STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「それで、由季さん。あの歌のことなんだが…」
「あ、はい」
「どこで知ったのか、覚えてないか?」
「覚えてますよ。最近のことなので」
なんとか軌道修正は出来た。せっかくのデートを犠牲にしてしまってダルには悪いが、今回は目を瞑ってもらおう。これまでにも何度かデートはしているようだし。また次の機会にうまく立ち回ってくれ。
「私、お菓子教室でバイトをしてるんです。行使の先生の補佐役なんですけど。ほら、私、お菓子作るの好きだから。まだまだ修行中なんですけどね」
「由季さんが作るお菓子は、ものすごーく美味しいんだよ!」
「そうなんですか⁉」
「へぇ……」
「今度、かがりさんも鈴羽さんも、一緒に作ろう、ね?」
「はい、ぜひ!」
「あ、あたしは別に…」
由季さんと関わるのをあからさまに避けようとする鈴羽。俺は他の人たちに見られないように、鈴羽の脚を蹴る。
「っ……」
鈴羽も気づかれないように俺を睨んでくる。刺すような冷たい視線に俺は震えそうになるが、なんとか負けじと睨み返す。
「鈴羽さん?」
「じゃ、じゃあ…あたしもお願いしようかな…」
引き下がらない俺に観念したのか、鈴羽は顔を赤くしながらそう言った。
「うん。鈴羽さんも来てくれると嬉しいな」
鈴羽の返事に満足したのか、由季さんも嬉しそうに笑った。
と、俺はここで話題を元に戻した。このまま脱線しそうだったからな。
「そのお菓子教室と歌に、どんな関係が?」
「あ、そうそう。教室に通っている生徒さんの一人が、調理の間、その歌をいつも口ずさんでて。本人は無意識みたいなんですけど、それを歌ってる時はとても幸せそうな顔をされていて。私も、いつのまにか覚えちゃいました」
「その生徒は、由季さんの知り合いなのか?たとえば、俺の知っている人だったりしないか?」
「うーん。それはないと思います。割とお年を召している女性なので」
………ここまで伝言ゲームが続いていたのに、突然無関係な人が現れてしまった。
実はありふれた歌で、未来のかがりも誰かが適当に歌っていたものを覚えてしまっただけ……という可能性も出て来たな…。
いや、結論を出すのはまだ早い。
「ひとまず、その生徒さんに話を聞いてみよう。由季さん、すまないが、その人に連絡を取ってもらえないかな。生徒の個人情報だったら、俺たちに教えるわけにもいかないだろうし」
「別に構わないですよ?教室といっても、そんな大げさなものじゃないですから。その方のケータイのメアドも聞いてますし、よくお話もしますから」
由季さんはポーチからスマホを取り出し、操作を始めた。住所録を見ているようだ。
「ええと……あ、あったあった。この人です」
由季さんがスマホをこちらに差し出してくる。
知らない人の名前を見てもしょうがないのだが、俺たちはなんとなくスマホの画面を覗き込んだ。
「……え?」
「……え?」
俺とまゆりが同時に首を傾げた。
「ええええ⁉」
「ええええ⁉」
ついに叫んだ俺たちに、一同は揃って驚いた。
「え、何?」
「そ、その名前!オカリンのお母さんの名前だよ!」
間違いない。そこに書かれていたのは、俺のおふくろの名前だった。