏のハンカチが汚れててててしましましましましましましま」
「汚いなんて思ったりしませんよ」
「そ、そうですか?」
「はい、拭きますよー」
「ああ~~っ……」
……さっきの言葉に自信がなくなってきた。
「何やってんだあいつ…」
「おじさん。本当に大丈夫かな……?」
由季さんの方は、ダルに対してまんざらでもない様子だ。だというのに、ダルは緊張しすぎてカチコチになっている。
「だ、ダメかもしれないな…」
そんな俺と鈴羽の心配をよそに、お互いにクレープを食べさせ合っていたまゆりとかがりがこちらを向く。
「あ~。ダルくんと由季さん。仲良さそうでうらやましいなぁ」
「お似合いですね、あのおふたり」
「……そうか?」
「そうだよ!」
「そうですよ!」
……よく分からない。
「いいなぁ。幸せそうだなぁ」
乙女ふたりには、何か感じるところがあるのだろう。
「そういえば、オカリンは何も食べないの?」
「え?あ…いや。俺はいいよ」
かがりと一緒にカップ麺を食べた、というのもあるが、甘ったるそうなクレープやパンケーキを前に、食欲が失せてしまった。
「わぁ。スズさんのもおいしそうだねぇ」
「欲しいんだったらまゆねえさんにあげるよ」
「え、いいの?えへへ~。じゃあ遠慮なくいただいちゃうのです♪」
今度は3人での食べさせ合いが始まった。俺は注文していたホットコーヒーをすする。
ダルの態度に呆れながらも、鈴羽は笑顔だった。未来でもきっと、ダルは由季さんの尻に敷かれていたのだろう。
「はい、オカリン。オカリンにも一口食べさせてあげるのです」
と、突然クレープを口元に差し出された。
「え、いや…だから俺は…」
「オカリンが奢ってくれたんだから、遠慮せずに食べるのです!ってあっ!」
テーブルの対岸から手を伸ばすまゆりが、バランスを崩し、クレープを手から離してしまった。
「ちょ…おい!」
まだ半分以上も残っているクレープを落としてしまわないように、俺は必至に身体を動かす。危うく地面に落ちそうになる寸前でキャッチできた。だが。
「うわっ!」
そのままバランスを崩し、俺は何もないところで転んでしまった。
座っていた椅子を巻き込んで、派手な音が響く。周りの客がジロジロと見てくる。
その結果——。
「岡部さんじゃないですか」
「ぬぁっ!おおおお、オカリン!なぜここに⁉」
……見つかってしまった。
「って、まゆりちゃんにかがりさんに、鈴羽さんまでっ⁉」
「あ…ははは…」
ダルと由季さんに見つかってしまった俺たちは、これまでの経緯を説明した。
「も~う!声をかけてくれればよかったじゃないですか!」
まゆりとかがり、そして鈴羽が並んで由季さんに頭を下げる。
「えへへ~、ごめんなさい」
「お邪魔しちゃ悪いかな、と思って……」
「あ、いや……あははは…」
「ずっと見られてたことの方が恥ずかしいですよ~!」
プリプリと怒る由季さんとは対照的に、ダルは賢者みたいな顔で黙っている。まゆりたちがダルにも謝るが、これといった反応を見せない。
「おい、ダル……」
さすがに悪いと思った俺は、ダルの手を掴み、皆から少し距離を取る。
「黙って見ていたことは悪かったが、まゆりたちも謝ってるんだ。お前からも何か言ってやれよ」
「…………」
デレデレな顔を俺たちに見られて、心が折れたのかもしれない。
「お、おいダル!」
「オカリンには、デートの瞬間をまじまじと見られる恥ずかしさなんて分かんないお」
「それはそうだが…」
「しかも、娘にまで見られるとか!こういうことされると思って、オカリン達には何も言ってなかったのに。クッソー鈴羽め。オカリンたちに知らせたな!」
「あ、いや。鈴羽とはたまたまここで会ったんだ。だから別に俺たちは何も聞いてないぞ」
「…………」
もうダルは何も言ってくれなかった。
「あの、岡部さん…」
「あ、すまないな。こんなことになってしまって…」
「いえ、それはいいんですけど…」
「だ、ダルのことは気にしないでくれ。俺たちに見られて緊張してしまっているだけなんだ。由季さんとのデートは楽しかったみたいだぞ」
「そ、そうですか?だったらよかったです」
あんなにガチガチに緊張されてしまうと、楽しくないのかと不安になるのも当然だ。