STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
2011年2月2日(木)
「わざわざ悪いな。鈴羽」
「…どうしたの、おじさん。こんなところに呼び出して」
俺はラジ館の屋上に来ていた。そしてそこに鈴羽を呼び出したのだ。
「かがりはラボにいたか?」
「うん。まゆねえさんにべったりだよ。まゆねえさんも嬉しそうにしてた」
そう言う鈴羽の顔も綻んでいる。ずっと行方不明になっていたかがりが、記憶を取り戻した状態でまゆりと一緒にいることが嬉しいのだろう。1998年に、かがりとはぐれてしまったことに、鈴羽はずいぶんと責任を感じているようだった。ようやく肩の荷が下りた、という感じなのかもしれない。
だが、そんな喜びをかみしめているかがりには、これからする話は少々酷なものになってしまう。だから鈴羽だけを呼び出したんだ。
「鈴羽。今までずっと、すまなかった」
「…何のこと?」
「俺が諦めてしまったせいで、お前にはさんざん迷惑をかけた」
「……別に、あたしはそんな。でも、おじさんはかがりの記憶を取り戻すために協力してくれた。それには感謝してるんだ。」
「せめてもの罪滅ぼしになれば、と思ってたんだ。俺に礼を言う必要はない」
「…………」
α世界線で、紅莉栖に言われたこと。そして、目の当たりにしたかがりのこと。
俺はもう、このままでいたくない。このままβ世界線の未来を受け入れてしまっても、誰も幸せにはなれない。だったら。
「ずっと悩んできた。でも、今なら言える。俺は、シュタインズゲートを目指したい」
「っ!お、おじさん……」
「あの日取れなかった、お前の手をもう一度、取りたいんだ」
「ど、どうしたのさ……あんなに過去に行くのは嫌がって……」
「ああ。今でも、紅莉栖を救えるなんて、救ってやるなんて、胸を張って言えるほどの自信はない。でも、かがりを見て思ったんだ。このままじゃいけないって。だから……っ!」
「あ、ありがとう。おじさん。あたし、おじさんがそう言ってくれてすごくうれしいよ……」
俺は鈴羽に手を差し出した。すると、鈴羽はガシッと、俺の手を掴んだ。
「よろしく頼む」
「うん……っ!こちらこそ!」
「それで、具体的な話なんだが……」
ここに来るまでに、俺はこれまでの世界線のことを考えていた。そして、一つの答えに辿り着いた。
「もし、このまま去年の7月28日に跳んでも、紅莉栖を救うことはできない、というのが俺の結論だ」
俺の言葉に鈴羽が目を見開いた。
「別に、タイムマシンに乗りたくないって言ってるんじゃないぞ。そうじゃなくてだな。もう一度あの日に行っても、間違いなく紅莉栖は死ぬはずなんだ」
「そ、その根拠は…?」
「おそらく、タイムマシン論文だ」
「タイムマシン……論文?」
「中鉢がロシアに亡命したことで、中鉢論文はロシアが手に入れた。これについては今のところどうしようもない。だが、それ以外にも紅莉栖が残した遺産がある。それらを全てどうにかしない限り、紅莉栖を助けることはできないはずだ」
「ロシア以外にも、タイムマシンを開発できる可能性があるから……だね」
第三次世界大戦が起こる原因はタイムマシンの開発競争だ。タイムマシンが開発される可能性を完全に潰さない限り、シュタインズゲートに到達することはできないだろう。
「だが、俺たちはその残された論文のうち、いくつかは手に入れてる」
「牧瀬紅莉栖のノートPCとハードディスク……」
「そうだ。そしてそれ以外にも『Amadeus』がある。それと…かがりだ」
「その『Amadeus』っていうのは比屋定さんが研究している人工知能だろ?でも、かがりって、どういうこと?」
「まず『Amadeus』だが、あれは人間の記憶をベースに動く人工知能だ。もちろん、紅莉栖の記憶が使われている。あの中には間違いなく、タイムマシンの理論が入っている。そしてかがりだが……」
俺はここまでに経験してきた世界線のことを説明した。
「かがりの中に、牧瀬紅莉栖の記憶が……」
「俺はそれを上書きすることでこの世界線へと来た。だからこの世界線のかがりには、紅莉栖の記憶は入っていない。それに、全ての記憶を思い出すことができたわけだしな」
「……じゃあそれらの論文のうち、3つは解決済みってことだね」
「ああ。残りは『Amadeus』だ」
「それじゃあ、今からその『Amadeus』とやらを削除すればいいってこと?父さんに頼めば、データごと削除できると思うけど」
「いや、そう簡単ではないはずだ。今から『Amadeus』を削除しても、おそらく無駄だ」
「というと?」
「俺は1月1日に『Amadeus』が何者かに乗っ取られるまで、テスターをしていた。かがりのことが連中にバレてしまったのも、俺がテスターをしていたせいだ。今になって削除したところで、かがりが狙われた過去は変えられない。おそらくだが、そもそもかがりが狙われない世界線に辿り着く必要がある」
「…じゃあ、今の世界線から、別の世界線に変動させる必要があるってことだね」
「その通りだ」