STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
2011年1月16日(日)
「雨、降ってきちゃいそうだねぇ」
「私、傘持ってきてないんですよね」
「まゆしぃもだよ~」
俺も雨が降っていない時に傘を持ち歩く習慣はない。つまり、誰も傘を持ってきていないのだ。
「雨が降り出す前に切り上げるようにしよう」
「はーい」
「おばあちゃん、オカリンが来てくれて喜ぶだろうな」
「…そうだな」
「それに、今日はかがりさんも来てくれたし。まゆしぃの素敵なお友達をおばあちゃんに紹介できるのが楽しみなのです♪」
俺たちは霊園に到着した。空を覆う一面の雲は、更に黒さを増して、いつ降り出してもおかしくないように見えた。
3人で墓掃除を済ませ、それぞれひとりずつ墓前で手を合わせた後は、まゆりだけがお墓の前に座り込んで、ずっと祖母に話しかけていた。
俺とかがりは、少し離れた場所で、そんなまゆりの様子を眺めていた。
「それでね、かがりさんが驚いた顔で入って来て、バターンって、気絶しちゃったんだ。もうびっくりしたよ~」
まゆりはかがりのことを報告している。
「岡部さん。あの……」
かがりが困ったように俺に耳打ちしてきた。
「ああ。まゆりのことなら気にしないでくれ。あれは儀式みたいなものなんだ」
「儀式…?」
「ああ。まゆりはおばあちゃん子でさ、そのおばあちゃんが亡くなった時には、魂が抜けたみたいになってたんだ。半年くらい誰とも口をきかずに、毎日ここに来ては、一日中ぼんやり立ってた。……まるで、自分もおばあちゃんのところに行ければいいのにって、祈っているように見えた」
「それを、岡部さんが連れ戻したんですよね?」
「っ!……どうしてそれを⁉」
「えへへ。まゆりさんから聞いちゃいました」
「あいつめ……」
「いいじゃないですか。カッコイイですよ。マッドサイエンティストの鳳凰院凶真さん」
「やめてくれ……あ、あの時は必死だったんだ」
まゆりが救われたというのなら、正解だったのかもしれない。だが、恥ずかしい真似をしたのは間違いない。
俺はあの時、なんとかまゆりの魂を引き留めようとしたんだ。
エンジェルラダー。その光に手を伸ばしたまゆりが、おばあさんの元へと連れて行かれる。そんな気がして。
『連れてなんて行かせない!ま、まゆりは、俺の人質だ。人体実験の生贄なんだ!ど、どこにも逃がさないからな。ハハッ、フハハハ!』
『そっかぁ……まゆしぃは人質なんだね。じゃあ、しょうがないね。えへへ……』
「ううん。とても素敵なお話だと思います」
「そ、そうかな…?」
「そうですよ」
まゆりを、縛り付けてしまってはいないだろうか。重荷に、感じさせてしまってはいないだろうか。
「…………」
「あっ!降ってきました!」
見上げると、頬にポツッと雨粒を感じた。
すぐにパラパラと冷たい雫が降り始めた。
「こんなに早く降り始めるとは思いませんでしたね……どうします?」
まだ来たばかりで何もしていない。帰るにしてももう少し調べてからにしたい。
「一旦、雨宿りできる場所を探そう。コンビニで傘を買ってもいいし」
「分かりました。まゆりさん、一度駅に戻りましょう!」
「え?わぁ、雨だー!」
話すのに夢中で、雨が降って来たことにも気づいていなかったようだ。
急いで立ち上がると、三人で駅に向かって走り出す。
「オカリン!急いで~!」
「岡部さん!ずぶ濡れになっちゃいますよ!」
「ま、待て……待ってくれ!」
俺が最初に走り出したはずなのに、気づけばふたりがかなり前にいる。
身体能力にここまで差があるとは……。
だが、気づけば本降りになっていて、もう全身びしょ濡れだ。急いでも変わらない気がしてきた。
「これじゃあシャワー浴びないと風邪引いちゃうね。あ、そうだ!かがりさん、まゆしぃのお家来る?一緒にシャワー浴びようよ!」
と、後ろを振り向いたまゆりが立ち止まったのが見えた。
「あれ?オカリン、かがりさんは?」
「ん?俺の先を走って……」
まゆりは俺の10メートルほど先を走っていた。その間を走っていたはずの、かがりの姿が見当たらない。
「かがり⁉」
足を止めて辺りを見回すと、少し離れた場所でかがりはぼんやりとした顔で立っていた。
どこか遠くを見つめているような感じだ。
「かがりさん?どうしたの?」
「…………」
まゆりが呼びかけても返事はない。
「………聞こえる」
虚ろな声。まるでさっきまでのかがりとは別人のような、そんな声。
「聞こえるって、何が?」
「………声。声が、聞こえる」
「かがり、さん?」
「神様の声………私、行かなきゃ」
突然、かがりは足下の水たまりを蹴って、そのまま車道へと飛び出した。
「かがりさん!」
そこに、トラックが走って来た。
派手なクラクションと共に、トラックは急ブレーキをかける。
「かがりさん!逃げてっ!」
まゆりが絶叫する。
何かを考えるよりも早く、俺の身体は勝手に動いていた。
今にも車道に出ようとするまゆりの肩を無理矢理に引っ張って、地面に引き倒す。そしてその勢いを借りて、俺自身が車道に飛び出した。
スローモーションになる。
「オカリン!」
まゆりが俺の名を叫んでいたが、それさえも耳に入らない。
大丈夫。俺は2025年まで死なない。
そんなことが頭によぎっていた。